第34話 彼らの現状



 僕が父様から離れるようになると、ヒバリくんは僕の元に戻ってきて、ご機嫌な様子で僕のストーカーについて説明をしてくる。



「ユルには良い知らせだ。彼らはユヅルという人物を捜しているからか、魔族に転生した者も人間に転生した者も、ユルがユヅルだという事を知らない。それに加え、今世でも彼らは人気なようだ。中には、貴族として夫婦契約までしてしまっている者もいる。面白いだろ?」



 ヒバリくんが楽しそうで何よりだ。

 もの凄くワルワルな顔になってるよ。

 本当にヒバリくんは格好いいね。

 ユハ兄さんも楽しそうだし、ストーカー達の事は放っておいても大丈夫そうかな?



「夫婦契約ならまだ良いけど、魔族の中にはツガイになってる人もいたよ。アレはもう、ユヅに近づくのは無理だね。ツガイの執着が凄くて……たぶん、発情期に無理やりツガイにさせられたんだと思う。かわいそうだけど、自衛しきれなかったあいつが悪い」



 うわ、それは最悪だ。

 好きじゃない相手をツガイにするなんて、考えただけで吐き気がする。

 正直地獄だと思うよ。

 死にたくても、ツガイも道連れになるから死ねないし、ツガイになったら嫌でもツガイを優先すると思う。

 勿論、僕はヒバリくんが嫌だなんて、一度も思った事はないけどね!大好き大好き、ヒバリくん!



「ありがとう、ユル。また声に出てたぞ」



「……それは仕方ない!僕はヒバリくんが大好きだからね」



「ユヅのツガイがヒバリさんで良かったと、本当に思うよ。ユヅを守れるだけの力もあって、地位も高い。なにより、ユヅを理解してくれる。あのストーカー神は、最初からヒバリさんとユヅをツガイにさせようとしてたんだろうね。生神計画を聞いたら、ユヅの信仰を集めるにはヒバリさんの不老が必要でしょ?」



 ヒバリくんの翼を見られてから、ヒバリくんが堕天使だという事を説明せざるを得なくなり、父様もユハ兄さんもノヴァも、僕が良い選択をしたと褒めてくれた。

 何より、ヒバリくんは僕を第一に考え、大切にし、僕が逃げないように縛りつける事ができるという点でも、ヒバリくんは信頼されている。

 僕を縛る点での信頼は必要ないと思うが、みんなにとっては重要なようだ。



「俺の不老は、確かに生神にするには都合がいいな。とりあえず今は話を戻すけど、ユルのストーカー達には接触してもしなくても、同じ結果になる。ユルが先に接触するか、向こうが問題を起こすのを待つか……どっちがいい?」



「それって、僕が決めてもいいの?問題が起こらない方がいいんじゃないの?」



「どちらにしても問題は起こる。そうだろ?ユハク」



「そうだね。前世を考えると、彼らは周りをどんなに不幸にしてもユヅを追うのを辞めない。加害者が加害者を断罪すると、不思議な事に加害者は被害者に変わる。被害者の皮を被った、一番の加害者だ。そんな彼らが、ユヅのツガイの存在を知ったら問題を起こすだろうし、ユヅを捜すだけでも問題を起こすだろうね」



 ユハ兄さんは前世を思い出しながら、うっすら瞼を開く。

 白くなっていたはずの瞳には、どこか怒りが含まれているように見える。

 それだけ、ユハ兄さんも怒っていたのだろう。

 おそらく、ユハ兄さんは前世でストーカー達と何度も接触している。

 それでも辞めなかったストーカー達は、本当に僕への執着が異常なのだ。

 そしてその異常さを一番よく分かっているのは、僕ではなくユハ兄さんだ。

 詳しくは教えてくれないが、僕には伝えられないような事を、ストーカー達はしていたのだろう。



「分かった。どっちにしても彼らが問題を起こすなら、僕はヒバリくんのツガイだと伝えたい。それに、もしかしたら今の僕の姿を見たら、人違いだと思うかもしれない」



 最近では、ヒバリくんの言う通り、耳にも羽が生えてきた。

 これにより、翼のような耳になりかけている僕は、人間の国では魔族として扱われる可能性もあるのだ。



「それはないな。ユルの容姿はほとんど変わってないんだろ?それに、容姿が変わったくらいでユルへの執着を捨てるようには思えない。ユルには、人を狂わせる何かがあるんだろうな」



「それって神獣だから?」



「神獣は前世では関係ないだろ?それに、魅力的な人はユルに限らず、少なからずいる。だから、ストーカー達のストーカーもいるわけだろ?」



 確かに……僕は可愛くて魅力的だ。

 ヒバリくんが毎日可愛いって言ってくれるくらいには可愛い。

 ユハ兄さんも格好良くて魅力的だ。

 うんうん、これは仕方ないな。



「今の僕を見ても諦めそうにないなら、僕は群れを守って、ヒバリくんを守る為にどうにかしたい」



「守ってもらえるのは嬉しいけど、俺はユルとともに群れを守りたいと思う。それに、俺もユルを守りたいからな。それでは駄目かい?」



「駄目じゃない。ツガイだから……一緒に群れを守ってほしい。でも、ヒバリくんに甘えすぎないように頑張るよ」



「別に甘えてもいい。むしろ、甘えてもらえた方が助かるな。ユルの本心が分かる」



 それから、ユハ兄さんに相談をしながら、ヒバリくんとともに今後の計画を立てる事になった。



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