第10話

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「園田警部、ホトケはどうしますか」

「生ものは収集班に回収させて。清掃班はこの神社の入念なクリーニング。捜査班はマスコミ対策、情報統制出来るかたちに持って行って。お願い」

 ずたずたずたずた、と革靴の音が聞こえてくる。階段を大勢で上がってきたと思ったら、どうやら警察のひとたちのようだ。

 ぼぉ、っとする頭のまま倒れて動けないでいると、僕の至近距離で足を止めて、顔を覗き込むひとがいる。

「るるせくんじゃないか。ずいぶんとやられたもんだな。園田くーん。僕の友人が倒れているよ。まだ生きてる。〈鵜呑岬うのみさき〉まで連れて行ってくれないか、僕と一緒に」

「彼は探偵のご友人で?」

「僕は父と違って探偵じゃないよ、園田くん」

 この優男な声はアシェラさんだ。園田って女性は、よくアシェラさんの話に出てくる園田乙女警部だな。僕もとある事件で少しだけお世話になった。警視庁犯罪組織対策課第四課の。県警じゃなくて警視庁が出てくるということはおおごとなんだな、こりゃ。

 園田警部は僕のことを覚えていないみたいだ。それでいい。

「探偵、ご友人は病院へ運んだ方が良いのでは」

「回復術式がある」

「いつも思うのですが、探偵。それはどういう手品で治るのでしょうか」

「〈因果律を利用している、と意識する内面〉を術式の〈回路〉で変換して現実界に波及させるのさ」

「具体t的には?」

「今日は絡むねぇ、園田くん」

「茨城北部くんだりまで来て修験道者一派の惨殺体が四体もあれば、気にもなります。今回はそういう類いの件ですからね」

「可逆圧縮と非可逆圧縮って知っているかい」

「いえ、知りません」

「AをBに圧縮する場合。圧縮後にBからAに戻すとき、BからAに元通りになるのが〈可逆圧縮〉と呼ばれる。一方、Bに変換したときに完全な復元性がなく、BからAに完全には戻せないのが〈非可逆圧縮〉。時の流れは基本、非可逆だ。時の流れが非可逆なんだから、物質も元には戻せないね。それが、因果の〈因〉であり、結果である〈果〉なんだ。でも、回復術式は、因と果を結ぶ〈線〉を可逆的にして〈遡行させる〉ことが出来る」

「それが……〈神の回路〉ですか」

「まー、なんでも治せるかというと無理なんだけど。そこで狸寝入りしているるるせくんの傷くらいなら僕は治せるよ」

「頼もしい限りでですね、探偵」

「だから僕の父が探偵であって僕は探偵じゃないよ」

「この場で治せるのですか」

「魔方陣描かないと無理だねぇ。民宿〈鵜呑岬〉に着いてからだね。女将のやくしまるななおさんに場を用意してもらった方がいいな。ここに魔方陣を描くと厄介……だろ?」

「ええ、そうですね」

「園田くんも同行してくれないか」

「言われるまでもなく。探偵とご友人が滞在する場所を見ておくのも捜査に必要不可欠かと。目で確かめておきます」

「じゃ、この丸太みたく倒れている粗大ゴミの両足を掴んでくれないか。僕は頭の方から持ってパトカーに乗せるよ」

「今回も、カツ丼の価値すらないような事件であれば良いのですが」

「どうしようもないものがなんとかなる。僕はいつもそう思って活動しているよ」

「あなたらしいです、蘆屋アシェラ探偵」


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