第19話 想い(sideヒバリ)
ユルは俺の腕の中で眠ると、俺の編み込まれた長い髪を掴む。
ユルが眠る時は、密かに寝顔を見ていたが、その時も俺の垂れ下がった髪を掴むユルは、無意識に俺を求めているのだろうと思っていた。
これがなければ、俺もユルのツガイになりたいなどと思わなかっただろう。
ユルに求められ、ユルが俺を好きだという声が、明らかに他の者に対するものと違っていた。
慣れることができないのも、俺から逃げようとするのも、全てが俺を好きだと言って誘っているようにしか思えないのだから、愛しいと思うのも仕方ないだろう。
尾羽を揺らしながら逃げ、俺が追ってきているかを何度も確認する姿も愛らしく、気をひこうとするように急に倒れて眠ってしまうのも、現実逃避だと分かっていても可愛いのだ。
そして何より、最近は俺を誘うようなフェロモンを放っているため、発情期がくる前にツガイになって俺の匂いを纏わせ、ユルに安心して発情期を迎えてほしかった。
だが、それと同時に俺一人では、今後のユルの発情期を支える事はできないと思っていた。
今のユルならまだ問題はないが、ユルは神獣としてはまだまだ未熟であり、魔力はどんどん増えていくだろう。
そうなれば、魔力量に応じた発情期という名の、魔力の発散が行われるため、俺一人では限界があるのだ。
ユルのツガイが例え魔王であっても、魔王一人では無理だろう。
それほどまでに、神がユルを愛しているのだから、厄介でしかない。
「それにしても、本当にヒバリさんは八重歯があるの?」
ユハクは疑わしげな目で俺を見つめる。
「ある……が、これは隠していた。俺が特別な理由に、この牙も関わっているからな」
ユルはよく見つけたな。
短く削って隠してたはずだけど……笑っても見えないんだけどな。
「ヒバリ殿、ユルをツガイにするのなら、シュッツ家は中立となる為、神殿に移ろうと思うが……本当にいいのか?」
「構わない。俺が許可するだけで、いつでも移れるからな。それよりも、ユルのツガイになる俺は、お義父さんと呼ぶべきかい?」
「いや、ルーフェンで構わない。こちらは年齢も立場も、本来ならヒバリ様と呼ぶべきだからな」
「なら、遠慮なくルーフェンと呼ばせてもらう。俺のことは好きに呼んでほしい」
敬称はユル以外には面倒だから、正直助かる。
ユルがいる手前、ルーフェンにだけは使っていたが、違和感しかないうえに、俺が敬称を使う度にエルフ達に笑われるからな。
「ヒバリ様、ユル様の側近として質問させていただきます。ヒバリ様はユル様のツガイ……というより、夫になるのでしょうか。同じ意味ではありますが、ユル様にとっては違いますよね?そうなると、ツガイはエルフでは無理なはずです」
この側近は本当に優秀で厄介だ。
ユルの側近として、今後付き合いがあると思うと……面倒だな。
まあ、ルーフェンに縛られてる状態なら、問題はないか。
それに、ユルが選んだ俺に下手な事をして、ユルの側近から外されても困るだろうからな。
「契約の話になると、夫婦関係の契約とツガイの契約は別物だ。ツガイは命の契約。つまり、ツガイのどちらかが死ねば、一緒に死ぬ事になる。これは魔族や魔物が、厳しい環境でツガイという裏切る事のない家族をつくり、群れをつくる事を目的とした生きる手段だ。命による契約なんて、これ以上ないほどの愛だろ?」
契約はエルフと精霊の間にもあるが、それは対価を必要とする協力関係に過ぎない。
しかし、エルフと精霊王の間にはツガイ契約が成り立つ。
そして稀に、エルフと精霊王の間には、精霊でもなければエルフでもない者が産まれるのだ。
「ヒバリ様はユル様とツガイ契約をできると?」
「できるかできないかで言えば、当然できる。ユルが本当に望めばな……俺はユルがツガイなら、全てを預けてもいいと思える。あとはユル次第だ」
俺が何者であるかは、ツガイ以外に言うつもりがないため、ツガイになれる事だけを伝えれば、ノヴァは不満を顔には出さずに、ニッコリと笑って頭を下げた。
どうやら、ノヴァは俺がユルの側近になる事は許さないが、ツガイになる分には問題ないようだ。
そしてそれはユハクもルーフェンも同じであり、ユハクはユルの兄として、ルーフェンはユルの父として、それぞれがユルの唯一の存在である事が重要らしい。
理解ができないな。
確かに、ユルの唯一にはなりたい。
けど、ユルのツガイになれるのならそんなものはどうでもいい。
ユルのツガイという立場以上に、唯一の立場に拘る事が、俺にはできない。
そうして、ユルが俺を選んだ事で誘惑する必要もなくなった精霊は、すぐに神殿まで繋げてくれたため、褒美の魔力を与えてから精霊門を出た。
空にある神殿は外界から目視する事はできず、精霊門がなければ出入りできないようになっている。
自然豊かな神殿では、エルフ達は木の上に住んでいるが、俺だけは白の塔に住んでいるため、ルーフェン達を他のエルフ達に任せ、俺は眠っているユルを塔の中に連れて行く。
「ユル……可愛い。俺の愛しい鳥」
自分のベッドにユルを下ろし、俺の髪を握るユルを抱きしめ、フニフニとした唇に口づけをした。
その瞬間、ユルはゆっくりと目を覚まし、寝ぼけた様子でふにゃりと笑った。
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