第30話 限界同士
魔王が顔を赤くしながらも、ヒバリくんによって強制的に僕の頭を撫でているなか、ヒバリくんは魔王と僕の反応を観察している様子だ。
そんなに観察しても、僕のツガイはヒバリくんだけだからね!それに、魔王は僕の好みじゃないし、マオ様に会いに――……そうだ!マオ様はどこだ!
「ヒバリくん、大変だ!目的のマオ様に会えてない!」
「その目的のマオ様とやらは、会ってるじゃないか」
「え……まさか、あの魔族じゃないよね?だったら僕は、期待させたノヴァを恨まないといけない」
その言葉を発した途端、今まで全く気配を感じとれなかったノヴァの魔力を感じ、漸くどこにいるのか分かった。
今は、どうやら外壁に身を潜めているらしい。
危険だが、暗部隊であれば外壁にへばりつくなど朝飯前だ。
「ユル、ノヴァを恨む必要はないはずだ。知ってる俺からしてみたら、期待通りだと思う。それに、ノヴァが言ったマオ様に関しては、説明の途中だろ?」
「確かに。ごめんね、ノヴァ」
でも、あの魔族じゃないなら誰なんだろう。
ここに来るまでにすれ違った魔族も、僕の好みではなかったけど……というか、魔族もエルフと同じでイケメンが多かった。
「ノヴァが言いたかったのは、これじゃないかな……魔王の獣姿」
え……魔王の獣姿って、魔物のこと?それなら、僕の群れにもいるけど。
それに、このイケメンからは想像がつかない。
僕が魔王を見つめていると、魔王はオドオドした様子で獣姿になった。
大きな体に黒い毛並み、二つの尻尾と金色の瞳を持つ狼は、大きな口を開けて牙を見せつけ、目を細めて笑っているように思える。
これはッ……凄い。
笑顔のワンコ感があるけど、姿が魔物で格好いいからか凶悪な笑みに見える!あと、チラチラ見える金色の瞳が格好いい。
「やっぱりユルの好みだったかい?」
僕はコクコクと頷きながら、後退りをしてヒバリくんの背後に隠れる。
ヒバリくんの時のように、何もできないというわけではないが、ドキドキするのは間違いなく、ノヴァには心の中で感謝を伝えた。
「魔王をツガイにする?」
「それはしない!」
ヒバリくん!そこまでくると、さすがに僕だって怒るよ。
僕がヒバリくん一筋だって事を確かめたいだけなら……うん、ヒバリくんはヤンデレ気味だし、許すしかないけど。
「なら、結婚は?ツガイでなくても、旦那にするくらいはどうだい?ツガイ契約と夫婦契約の違いは教えただろ?」
夫婦契約……うん、前世と同じだ。
今の僕にとっては、夫婦契約は普通の家族で群れ。
ツガイほど特別じゃないし、父様とかユハ兄さんとかノヴァと同じかな。
僕に近い存在……それなら、魔王がどんな人なのか分かったら考えてみてもいい。
なにより、この姿は凄い!ワルワルの獣だけど、ヒバリくんが翼を出した時と同じで、存在感が違う。
他のエルフと違うヒバリくんと、魔族や魔物とは違う魔王……僕、神獣だけど普通すぎない?鳥獣人とほとんど変わらないよ。
「ユル、色々考えてるところ悪いけど、全部聞こえてるからな。魔王は旦那候補でいいかい?」
「……声に出てた?ごめんなさい。期待させるようなことした」
「いや、いいんじゃないか?魔王も嬉しそうだ。それに、脈無しだと分かるよりいいだろ。ユルが少しでも考えてくれたんだ。それだけで価値がある」
ヒバリくんの言葉に同意するように、魔王は尻尾をブンブン振って部屋の物を撒き散らしながら頷く。
だが、魔王も僕には近づけないのか、僕と魔王の距離はどんどん離れていくため、ヒバリくんは僕だけでも抱えて魔王に近づけようとするのだ。
「ヒバリくん!やだ!僕を近づけないで」
「グル!グルルル(ユル!近づかないで)」
ん?なんか、魔王の声らしきものが聞こえた気がする。
気のせいかな。
「そうは言っても、このままでは何も変わらないだろ。魔王もユルから離れるな」
「グッ、グルルルル(うっ、ユルが可愛い)」
やっぱり聞こえる。
まさか、魔物の言葉が分かる僕だから、魔王がこの姿になっても言葉が分かるのかな。
「ヒバリくん、ちょ……ちょっと待って!一回待って!とりあえず落ち着こう。話があるんだ」
「ユルが落ち着こうか」
僕が翼を動かして暴れたためか、ヒバリくんは椅子に座って僕を膝の上に座らせる。
すると、魔王も壁に張り付くように座り、僕と目を合わせないようにどこか遠くを見ている。
「ヒバリくん、僕は魔王の言葉が分かるらしい」
「だろうな。魔物の言葉が分かるなら、この姿の魔王の言葉は理解できて当然だ」
「……それだけ?もっと何かないの?」
「なに、驚いてほしかったのかい?俺は十分驚いたけどな。ユルと魔王の物理的な距離の遠さに」
ヒバリくんは面白い事を言うね。
推しは遠くから眺めろと言うじゃないか!僕は当然の反応だし、おそらく魔王もユル推しだ!だから仕方ない。
この距離は適切な距離なんだよ。
例えば、そう!画面越しから見て満足してた推しが近くにいる事で、現実味を帯びてきた結果の限界距離!これが今の僕の限界で、きっと魔王も限界だ。
だからお願いします。
ヒバリくんは、もう少し僕の心臓に優しくしてください。
ヒバリくんが一番、僕の心臓を止めようとしてくるんだから。
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