第13話 森



 森の一部となったシュッツ家には、現在魔物が集まっていた。

 なぜこうなったかと言えば、どうやら僕を見守っているエルフ達が、中立という立場を利用して、魔物達に声をかけてくれたらしい。

 それも、僕の護衛という名の、遊び相手や訓練相手になれ、という内容だったようで、元々僕のことが大好きな魔物達は、僕を見る為に屋敷の窓にへばりついているのだ。



 魔物達の声が……僕を好きすぎて、ちょっと怖い。

 確かに、僕は可愛い。

 それは認めるけど、僕を監視するのは良くないと思うんだ。

 しかも、僕が外に出れる状況じゃないのも問題だ!これはすごく問題だ!父様に抗議しなければ!



「父様!」



「どうした、ユル。今日も尾羽を揺らして嬉しそうだな。気に入ってくれたようで良かった」



「違う違う!僕、外に出られない」



「なぜだ?出たら良いだろう。ここはユルの森なんだ」



 出れないから言ってるのに……というか、なんでみんなは出れるの?魔物がいるのに、僕よりもみんなが普通に何事もなく出れるのはおかしい。



「僕も外に出たいけど、魔物が僕に押し寄せてくるから出られない。どの子が喋ってるのかも分からないから、いろんな言葉がごちゃごちゃしてるし」



「そうか、ユルは言葉も分かるから混乱するのか……ユルの言葉は魔物に通じるのか?」



「たぶん。僕のことをツガイにしようとした魔物がいたんだけど、その瞬間からその子が他の魔物にいじめられるようになったんだ。だから、僕がいじめを止めたんだけど、他の魔物も僕をツガイにしたかったみたいで、全員にツガイのお断りをしたら、落ち込みながらも理解はしてくれた」



「ユルの……ツガイ?……聞いてない」



「今初めて言ったもん。父様、僕はこう見えて魔物にモテモテらしい!魔物にも、僕の可愛さが分かるのかな」



「ユルは確かに可愛いが、綺麗な方だろう」



 そう言いながら、父様は僕の背後に目を向ける。

 するとその時、僕の肩に手が乗ってきた。



「ユヅ、ツガイだとか聞こえたけど……まさか魔王のツガイになるんじゃないよね?」



「違うよ、ユハ兄さん。それよりもユハ兄さんは、僕のことを可愛いか綺麗かで言ったらどっちだと思う?」



「ユヅは可愛いと思ってるんだよね?僕からしてみたら、天使には可愛いも綺麗も当てはまるからね……ユヅは天使という言葉がぴったりだよ」



 ユハ兄さんはそう言うと思った。

 神様にとられてしまうんじゃないかって、前世でも心配してたもんね。

 結果、とられたようになっちゃったけど……天使なのは赤ちゃんの頃だけだよ。

 確かに、赤ちゃんの時の僕は天使だった!でも、今は絶対に違う!僕にとっての天使は赤ちゃんのイメージだ。



「ユル、ユハクとノヴァを連れて行ったらどうだ?少しはユルから離れてくれるかもしれないぞ」



 それって、僕の監視が……まあいいや。

 どうせついて来ると思うし、他にもいるんだろうから、それなら僕が身動きとれるようにしてもらおう。

 もちろん、ユハ兄さんのことは僕が見るから、ユハ兄さんは安心して僕について来て……って、あれ?ユハ兄さん、前より目が見えない事に慣れてきてる?



 僕の肩にすんなり手を置いた事で、ユハ兄さんに目が見えるのかと訊いてみれば、ユハ兄さんは微妙そうな表情をする。



「見えているわけではないんだよ。ただ、魔力が見えるようになった。なんでも、王族にはエルフの血が流れているようでね……大昔のことすぎて、寿命も外見も今では普通の人間と変わらないようだけど、僕は違うようだね。神に会ってるから、というのもあるみたいだけど、エルフの血が濃いみたいなんだよ。だから、エルフに魔力視を教えてもらって、精霊の魔力も見えるようになった」



「魔力視ってなに?」



「魔力を見るだけ。今までも魔力を感じる事は多くてね。そのおかげで魔力漏れまくりのユヅを見つける事は簡単だったんだけど」



 簡単……なんか、僕ってお漏らししてる子どもみたいじゃない?これって恥ずかしい事じゃないよね?父様もみんなも何も言わないし……うん、きっと大丈夫だ。



「こうして魔力視を使えば、魔力を形として認識できる。だから、色はなくても魔力があるものなら形が分かるし、ユヅの魔力が凄い事も分かった。これは、精霊がユヅに群がるわけだよ。普通の魔力ではない神力のようなものかな」



「僕の魔力はよく分からないけど、ユハ兄さんが凄いのはよく分かった。でも、不便も多いよね?僕、まだユハ兄さんのお世話しても大丈夫だよね?」



 ユハ兄さんのお世話担当は僕なんだ!これは譲れない。

 ユハ兄さんのご飯も僕が手伝うし、お風呂も手伝うし、着替えだって毎日手伝う!最近はやっと慣れてきたんだ。



「そうだね。ユヅの協力はどうしても必要かな。僕が唯一、ユヅをひとり占めできる時間だし、これは譲れないよ」



 そう言って、僕の頬を撫でるユハ兄さんは、開眼して僕の額に口づけをしてくる。

 父様の真似をし始めた、子どもを愛でるような口づけは、魔力視を使えるようになった事で、スムーズにできるようになっていた。





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