第42話 巣作りと決戦



 癒し担当が決まって数日が経ち、その癒し担当であるマオくんから、奴が現れたという情報が入ってきた。

 奴が誰なのかはまだ分かっていないが、みんなが緊張状態になるなか、僕は一生懸命巣作りをしていた。



「ユル、本当に俺の部屋で良かったのかい?」



「うん、ここが一番好き。ヒバリくんの匂いで巣作りするんだ」



 ヒバリくんの羽根と、僕の風切羽で作っている巣は、羽毛布団のようになっている。

 風切羽を結局切られてしまった僕だが、それを機にヒバリくんが頻繁に僕を求めてくるようになったのだ。

 それにより、巣を作ろうと思った僕は、巣にヒバリくんを縛りつけようと考えたのだ。



 僕の風切羽の代わりに、ヒバリくんは巣から出してやらない。

 僕にメロメロになってもらって、僕の巣に閉じ込めてやるんだ。

 そうしたら、僕はヒバリくんの為に食事を持ってきて、ついでに外で少し遊んでくる。

 これで完璧だ! ヒバリくんを逆に縛りつけたら、永遠に僕だけの推し活ができる。



「ユルの巣作りは特殊だな。布団作りかい? 裁縫をするユルもいいけど、グチャグチャに乱れたユルが、俺は見たいな」



「それは巣作りじゃないでしょ?僕はちゃんと――」



「本来の巣作りは、乱れてツガイを誘いながら、いろんな物を混ぜて巣作りする。こんなに綺麗な巣作りは……本当に巣作りなのかな。ユル……何か隠し事してない?」



 ワルワルの笑みで見つめられ、咄嗟に目を逸らしてしまうが、僕にとっての巣作りである事は間違いないため、再びヒバリくんに目を向けた。

 すると、ヒバリくんは噛みつくような口づけをしてきて、僕を押し倒してくる。



「隠し事はしてるな。けど、巣作りは巣作りか……なら、俺は俺の巣作りをさせてもらう」



 そう言ったヒバリくんに、何度も何度も抱かれては「愛してる」と囁かれた。

 それは、僕にヒバリくんを刻みつけるようなものであり、自分だけを見てほしいと言われているような気がした。



 数日かかった巣作りは、正真正銘二人の巣となり、布団の皺は僕達の巣作りの証拠であるような気がして、愛着がわく。

 皺一つない物よりも、皺の数がヒバリくんの愛の重さを物語っているような気がして、無性に巣から離れ難くなったのは僕の方だった。



「ヒバリくん、僕はここから出たくないんだ。ストーカーはもう大丈夫でしょ?魔族も人間も、みんな記憶を無くしたって聞いた。もう何も心配はないし、発情期の準備がしたい」



「まだ駄目だ。あと一人残ってる。奴が洗脳した者達が、チャリオット国を率いて争いを始めた」



 チャリオット……なんでチャリオット国なの?もしかして、奴って人がチャリオット国にいるの?だとしても、僕への執着で争いまで始めるなんて、頭が――……じゃなくて、異常すぎる。



「僕は何をしたら発情期に入れるの?ヒバリくんが僕を求めてくれるから、僕も早くそれに応えたいんだ」



「ありがとう、ユル。ただ、ユルに手伝ってもらう事は――……いや、あったか。今度の魔族との争いで、ユルは俺と一緒にマオのそばにいるだけでいい。マオの名前を呼んでも構わない」



 よく分からないけど、僕はヒバリくんのそばから離れなければ大丈夫だよね。

 それに、群れの一員のマオくんが巻き込まれるなら、僕も協力しないわけにはいかない。



「分かった。それが無事に終わったら、僕の発情期に付き合ってね」



「その時は、ユルが泣いて俺から逃げようとしても、絶対に離してやらないから安心してな」



 そうして、僕はヒバリくんから離れずに、みんなと一緒にダンジョンへと向かった。

 ダンジョンには魔族とマオくんがいて、人間達も犠牲を出しながらも、数だけでどんどん近づいてくる。

 僕達は中立でありながらも、群れの一員であるマオくんに協力する為に来たと伝えている頃には、人間達の姿が見えてきていた。



 なんだ、この人数は……おかしい。

 犠牲が出ても誰も気にしてないし、国民まで巻き込んでるなんてありえない。



 人間は全て駒だとでも言うような進行の仕方に、僕はヒバリくんにしがみついた。

 異常さの恐怖が目の前に広がり、目を背けたくなってしまう。



「ユヅ、大丈夫だよ。怖くないからね。今はもう、大丈夫だよ」



 ユハ兄さんが大丈夫だと言うが、この異常さとユハ兄さんの言葉には、少し懐かしい気持ちになる。

 だが、何も思い出す事はできず、そうこうしているうちに、目の前には僕の推しではないエルヴィーが、開眼とともに嬉しそうな表情をする。



「柚鶴、会いたかった。ずっと探してたんだよ。どこに隠れてたのかな」



 あ……駄目だ。

 この人は駄目だ。

 僕はこの人から逃げないと――



「ユル……さがって。俺が、なんとかする」



 そう言ってマオくんが獣の姿になると、僕の視界からエルヴィーが消えた。



「……マオくん」



「ッ……柚鶴、俺の名前を覚えて――」



「黙れ。ユルは俺を呼んだ。ユルのマオは俺だ」



 マオくんを呼んだつもりが、エルヴィーが反応した事で、エルヴィーの前世が真緒くんである事に気づいた。

 しかし、それに気づいてしまえば、なぜか震えが止まらず、僕はヒバリくんを引っ張ってユハ兄さんの後ろに隠れた。




 

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