第32話 驚き続き



 ヒバリくんの興奮が収まるまで待とうとしたが、ヒバリくんは服を乱して僕の体に口づけをしていく。

 どんどん興奮していくヒバリくんに、発情しそうになるが、ヒバリくんは発情しているわけではないため、なんとか発情せずに済んだ。



「――うん、俺の匂いになった」



「ヒバリくんの匂い?僕はずっとヒバリくんの匂いじゃないの?」



「ユルが俺から離れた事で、この部屋の主の匂い……つまり、マオの匂いを纏っていたんだ。ツガイにはしないと決めた相手の匂いを、ユルに纏わせるわけにはいかない。夫婦契約なら、ユルは俺の匂いを纏っておくべきだろ?俺のツガイなんだから」



 あ……僕、声に出てたんだっけ。

 それなら仕方ない。

 僕はヒバリくんのツガイだし、この場所で発情する手前まで気持ち良くされても仕方ないね。



 そこで、ふとマオくんを見てみれば、マオくんは部屋の隅で丸くなり、両手で顔を覆っていた。

 かわいそうな事をしたと思いながらも、マオくんを呼んでみると、マオくんは恐る恐る僕の元にやって来て、僕を抱きしめてきたのだ。

 突然の行動力に驚きを隠せず、ヒバリくんに助けを求めると、ヒバリくんは不思議そうに首を傾げた。



「ユルが誘ったのに、なにを驚いてるんだい?」



「僕は誘ってない。謝ろうと思って名前を呼んだだけだよ」



「この流れで、服も乱れた状態で名前を呼べば、それは誘ってるのと同じだ」



 うそ……そんなの知らなかった。

 どうしよう、マオくんが発情してる気がする。

 気のせいかな……マオくんがどんどん大きくなって、毛が増えてるような――



「マオくん、待って待って!その姿にはならないで!」



「グルル(無理)」



「ユル、大丈夫。落ち着きな。俺がいる限り、マオはユルを襲えないから」



「いや、そういう問題じゃなくて、推しが近すぎるんだ!僕だって、襲われないのは分かってる」



 マオくんは発情してるみたいだけど、ヒバリくんの魔力が明らかに怒りを含んでる。

 僕にスリスリするくらいしかできないから、この姿になっちゃったんだってことも。

 でも、この姿は僕がまずいんだ!



「ヒバリくん、ヒバリくん、本当に助けて!僕を抱きしめて」



「ッ……可愛い。俺のツガイが可愛すぎる」



 怒りの魔力をマオくんに向けているわりに、普通のヒバリくんに見えるのは器用だなと思う反面、ヒバリくんとの歳の差を感じる。

 しかし、僕を抱きしめてユル吸いをしてくるヒバリくんは、僕の知ってるヒバリくんだ。



「マオくん、ごめんなさい」



「グルル、グルルル(お願い、服着て)」



 服なら着てるよね。

 そこまで乱れても――……ッ!背中が破れてる!どうしてだ。

 特に破れるような事はしてないし、マオくんにも引っかかれたわけじゃない。



「ヒバリくん、僕の服が破れた」



「あぁ……俺が破いた」



 オレガヤブイタ?……どうしてそんな事したの!?



「ユルの背中にも匂いをつけるには、破いて直接触れる方が早かったからな。ノヴァあたりがユルの服を持ってるはずだ」



 いや、なんでノヴァが持ってるの!?おかしいよね。

 普通に僕の服を持ち歩いてる意味が分からない。

 側近って、そういうのも必要なの?だとしたら、ノヴァ一人に任せるのは大変じゃないかな。



 もはや隠れている意味もなくなってしまったノヴァは、当然のように窓から入ってくると、僕の服を出して着せてくれる。

 その際、ノヴァに側近を増やそうかと相談してみたが、もの凄い勢いで断られてしまった。

 そうして僕が服を整えた事で、マオくんの発情は収まり、人の姿に戻って僕から離れると、部屋の隅でブルブルと震え始めてしまう。



「マオ……加減ができなかったのは認めるけど、魔王がそこまで震える事はないだろ」



「お、俺はヒバリさんには勝てない。ヒバリさんは……神に近い存在だ。この世界での決定権を持ってる。俺なんて、ただの魔王だ」



 ん?待って、ヒバリくんってそんなに凄いの?僕には魔王と同じくらいだって言ってたけど……確かに、マオくんの反応は明らかに変だよね。

 ノヴァですら驚いちゃってるよ。

 こんなに表情豊かなノヴァは珍しいんだからね。



「ヒバリくん、僕聞いてないよ。ツガイなのに聞いてない」



「俺の全てはユルに預けているからな。俺のものはユルのものだ。特に説明は必要ないと思っていた。それに、ユルの方が凄いだろ?愛し子のユルが神さんに頼めば、あの神さんはすぐにでもユルの為に動く」



 もしかして、ヒバリくんが『神さん』って呼ぶのは、神様に近いからだったの?本当にお友達感覚なのか。

 たしかに、堕天使ってだけで神様に近い存在だとは思うけど……だとしても、ヒバリくんに決定権まであるなんて知らなかった。

 僕の旦那様は、想像以上に大物だったらしい……これ以上はないよね?



「ヒバリくん、他にも隠し事があったりしないよね?」



「隠してるつもりはないけどな……強いて言えば、ユルのストーカーは神さんに送り返したいと思ってる事くらいか?」



 それなら僕からも是非お願いしたい!会わないのが一番だけど、僕がツガイ持ちになった事を知ったらどんな反応をするか、本当に分からないんだ。

 そう思うと、マオくんは本当に今までの人達と違う。

 見た事がないくらい顔は整ってるし……いや、勿論ヒバリくんが一番だけどね。

 でも、見張ってたかもしれないけど、ストーカーにしては僕と同じ反応をするし、気は合うと思うんだ。

 ツガイはなしだけど、夫婦契約はマオくんをもっと知ってから……そうだ、友達から始めよう!



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