第41話 癒し担当



 ヒバリくん、好き好き。

 僕のツガイ……唯一のツガイで、やっと諦めててくれた。



「本当に、俺だけのユルにしていいんだ……神さん、後悔しないな?」



 神様?ヒバリくんがやっと僕だけを見てくれると思ったのに、次は神様なの?



 ヒバリくんは僕の風切羽を撫でながら、神様と話しているようだ。

 しかし、目は僕に釘付けで、この時間さえ我慢すれば、ヒバリくんは完全に僕のものになるのだと分かる。



「――……分かった。なら、俺はユルのツガイとして、もう何も我慢はしない。ユルがどれだけ辛い発情期を迎えても、それは仕方ないだろ?発情期を迎える前に、ストーカー達はどうにかしよう。それまで、ユルの発情期は俺が強制的に抑える」



「ヒッ……ま、待って。待ってヒバリくん」



 発情期がどれだけ辛いものなのか、いまだに理解していない僕は、ヒバリくんの雰囲気から本気でまずいと思った。

 しかしそんな僕を他所に、発情期を強制的に抑えると言われた途端、僕の魔力が枷に吸い取られ始めたのだ。



「ユル、これは決定した事で、ユルが選択した事だ。そうだろ?神さんは、この決定を認めた。マオは、この先群れに入れようが、ユルと契約を結ばせるつもりはない。ユルの何かしらの唯一になりたいのなら、ルーフェンやユハクやノヴァのようにするしかないな」



 ヒバリくんからしてみれば、もう時間切れだと言っているようなもので、僕やマオくんの選択を決めたにすぎないのだろう。

 それでも、この先も群れに入れる事は許してくれているあたりが、ヒバリくんの優しさを感じる。

 僕としては後悔はないが、発情期の件とヒバリくんのヤンデレ発動の件だけは、不安しかないのだ。

 今、僕の風切羽に力を入れている時点で、どうにかなりそうなほど気が遠くなってくる。



「ヒ、ヒバリくん……僕の翼――」



「うん、切ろうか。いらないだろ?」



 その瞬間、僕は急激な眠気に襲われ、現実逃避をしてしまった。

 その日以降、ヒバリくんは僕の翼を撫でてはうっとりとした表情を見せ、僕の手首や首にも枷をつけられた。

 翼だけは死守しているため、他のことを許した結果なのだが、ヒバリくんの言い分としては、僕の発情期を抑える為と、できるだけ僕の発情期を軽くする為という事らしい。

 ヒバリくんはヤンデレを発動していても、僕のことは考えてくれているようで、嬉しくは思う……のだが――



「ヒバリくん!マオくんとノヴァをいじめないで」



「いじめではない。ただ、ユルが辛くなるのも、魔王候補を殺したマオと、それを止めなかったノヴァのせいだろ?」



 現在、僕達は魔族の国に来て、マオくんのユル不足を補う為に、握手会をしている。

 握手会と言っても、マオくんとノヴァとエルフ達だけだが、彼らは何度も順番待ちをするため、一向に終わる気配がない。

 しかし、握手会で会話をするのは僕ではなく、ツガイのヒバリくんだ。

 ヒバリくんにとっては、自分の欲よりも僕が優先なのだ。



「そもそも、マオはユルの群れに入る気があるのかい?あるなら、魔族側のユルのストーカーをどうにかしろ」



「わ、分かった……ユル、ストーカーは任せて。なんとかできたら……群れに入れて……ほしい」



 マオくんは、僕の人差し指を握りながら、目を合わせてお願いをしてくる。

 マオくんにとって、僕の人差し指を握るだけでも緊張するだろうが、目まで合わせて喋るとなると、推しすぎのあまり心臓が止まりそうになるのを知っているため、僕はすぐに頷き、マオくんを群れに歓迎した。



「離れてても、マオくんは僕の為に頑張ってくれてる。それはノヴァからも聞いてて分かってるよ。だから、僕はマオくんを歓迎するし、僕の推しとして……是非、僕の推し活を充実させてほしい」



「う、うん!ありがと――……ち、近い」



 マオくんは限界を迎えたのか、勢い良く僕から離れ、ノヴァに張り付いた。

 その光景は、僕にとって癒しであり、できれば獣姿になってノヴァに張り付いてほしいと思った。



「マオがユルの群れなら、マオにはエルフ達をつけておこう。何かあっても、神殿に来れるようにな。それと、マオがユルの群れだという証にもなる。あとは……マオがユルの唯一を目指すかどうかだな。それだけでも、ユル不足が補われるだろ?」



「ッ!それなら、ユルの……魔王を……目指したい」



 僕の魔王って何?僕、別に魔王は必要ないよ。

 ヒバリくんが魔王みたいなものだし。



「それはいいな。俺が魔王になるのはありえないからな。頑張って、ユルにとっての魔王を目指してみたらいい」



 ヒバリくんは嬉しそうに応援するが、僕にとっての魔王はワルワルでなくてはならないため、マオくんには難しいのではないかと思った。

 むしろ、僕の一番の癒しはマオくんだ。

 癒しになるのなら、それはそれで僕としては大歓迎である。



「マオくんは僕の魔王という名の、癒し担当ね。よろしく、マオくん」



 そうして、強制的にマオくんを癒し担当にした僕は、ノヴァを連れて神殿に帰り、数日かけてヒバリくんを納得させた。

 これにより、マオくんは正式に僕の癒し担当になってくれたのだ。


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