第31話 魔王らしさ



 心の中でヒバリくんにお願いしていると、魔王の名前をつけてみたらどうかと、ヒバリくんが提案してきた。

 それに対して、魔王は僕が呼んでいた『マオ』という名がいいと呟いたため、試しに「マオくん」と呼んでみると大きな顔を伏せてしまった。



「大丈夫かな。固まっちゃったけど」



「嬉しいだけだろうな。それにしても、くん付けにしたのは俺の時に頼んだからかい?」



「うん。好きな人から、くん付けで呼ばれるのは嬉しいのかと思って」



「ユルもユルくんの方がいい?」



 うーん……なんか、僕が呼ばれると子ども扱いされてる気分になる。

 僕はヒバリくんのツガイだし、子どもっぽいのは嫌だ。



 僕が首を横に振れば、ヒバリくんは満足気に微笑み、チラリと魔王を見る。



「マオはどうなんだい?」



「グルルルル(マオくんでお願い)」



 どうやらお気に召したらしい。

 推しとなったマオくんに、伏せた状態のまま上目使いで可愛くお願いされれば、僕には断る選択肢などなく、頷いてヒバリくんの胸に顔を埋めた。

 ヒバリくんはというと、僕の頭を撫でてユル吸いをしている。

 自分がツガイに勧めてきたマオくんの前でも、僕を欲してくれていることには喜びしかない。

 ヒバリくんにとっては、僕がツガイである事は変わらないため、僕がどんな選択をしても、ヒバリくん自身が嫌な気分になる事などないのだろう。

 それだけツガイ想いな旦那様に、僕の心臓はギュウギュウに締めつけられる。



「ハァハァ、苦しい。ヒバリくんが好きすぎる。僕、幸せ。もうヒバリくんになら何をされてもいい」



「本当に?塔に閉じ込めて、誰にも会わせないで鎖で繋ごうか。翼も切って、俺のことしか考えられないように、洗脳でも――」



「ごめんなさい。ちょっと嘘つきました」



 ヒバリくんが好きすぎて、ヤンデレなことを忘れてた。

 危ない危ない……この旦那様、普通に危ない。

 マオくんを見てよ。

 魔王なのに怯えて震えてるよ。

 そんなマオくんも可愛いです。

 ありがとう、ヒバリくん。

 ヒバリくんのおかげで、可愛いマオくんに癒されるよ。

 ただ、ヤンデレはほどほどにしてほしいかなって思うんだ。



「そうかい?遠慮しなくていいのに」



「してない、してない。遠慮はしてないよ、ヒバリくん。これは嘘じゃないから、安心してほしい」



「ふむ……なら、マオだけでも隔離しておくかい?ユルが気に入ってるようだし、契約に関係なくマオといつでも会えるように、隔離しておく方がいいだろ?」

 


「やめてあげて!見てよ、マオくんが怖がってる!魔王なのにブルッブルだよ!?」



 大変だ!僕の旦那様は頭のネジが何本か迷子になってる!まさか、これが本当のヒバリくん?ワルワルが格好良すぎる。

 でも、マオくんはかわいそうだから、やめてあげてほしい。

 ヒバリくんは、僕に対して積極的になれないマオくんにイラついてるだけでしょ。

 隠してるみたいだけど、ツガイの僕には分かるからね。



「仕方ないな。マオ、今後ユル不足で荒れるようなら、隔離されにおいで。エルフ達をここに寄越そうとすると、ユルが心配するからな」



 これに対して、マオくんは目を逸らしながら獣人の姿に変え、オドオドしながら口を開く。



「ヒ、ヒバリさんがユルのツガイなら安心。ユルが、俺を群れに入れてくれるなら……魔王を辞めたっていい」



「魔王を辞めて、誰が魔王になるんだい?この時代に、魔王になれる者がいるとは思えないな」



「俺は……元々魔王には向いてない」



 うん、マオくんは魔王には向いてないと思う。

 でも、魔王がマオくんなら安心でもある。



「ヒバリさんが……魔王に――」



「無理だ。俺は魔王らしくないだろ?」



 いや、ヒバリくんの方が魔王らしいよ。

 僕の旦那様は天使には見えないからね。

 悪魔って言われた方がしっくりくる。

 ヤンデレのヒバリくんは、堕天使でもギリギリだよ。

 こんなこと、ヒバリくんには言えないな。



「言ってるな。ユル、この際だから言うけど、ユルは基本的に全部口に出てるからな」



 ……嘘でしょ。

 嘘だと言って!僕は口に出してないはずだ。

 今だって、僕の天使の声は――……ん?



「嘘じゃない。天使の声は出てるだろ?俺はそんなに魔王らしいかい?」



「ヒッ!ご、ごめんなさい。許して、魔王様」



「とうとうユルのなかでは、俺が魔王になったか」



「ソンナコトナイヨ。ヒバリくんは、ワルワルなだけで魔王ジャナイ。そうだよね、マオくん!」



 マオくんが獣姿でない事をいい事に、僕はマオくんに詰め寄った。

 すると、マオくんは顔を赤くし、何度も頷きながら僕から目を逸らし、両手をあげて降参状態になってしまう。



「ヒバリくん、魔王じゃないって!ワルワルなだけだから許してほしい」



「分かった。なら、こっちにおいで」



 ヒバリくんに手を広げられたため、反射的に抱きつきに行ってしまった。

 すると次の瞬間、枷に魔力を流されて引っ張りあげられ、押し倒されるようにして机の上に転がされると、ヒバリくんは深く口づけをしてきた。



 ヒバリくん、興奮してる?急にこんな所でどうしたんだろう……ヒバリくんらしくない。

 


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