第39話 計画実行
王様と会ってから数日後、いよいよ計画実行の日がきた。
結局、僕が王様に会った意味はあまりなかったが、みんなにとっては意味があるものだったらしく、王様はフール国を代表し、中立国として僕を信仰する事になった。
僕への信仰を集めたがっているヒバリくんは、僕が生神に近づいた可能性があるため、非常に満足気である。
「ユル、ここから彼らを見て、自分の選択を彼らに伝えるんだ。分かったかい?」
現在、僕とヒバリくんは仮の神殿の屋上に身を潜め、マジックミラーのような特殊な天窓から覗き見していた。
この窓は、精霊の魔術とユハ兄さんの呪いによって作られており、魔力まで完璧に隠せるものになっている。
つまり、彼らがいる場所へ行くユハ兄さんからは、魔力視を使ったとしても僕のことが見えず、ユハ兄さんなりにヒバリくんへの信頼の証でもあった。
「分かった。僕はヒバリくんと群れを守る為に、ヒバリくんから絶対に離れないし、自分を差し出す気もない」
僕に何かあったら、ツガイのヒバリくんにも影響が出ちゃう。
それに、僕には大切な群れがあるんだ。
そうして、誘き寄せられた僕のストーカー達が集まり、変装したユハ兄さんも中へ入った所で全員を閉じ込めた。
数名と聞いていたが、僕のストーカーは予想以上に多く、フール国にいた人間だけでも十人いる。
どの男性も相変わらずのイケメンであり、僕好みの人は一人もいない。
そして彼らは、エルフ達に僕を捜してほしいと願ったり、婚約や夫婦契約の解消の手助けを願ったりと、とにかくどうにかして僕のストーキングをしたいらしい。
そんな彼らの様子を見たヒバリくんは、珍しく難しい顔をする。
「ふむ……」
「ヒバリくん?どうしたの」
「いや、少し気になる事があってな……ユルは予定通りで構わない」
僕は……てことは、ヒバリくんには何か誤算があったんだ。
んー、僕が考えても分からない――……ハッ!まさかヒバリくん、僕がイケメン達に目を奪われてると思ってる!?
「安心して、ヒバリくん!僕はヒバリくん一筋だよ!浮気なんてしない。不安なら、僕は彼らを見ないようにする。寧ろ見たくない。ちょっと怖くて気持ち悪いから」
「……ふはっ」
僕がヒバリくんの胸に顔を押し付けると、ヒバリくんは見た事がないほど無邪気な笑顔で、僕の頭を撫でてくる。
あぁ……僕はやっぱりヒバリくんが大好きだ。
糸目イケメンの無邪気な笑顔なんて、癒し以外のなにものでもない。
それに牙も似合ってて……ヒバリくんのいろんな顔を見れるのは、ツガイの特権だ。
「何喜んでるんだ?ユルは本当に可愛いな。ありがとう。俺はユルが浮気をするなんて思ってないから安心してほしい。浮気をしたとしても、俺が認めたマオ以外は全員いなくなる。浮気をした相手がいなければ、それは浮気をした事にならない。そうだろ?」
そんな怖い事をさらっと言って、こっちに同意を求めないでほしいな。
そうして、僕達はエルフとストーカー達のやりとりを暫く見守り、エルフがユハ兄さんを呼んだところで、ユハ兄さんが柚白として彼らの前に立った。
「みんなは……きっと覚えてるよね。僕はユヅの唯一の兄で君達の敵。僕はユヅの居場所を知っていて、今世でも勿論ユヅの兄だよ。でも、君達はただのストーカーだよね。迷惑をかけるのは良くないと思わない?」
ユハ兄さんは、わざと刺激するように話し、ストーカー達は黙って睨んでいるようだ。
神殿に入る前に武器は回収しているため、彼らの中には魔術を使おうとする者がいる。
しかし、神殿の中に入った時点でユハ兄さんの呪いがかかっているため、魔術を封じられていた。
「こうして見ると、ユハ兄さんの呪いって本当に凄い……というか、ちょっと危険なんだね。父様が警戒してたのも納得だ」
「ユハクの魔術は確かに危険で貴重だ。けど、実はルーフェンの方が相当危険だったりもするな」
「そういえば、父様の実力って知らないや。父様は訓練中でも本気を出さないし」
でも、ユハ兄さんは父様の魔力がよく分からないって言ってた。
全身に行き渡ってるはずの魔力が、父様の場合は偏りがあるんだって。
「ルーフェンはユルに危険がない限り、本気を出す事はないだろうな。ただ、ヒントを言うならマオだ。なぜマオが、ルーフェンの夢にしか出なかったのか。ユハクやノヴァの夢にも出ておいた方が、ユルをツガイにするには都合が良かったはずだろ?」
「その言い方だと、父様の夢にしか出れなかったって事になる。でも、ヒバリくんは僕の夢に出てこないマオくんに対して怒ってたよね?それに、マオくんの性格なら、父様ひとりが限界だと思うんだ」
「それはどうだろうな。確かにマオは内気だ。それでも、ユルのツガイになると宣言したり、魔王にもなってる。マオはできる事なら二人の夢にも出て、挨拶をしたかったはずだ。それに、ユルは神獣だから例外。夢に出れて当然だ」
ユハ兄さんの様子を見守りながらそんな話をするが、僕はヒバリくんのヒントが何を示しているのか分からず、最終的には考える事をやめた。
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