第17話
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「三階にある一室のようね。305号室」
「魔法と一口に言うけど、これって〈イヌ〉の〈嗅覚〉だよね?」
咳ばらいを一つするつばめちゃん。
「わたしの〈追跡の術式〉をイヌの嗅覚って次に言ったらブッコロがす!」
「へいへい、わかりましたよー」
僕らは305号室の前に到着する。
針金のようなものをバッグから取り出すと解錠の作業をするつばめちゃん。
カチッと音がして、部屋は解錠される。
カード型のドアじゃなくてよかった。まあ、それでも突破できるだろうけど。
僕がドアを開けると、鼻を衝く黒い煙の臭い。センサーは反応しておらず、スプリンクラーは回っていない。
「ごほごほ、これ、どういうこと?」
僕が言うと後ろからため息の音。
「るるせくん。ドア閉めないと建物で騒ぎが起こるよ。とりあえず入ってからだ」
振り向くと、アシェラさん。尾行してきていたらしい。
となりには警察の制服を着た女性。ヨーヨーをしゅるる、っと伸ばしてからまた手に取る。
「園田乙女です。警視庁組織犯罪課第四課。今は探偵の知り合いとして来ています。任務とは……違うわね」
「は、はぁ」
「頷くのは良いから、これを被って潜入だ」
人数分用意されたファンシークマ型ガスマスクをかぶる。僕、つばめちゃん、園田さん。そして、アシェラさん。
突入して、ドアを閉める。
アシェラさんは、ドアの閉まった部屋の中で言う。
「煙を焚いて一酸化炭素中毒を引き起こし殺人を行うのは、一度目じゃないね? 逃げ方が君は上手いらしいね、骸川くん。いや、それも〈偽名〉だね」
普通のガスマスクをかぶった骸川と思しき人物が、荷物から財布の中身を抜き取っていた。
おっさんも二把ちゃんも、気を失っている。
「偽名? どういうことです、アシェラさん。部活で知り合ったって言ってましたけど」
僕が言うとアシェラさんは、
「どこまでひとの言ってることを真に受けているんだい。骸川と庭似二把は〈自殺サークル〉で知り合った。〈パパ活〉で金を稼いだのは、親への〈復讐〉の方がメイン」
「復讐?」
「庭似二把がメンヘラーだってこと、忘れてないだろ。親に恥をかかせるために、こういうことをした〈つもり〉だったのさ」
園田さんが言う。
「あなた、姿をここに現したのが運の尽きね。いつもなら、自殺現場に姿を見せるなんて〈危ない橋〉は渡らないのに」
ガスマスクの奥から、けらけら骸川……実際は違う名前らしいのだが……が、嗤う。
「好きになったから……かな」
骸川はあきらめ口調で嗤う。
「何件もの自殺教唆……連続集団自殺事件の件で、話を伺おうかしら」
園田乙女は凜とした口調で、骸川に同行を願う。
「わかりましたよ。……これで最後なのはわかっていたんだ。それにアンタ。成瀬川」
僕に向かって、言葉が放たれる。
「アンタのところに話をしに行ったのも、二把の〈希望だった〉んだ。意味、わかるな? 迷惑をかけたい相手だったんだ、お前が、二把にとってはな」
骸川は嗤い続ける。
「成瀬川に接触したら探偵が出てくるのはわかっていた。失敗することはわかっていた。だけどな、そこまでして二把が〈復讐したい相手〉だったんだよ!」
「…………」
園田さんがため息を吐くと、警察の方が数名、ドアを開けて部屋に入ってきた。
手錠をかけられる骸川……本名は知らないが……の姿。嗤いながら僕を睨み続けている。
救命措置が取られる、二把ちゃんたち。
僕は警察の方たちが動いているその場所で、立ち尽くすしかなかった。
つばめちゃんが、
「仕方ないよ」
と、ぼそりと言った。
それはあきらかに、……僕に対してなんかじゃなかった。
僕は無力で、バカだ。
アシェラさんはなにも言わず、園田さんたちの活躍を眺めていて、僕の方を決して見ようとはしなかった。
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