第14話 推し達
僕は、ノヴァとユハ兄さんを連れて屋敷を出てみた。
すると、魔物達は集まってくるものの、お座りをして待っていたり、お腹を見せて死を願う者がいた。
「あれ?意外と大丈夫だ。ノヴァとユハ兄さんがいるから?みんな、それぞれの望み通りに集まってる感じ」
するとそこに、ヒバリくんが笑顔で現れたため、僕はユハ兄さんの後ろに隠れた。
「ユル様が困らないよう、魔物達には知らせてあるから大丈夫」
「ひ、ひば……ヒバリくん」
「なんだい?ユル様」
「きょ、今日も……格好いい」
ヒバリくんは頻繁に会う事がないため、ノヴァのように耐性をつける事ができず、いまだに久しぶりに会えば緊張してしまう。
それほど僕の推しは格好良く、神出鬼没なところも好きで、心臓が高鳴るのだ。
「ハァハァ……苦しい。ユハ兄さん、ノヴァ、僕は大変だ」
「確かに大変だね。変態みたいになってるよ。可愛いし、ある意味危ないけど……ノヴァ、今のユヅは襲われない?」
「街へ行けば、確実に襲われます。ユル様、深呼吸しましょう」
あぁ……そんなノヴァも、ユハ兄さんも格好いい。
開眼しないで。
いや、してくれてもいいけど、開眼しなくても格好いいのに、僕の心臓が爆発しそうだよ。
「ユル様は相変わらずだな。可愛らしい。俺の顔がそんなに好きかい?」
「す、好き……でも顔だけじゃない。ヒバリくんは年齢不詳で、ニヤニヤしてるのがものすごくワルワル感。格好いい。強い。三つ編みも似合ってる。服も似合ってる。開眼は最高。優しくて僕に目線を合わせてくれるの、嬉しい。好き」
ユハ兄さんの背中に顔を押し付けながら、カタコトで告白すると、ヒバリくんの気配を近くに感じ、動けなくなる。
すると、僕の体が突然浮き、ヒバリくんに抱えられたのだ。
「確かに天使だ。愛らしい告白も、そこに恋愛感情がない事も、正直なところも、全てが可愛い」
あ……とうとう僕は死ぬのかもしれない。
心臓がもたないよ。
酸素も……深呼吸、深呼吸、落ち着け僕。
ノヴァの時だって頑張ったじゃないか。
ヒバリくんにだって慣れてみせろ!頑張れユル!
「私の時もそうでした。ヒバリ様にだけではないので、ユル様をこちらに渡してください」
「そんなに焦らなくても、推しとやらが増えただけだ」
「今の僕も、ユヅの推しに入ってるようだし、推しが増えてもユヅはノヴァを忘れたりはしないよ。まあ、僕としてはどっちでもいいけどね」
ノヴァは焦った様子だが、ユハ兄さんは珍しく冷静だ。
そして、ヒバリくんも僕を離す気がないようで、僕の頭を撫でてきたり、抱きしめたりしてくる。
「ユル様、まさか側近を増やすわけではないですよね」
「側近はノヴァだけでいい」
側近は増やす必要がないし、増やしたくないから安心してよ。
いくら推しでも、側近はいらないって事がノヴァで分かったんだ。
ありがとう、ノヴァ……だから、メンヘラっぽくならないでほしいです。
ユハ兄さんが普通な理由が、やっと分かった……兄はユハ兄さんだけだから、ユハ兄さんは大丈夫だったんだね。
「ユル様、こちらに来てくれますか?」
「行きたいけど、緊張で動けない」
安心した様子のノヴァは、僕が困っているところを助けてくれ、僕を抱えてくれる。
すると、次はヒバリくんがわざとらしく寂しそうに、眉を下げる。
「ユル様、俺にも慣れてほしいな。駄目かい?どうしたら慣れてくれる?」
うっ……推しが僕を求めてくれてる。
ワルワルが抜けてないのに、可愛い感じに見せるのはずるい!
僕はヒバリくんから目を逸らし、尾羽を揺らしながら翼を広げれば、耐えられずに飛んでしまった。
ノヴァの時もそうだったが、僕の体は勝手に推しから逃げてしまう。
自分を見られている恥ずかしさと、積極的に来られる事で、気持ちと心臓が追いつかなくなってしまうのだ。
僕が逃げれば、ユハ兄さんとノヴァは焦った様子で追いかけてくるが、それよりも精霊や魔物達が必死で僕を捕まえにやってくる。
ある意味自由がなくなっていく僕は、前世の方が自由だったのだと思いながら、キツネのような魔物にあっさり捕まってしまう。
「魔物まで格好いいなんて……うぅ、幸せで心臓が辛い」
「ユヅ、何を言ってるの?幸せが辛いなら、それは幸せとは言えないよ」
僕の元へきたユハ兄さんは、翼が動かないように僕を抱きしめてくる。
「違うんだ、ユハ兄さん。辛いのは、今にも止まりそうな僕の心臓。幸せを味わいたいのに、僕の心臓はバクバクしてて苦しい。魔物も推しになるとは思わなくて、僕はどうやって生きればいいのか分からない。みんな格好良すぎる」
「安心して、ユヅも可愛すぎるよ。いつだって、僕の心臓を止めようとしてるからね」
それは安心していいのか、ちょっと分からない。
ユハ兄さんも僕と一緒だから安心してって事かな?それなら安心はできないよ。
ユハ兄さんまで道連れにしようとは思ってないから、ドキドキ死するのは僕だけ。
だからどうか、今だけは開眼しないでほしい。
僕の心臓が本当に……そろそろ大変なんだ。
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