第33話 必須、ツッコミ役



 友達や恋人という過程をすっ飛ばし、ツガイになったヒバリくんがいるため、深く考えていなかったが、一般的な流れがある事に漸く気づいた。

 それによって、マオくんに友達から始めようと提案してみると、マオくんは嬉しそうに尻尾を元気良く振りながら、何度も頷いてくれた。



「なら、その間に次の魔王も決めるべきだ。ユルがどんな選択をしても、群れには入るつもりなんだろ?」



「ユルのそばにいたい。それだけでもいい。その為なら……なんだってする」



「良い選択だ。ただ、焦りすぎないようにな。次の魔王を間違えれば、ユルを傷つける可能性がある。その容姿には、それだけ惹かれる者がいる事を忘れるな」



 それって……上手く隠してるけど、マオくんのことが好きな人がいるって事だよね。

 僕が奪ったと知ったら、どうなるんだろう。

 それに、マオくんをツガイにするわけじゃない。

 マオくんがどうするかは、マオくんの自由だけど……また僕は恨まれるんだろうな。



「俺のことでユルを傷つけるなら、この姿を捨てる。城を出れば、どうせ喋れなくなる。巣の中でしか喋れない俺に……この姿は要らない」



「それは夫婦契約をした時に困るな」



 ヒバリくんが、僕の旦那を増やそうとしている理由を知っているのか、マオくんは顔を赤くしてパタパタと尻尾を揺らしている。

 その姿が可愛いと思ってしまうのだから不思議だ。

 僕の苦手を詰め込んだようなマオくんに対して、不快にならずに済んでいるのは、ユハ兄さん以外に初めてのことだ。



「ノヴァ、僕の側近としてお願いがあるんだ」



「はい、いいですよ」



「まだ頼んでないのに引き受けちゃうの?」



「ユル様の願いを叶える事ができるのなら、どんな事でもします。私はユル様の側近ですから、断った事でこの座を揺るがす可能性があるなら、引き受ける方を選びます」



 断ったくらいで側近からは外さないけど……ノヴァが引き受けてくれるなら安心だ。

 ノヴァは暗部隊の中でも優秀だからね!



「ノヴァに、マオくんの手伝いをしてほしい。マオくんが次の魔王を見つけられるように、協力してほしいんだ。もしもいないなら、育ててもいいと思う。ワルワルなノヴァなら、立派な魔王を育てられそうでしょ?」



「育てるのは良い案だな。エルフも何人か寄越そう」



「それくらいなら問題はなさそうですね。要は、我々の手足となる魔王を育てれば良いと……ユル様もなかなかにヒバリ様からの影響を受けていますね」



 違う違う!僕が思ってたのと違う!どうしてそう思ったのかな!?マオくんもキラキラした目で僕を見ないで!ヒバリくんは、僕の頭を撫でてくれるのは嬉しいけど、褒められてる気がしないよ。

 あうぅ……なんか、最近は僕がツッコミ役になってない?どうしてだろう。

 今までは確か――……そうだ、父様だ!父様がいないから僕がツッコミ役をしてるんだ。

 早く父様に会わないと。

 このままじゃ、僕の精神がゴリゴリ削られていく。



「じゃあマオくん、頑張って。ノヴァ、僕の友達をよろしくね。よし、ヒバリくん!僕達は帰ろう!僕は早く父様に会わないといけないんだ」



「離れて寂しくなったのかい?ユルはまだまだ子どもだな。可愛い」



 ちが――……もういいや。

 早く帰って、父様に癒してもらおう。



 そうして僕達は精霊門で神殿に帰り、僕は父様の胸に飛び込んで、数日は父様から離れなかった。

 その間、ヒバリくんはユハ兄さんを連れ回し、僕のストーカー捜しをしていた。

 僕のストーカー達が動き始めたという、神様からの情報により、誰がどのストーカーかを見分ける為にユハ兄さんに協力してもらったらしい。

 その際、神様が知ってるのなら神様から全部聞き出せばいいのではないかと思ったが、神様は全てを話す事ができないのだと言う。



 本来、地上の者に干渉してはならない。

 干渉した場合、どんな些細な事であっても争いの火種になる。

 そういった理由から干渉はしないが、代わりにグレーゾーンである空中の神殿にエルフを住まわせ、エルフ達に頼み事をして干渉するようだ。

 でなければ世界の維持は難しく、ギリギリのラインで神様はいつも話しかけてくるらしい。



 だが、それにも例外はある。

 まずは堕天使であるヒバリくんだ。

 ヒバリくんには、ある程度話しても問題はないが、困った事にヒバリくんはエルフ達を纏めるだけで、実は自ら神様の為に動く事はないらしい。

 そして愛し子である神獣の僕は、生神いきがみとなった場合にのみ神様と交流する事が可能になり、生神は地上での神として、地上には影響を与えずになんでもできてしまうという、神様と地上を繋ぐ媒体のような存在だ。

 しかし、今までに神獣が生神となった事はなく、生神になる条件は神様であっても分からないようだ。

 神が神を生み出すというのは、それだけ難しい事なのだろう。



 僕としては、神様は信仰心から生まれるようなイメージだったため、生神というものが本当に存在できるものなのかと疑わしく思えてしまうのだ。

 しかし、生神の話を聞いたヒバリくんは、僕の想像する神について何か考える素振りをし、ひとり楽しげに笑っていた。





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