第16話

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 日傘をさして歩くつばめちゃん。

 その半歩うしろをついて歩く僕。

 マークシティから抜けて、道玄坂の上の方に着いて、僕らは歩道を歩いている。

 てっきり109にでも行くのかと思ったら、

「見せたいものがあるわ」

 と、つばめちゃんは言う。

 いつも通り、嫌な予感がする。

 だが僕は、その嫌な予感のその中身を見なくてならない気がしていたのだ。

 結果から言うと、僕のその〈予感〉は、当たっているのだった。

 外れればよかった、僕の〈予感〉なんて。

 だけど鴉坂つばめちゃんが電車の中で言っていたように、神様はいじわるで、庭似二把ちゃんは、運命にどうしようもなく翻弄されている女の子だった。

 それがわかる結果だったのだ、僕が見た光景は。

 つばめちゃんは、マークシティの反対側の歩道へ渡る。僕もついていく。

 そこは円山町だった。

 音楽と風俗とラブホテルの街。

 その雑多な道に、入っていく。

 女の子とそんなところを歩いているからって、期待はしない。

 それ以上に、嫌な予感がしていたからなのは、前述のとおりだ。

「早々に発見。時間帯は把握してたから、やっぱり、って感じね」

 つばめちゃんがあごで指さすその先を見ると、スーツを着たおっさんとラブホテルに入っていく庭似二把ちゃんの姿があった。

「るるせには刺激が強すぎた?」

「援助……交際?」

「これは〈パパ活〉っていうのよ」

「〈パパ活〉?」

「見て」

 言われたから見ると、二把ちゃんたちと少し遅れて、スーツを着た男性が一人でラブホに入っていく。

 さらに一分の時間差で、やはり男性が二把ちゃんたちと同じラブホテルに入っていく。

「説明。必要かしら」

「うぅ、聞きたくないけど、聞く」

「時間差のリーマンはもちろん二人で密会をするのではなく、二把ちゃんと、連れ立ったおっさんの二人と合流します」

「はぁ」

「〈パパ活〉の〈パパ〉が一人とは限らないってわけね。今回は三人同時にお相手するのね。もしかしたら〈秘密の撮影会〉をやっているかもね」

「…………」

「〈パパ活〉ってのは、るるせが言った通りの援助交際の変化形よ。お金を対価にもらって、デートしたりセックスしたりする」

 僕は頭が痛くなってきた。

「二把って娘は、ああ見えてメンヘラで恋愛アディクションになるタイプだから、骸川って男に対して、忠実なのね」

「骸川……。彼氏が二把ちゃんに〈パパ活〉させてるって言うのか」

「お金をピンハネもしてる」

「…………」

「そして、借金の返済が、身体でどうにかなると〈教え込まれてる〉のよ。それが……今の風花の苦悩の原因」

「どうすりゃいいんだろう」

「あら。わたしが嘘をついている可能性については考えないのかしら?」

「どうせこれから〈パパ活〉の証拠を僕に見せる地獄めぐりをするんでしょ」

「その通り。嫌かしら」

「最初からそういう趣旨で渋谷にやってきたんだね。地獄、見て回ろうか」

「うふふ。そう来なくちゃ」

「僕はだから女性が苦手なんだ……。だけど、同じ地獄なら!」

 僕は猛ダッシュする。ダッシュで二把ちゃんが入っていったラブホテルに突入した。当たって砕けろだ。僕に続けて入るつばめちゃん。なにがなにやら。だいたい僕はこういう場所に慣れてないし、シチュエーション的にも、慣れていない。

「どう解決する……?」

 自問自答したが、無駄だった。

 僕にとっては地獄に見えるであろう中へ、自ら足を踏み入れるしかないのだ。


 円山町。

 ラブホテルのロビー。

 うしろの方でつばめちゃんが、

「どの部屋にするー」

 と、部屋案内のパネルを見て言っているが、笑えない冗談だ。

「冗談、冗談」

 冗談は自覚しているらしい。それに続けてつばめちゃんは、

「どの部屋に入っていったか、わたしには〈わかる〉のよ。パネルを見ればね」

 と、胸を張って言った。

「んん?」

 咄嗟のことで、僕にはわからない。

「わたしが魔法少女なの、忘れたの?」

 ああ、鴉坂つばめは魔法少女、なのだった。

「じゃあ、西洋のお城風の部屋で!」

 一応、こっちも冗談を入れておく。

「ごめん、そういう気分じゃない」

 丁寧に返された。

「と。ギャグはそのくらいにして」

 僕は拳に力を入れる。

 つばめちゃんは、ふふん、と口笛でも吹きそうな調子で言う。

「どうせ女一人に対して男三名が同じ部屋に入ったら、規則違反よ。こっちが怒られる筋合いはなし」

 話は決まった。


 僕らは二把ちゃんのいる部屋に向かう!



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