第40話 厄介事の予感



 ユハ兄さんが話を進めるなか、ストーカー達はユハ兄さんに苛立ちを見せる。

 彼らの僕への執着は異常で、僕の居場所を教えてもらえないのなら、いるのが分かった以上、どんな手を使ってでも捜し出すと言い始めた。

 そこで漸く僕の出番なのだが、彼らを他の世界に転生させてほしいという気持ちでいっぱいになる。

 正直、彼らが戻ってこない可能性があるのなら、僕としてはその方がいいのだ。

 この異常なほどの執着心は、僕が諦めたくなる原因でもある。



「ヒバリくん、僕を叩いて!大変だ。眠くなってきた」



「それは大変だな。大丈夫、この声はもう彼らに届けてる。そのまま話して構わないぞ」



 あ……うん、ヒバリくんの方が早かった。

 僕の現実逃避よりも早いなんて、さすが僕のツガイだ。

 眠気が吹き飛んでしまったよ。



「ヒバリくんが僕の旦那様で良かった」



「それは良かったな。旦那発言のついでに、ツガイについても説明したらどうだい?彼らがユルを諦められるように、手助けしてやらないと」



 ヒバリくんは面白い事を言うね。

 それは諦める手助けじゃなくて、怒らせる手助けって言うんだよ。

 それに、ヒバリくんが言っちゃったから、みんなの殺気が凄いことになってて、僕は震えが止まらないや。



 ブルブルと震えている僕を包み込むように、ヒバリくんは抱きしめてくれる。

 しかし、ヒバリくんの翼がないためか、震えがおさまらずにいると、ツガイの存在を思い出させるように足枷に魔力が一気に流される。



「ヒバリくんの魔力……気持ちいい」

 


「んッ……ユルは本当に可愛いな。その一言がどんな状況になるか分かってるのかい?」



「ヒバリくん、好き。僕のツガイ」



「ふむ……流しすぎたか。ユハク、残念ながらユルは俺を好きすぎるあまり、発情しかけてる。これで目的以上の事を達成した。生きるか死ぬか、あとの事は彼らの行動次第。解散するぞ」



 ユハ兄さんの嬉しそうな「了解」という声が聞こえると、計画通り僕とヒバリくんは神殿に帰り、ユハ兄さんとエルフ達も帰ってきた。

 ここからは父様と暗部隊の仕事である。



「ユヅ、ありがとう。おかげで彼らは焦りだしたよ。問題を起こすのもすぐだろうね。そういう奴らは、僕の呪いがすぐにでも記憶を蝕むはずだよ」



 僕が発情しないように、ヒバリくんの翼に包まれているところを、ユハ兄さんは頭を撫でてきて喜んでいる。

 ユハ兄さんの呪いは、実はあの場で何種類も発動していたのだ。

 彼らが僕を求めれば求めるほど、僕を忘れていくようになり、問題行動を起こせば今世も含めた全ての記憶が失われていくようになっている。

 そして、暗部隊は父様の指示通りに、問題行動を起こしそうな者達を追い、記憶が失われる瞬間に保護するのだ。



「それにしても、ヒバリさんも気づいたよね。奴がいなかった」



「そうだな。厄介者ほど慎重で面倒だ」



 奴?まさか、人間の中にまだいるの?次は魔族の番だと思ってたのに……やっぱり、そう簡単にはいかないな。



 暫くの間、会話だけを聞きながら、ヒバリくんの翼の中でボーッとしていると、父様が帰ってきて僕を呼ぶ。

 父様に呼ばれれば、僕の体はすぐにでも父様の元へ行き、ギュッと抱きついて頭を撫でてもらう。



「ユル、大丈夫だったか?」



「うん、ヒバリくんがいてくれたから大丈夫。でも、ヒバリくんとユハ兄さんは、不安があるみたいだよ」



「だろうな。今はフール国にもいないらしい。厄介な事にならなければいいが……それはそうと、ノヴァから報告が届いた。魔王がまたしてもユル不足になっているらしい。なんでも、魔族のユルのストーカーが、ユルを捜しまわったり、ツガイを無理やり解消したりと、とんでもない事をしてるようだ」



 ツガイの解消!?そんな事したら死んじゃう!



「魔族は行動力が凄いな。ツガイ解消は死だ。そんな事をしたら、ユルに会うどころじゃないだろ」

 


「ヒバリ殿の言う通り、魔族のストーカーはほとんどが死を選んだな。ツガイでなくとも、自分が魔族というだけで、ユルに会えないと判断したのか、死を選んで人間に生まれ変われるように望んでいたらしい。そしてここからが重要だ。魔王として育てていた者が転生者だったらしく、ユルを思い出した途端に魔王に殺された」



 マオくん!?まさか、嫉妬と怒りでユル不足になってるとかじゃないよね?



「マオはバカか?ユルの群れに入りたいなら、殺さずに魔王にして、傀儡にする方法もあっただろ」



「ノヴァが言うには、ユルを苦しめる元凶を魔王にするなら、自分が魔王としてユルを守る……だそうだ。ヒバリ殿がいるから、ユルは安心だとも言っていたらしい」



「ふむ……それは、夫婦契約どころか、ユルの群れに入る事すら諦める……という事でいいのかい?」



 その瞬間、僕の体に電撃が走ったかのように、反射的にヒバリくんの元に行き、翼を向けた。

 ヒバリくんはうっとりとした表情でありながら、悪そうな笑みを浮かべ、僕の風切羽に触れた。




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