第12話 秘密バレ
僕が魔物達に呼ばれている事を、実は誰も知らない。
僕が言っていないという事もあるが、魔物達も賢く、監視の目があるところでは、しっかりと僕を襲ってくるのだ。
しかし、僕に届く声は穏やかで、『自分を食べて』『役に立ちたい』『他の奴らには殺されたくない』と言った願いだった。
僕が自分を魔族だと思っていたのも、魔物の言葉が分かるためだ。
「父様、それはダンジョンから魔物が出てくる可能性があるって事?」
「そうだな。少しずつ出てきてしまうのは知ってるだろうが、今回は大量の可能性がある。良くも悪くも、ダンジョン内の魔物を狩りすぎたんだろうな。今回は長期間ダンジョンに潜っている。エリアCに行く為の準備期間とは言え、その間生きていくには襲って来た魔物に勝ち、自分達の食べ物も現地調達になる」
大量に出てくるなんて事あるんだ。
なんか、餌がなくなって人の街におりて来ちゃった野生の動物みたい。
「ユヅは知ってるよね?ダンジョンの生態系は、ある程度維持しないといけないって事を」
「うん、それは知ってる。魔族側も人間側も、どっちかが絶滅したら、同種族で争いが起こるかもしれないって事も」
「父さんはそんな事までユヅに教えてくれたんだね。本当は、その事を話してはいけないんだよ。フール国では暗黙の了解だけど……他国にもその考えが伝わるかは難しい。今回、チャリオット国の王子様が、独断で討伐部隊を率いて行ってしまった……というのが、かなり問題になってる」
あの戦闘狂って言われてる人か。
エルヴィーだっけ?うーん……格好いいけど、やっぱり推しではないな。
「彼は力を示して、自由を勝ち取った。それに忠誠心も求めていない以上、彼が討伐部隊を率いて行っても仕方ない。これは、フール国の討伐部隊が弱かったという事だからな」
「ふふ、父さんは面白い事を言うね。フール国で一番弱く、犯罪歴のある討伐部隊に勝つなんて、目の見えない僕でもできるよ。確かにエルヴィー殿は強いけど……でも、この国で一番の強さを誇る部隊は暗部隊だ。隠さないといけないのが残念だね」
父様とユハ兄さんの間には、どこか緊張感がある。
おそらく、ユハ兄さんは強い方だ。
目が見えなくなった分、更に油断ならない相手になったと言っていた父様は、ユハ兄さんの魔術ほど怖いものはないと言っている。
ユハ兄さんはこれまで、呪い系統の魔術を隠していたようだが、僕をきっかけにお披露目してしまったため、父様はどうしても警戒してしまうらしい。
それでも、僕を見守るエルフがいる以上、僕の安全性に関しては心配していないようだ。
「ユル様、この期間はあまり森へは行かないでください」
父様とユハ兄さんが黙っていると、ノヴァが僕に一番伝えたかったであろう事を言ってくる。
「どうして?僕は冒険者だよ。なんで行ったら駄目なの?」
「危険だからです。ユル様が普段相手にしているのは、ユル様に懐いている魔物達です。しかし、ダンジョンの魔物は違います。私が気づかないとでも?」
ッ……ノヴァに気づかれてた?というか、父様とユハ兄さんまで気づいてる?
「ユルは神獣だ。不思議ではないが、自らユルの攻撃にあたりに行くのは、さすがに驚いた。もし私がユルを保護しなければ、魔物に育てられていたのかもしれないな」
「ユヅは上手くやってると思ってたんだね。可愛い。昔から、ユヅはコソコソやる事が苦手だよね」
ユハ兄さん、それは違うよ!僕には監視の目が多すぎるんだ。
だから、コソコソやっても見つかっちゃう……僕が死んだ原因はまだ分かってないけど、奇跡みたいなタイミングだったんだ。
自分の死に、奇跡なんて言葉は不思議だけど、あんまり違和感はない。
「とにかく森へは行かないでください」
「……それは約束できないよ。僕は屋敷の中でしか翼を出せないけど、外に行かないと落ち着かないんだ。でも、街の中は嫌」
魔物の件がなくとも、外には行きたくなってしまう今世の僕は、立派な屋敷だとしても建物の中は狭いのだ。
きっと、今の僕が引きこもるとすれば、それよりも遠くに逃げる事を選んでしまうだろう。
それほど、翼は僕に自由を与えてくれる。
しかし、それをしないのは、父様やみんながここにいるからだ。
「仕方ない……ユルの為に、ユルの森を作るか」
僕の森?父様、僕は自分の森がなくてもここに戻ってくるよ。
「それはいい考えですね。訓練にも良いですし、ユル様を少しでもここに引き留められます」
違う違う。
ノヴァ、僕はここから離れる気は、今のところないよ。
「ユヅに狩られたい魔物も、自然と集まるようにできるからね。それは良いかもしれない。ユヅを守るのなら、ユヅの護衛として森で世話をしてもいい」
ユハ兄さん、僕の意見は?僕、まだ何も言ってないし、これ以上見張りが増えるのは困るよ。
こうして、僕の森を作る計画は進んでしまい、父様は暗部隊やエルフの協力を得て僕の森を作り、屋敷は森に覆われてしまった。
元々辺境の街の外にある屋敷は、街から離れた場所にあり、父様は暗部隊を率いているという事もあって、領主ではなかった。
表の顔としての父様も裏の顔としての父様も、どちらも国を守る事に変わりはないため、父様が領主でない貴族であっても、誰も文句や疑問を抱かない。
つまり、フール国において、それほどの力を父様は持っているわけだが、その実力を僕はいまだに知らないでいる。
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