第11話 ダンジョン事情
何も思わなくなった僕に対して、ユハ兄さんがどこか悲しそうな表情をするが、そこに父様がやって来る。
「ユル、ユハク、妖しい雰囲気を出すのはやめような。恋仲としか言えない状況だぞ」
父様は何を言ってるんだろう。
僕とユハ兄さんは、別にそんな雰囲気なんて出してないのに。
それに、僕の顔を触るのは仕方ないと思う。
ユハ兄さんは目が見えないし、僕の表情を確認する為には必要な事だから。
「ユハ兄さんは兄だよ。そうだよね、ユハ兄さん」
「そうだね。僕はユヅの唯一の兄で、ユヅの兄としてユヅを心配しているだけだよ」
ユハ兄さんは兄という枷があった方が、生き生きとしている。
きっと、今世では僕との繋がりがない事の方が不安だったのだろう。
兄となってからは、昔のユハ兄さんに戻ったが、前世と違うところは僕に触れる時間が増えた事だ。
それは、血の繋がりという枷がないため、仕方がないだろう。
勿論、変な事はしてこないが、ユハ兄さんは僕の翼が好きなようで、優しく撫でてくれたり頬擦りをしてくるのだ。
「ルーフェン様、警戒しすぎです。そもそも、ルーフェン様もあまり変わりませんよ」
「そうだよ、父さん。僕と父さんはあまり変わらない。父さんも、ユヅを膝の上に座らせたり、羽づくろいをしたり、眠るユヅに口づけもしてるよね?どこにしてるかまでは、音だけでは分からないけど」
そうなの?父様が僕に……でも、たぶん挨拶だよね?父様は僕のことを、本当の息子みたいに思ってるから。
それにしても、王子様だったユハ兄さんが、父様を『父さん』って呼ぶのは、なんか慣れなくて面白い。
「額にはしているな。可愛い息子であれば当然だろう」
「それは僕も同じだよ。僕もユヅが可愛いから愛でる。可愛い子は愛でて、天使には悪い虫がつかないようにしないと」
「私もそれには同意だな」
父様とユハ兄さんって、もしかして同志と言うやつなのでは?父様もユハ兄さんも家族だし、仲が良いのは良い事だ。
「それはそうと、ユルに話がある。騎士団への見学についてだが……」
「行けなくなったの?ユハ兄さんがいなくても?」
「ユハクの狂信者達は、調べた限りでは今回で最後だろうな」
「なんで分かるの?隠れファンとかの可能性は?ほら、敵が減ったから自分がって思うかもしれないじゃん」
「それがキハだな。そもそも、奴らは自分達の身分を利用した犯罪も、密かに重ねていてな……まあ、処分は王命だったと言うわけだ。他にもいるだろうが、ユハクの狂信者ではない」
そうなんだ……良かった。
でも、それが原因じゃないなら、何があったんだろう。
「魔物討伐部隊がエリアCから帰ってこないんだ。そこで、他部隊からも数名ずつ向かわせることになった」
エリアC……それってすごく進んだって事だ。
魔王討伐も視野に入れてるのかな。
エリアとは、魔族の国と人間の国を唯一繋ぐ事ができているダンジョンである。
まず、この世界がどういった形になっているのか分からないが、エリアGからエリアAを突破していく事で、エリアSとなる魔族の国に行けるのだ。
そしてここが問題だが、そもそも魔物や魔族がこちらに来る方法も同じであり、魔物がこちらに来すぎない為の討伐部隊でもあるようなのだ。
だが、そんな討伐部隊が帰ってこれないとなると、よほど強い魔物がいるか、もしくは群れでこちら側に来る可能性が高くなる。
「……父様は行かないよね?暗部隊のみんなは?」
「暗部隊は動かないな。固まって動く他部隊とともに行動しても意味がない。それに、私のところへは魔王がわざわざ夢に出てきてくれてな……ダンジョン内に、ユルの大切な者はいないかと、確認してきた」
魔王、そんなに僕のこと好きなの?それは好感度が上がる!だって、僕の大切な人達は守ってくれるってことでしょ?
尾羽を揺らして、父様の話を聞いていると、ユハ兄さんが僕の尾羽に触れた。
「ユヅは魔王が好きなの?」
「え?好きじゃないけど、嫌いでもないよ。それに、僕には推しもいて、まだ見ぬマオ様がいるからね!すごく格好いいんだって!」
「ユル、その話は――」
「へぇ……そう。名前が気になるけど、ユルに害がないといいね」
もしかして、前世のストーカーのこと?確かに、真緒くんって人はいたけど。
でも、前世のあの人は僕のタイプじゃなかったから、きっとマオ様の方は大丈夫だよ!それにしても、ユハ兄さんの開眼はどんどん格好良くなるね。
「話が逸れたが、エリアCに入ってから通信が途絶えた。あそこは敵地も同然で、突破したとしても帰る為には襲ってきた魔物を討伐する必要がある」
「帰りに、エリアD以降の魔物に襲われた可能性もあるって事だね。あそこに住む魔物は、当然だけど繁殖するし、全滅なんてほぼ不可能……普通の事だけど、この世界は本当に厳しいね」
ユハ兄さんは王子様モード?でも、ユハ兄さんは父様達と同じで人間だもんね。
僕は魔物を狩るけど、それは魔物達が望むから。
みんな、望んで僕のところに来るんだ。
だから、僕はそれに応えてる。
悲しいけど、父様達を襲われたくもないし……行かないと襲うって言われるから、定期的に脱走……じゃなかった、狩りに行くんだ。
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