第22話 巣の候補



 さっそく僕の精神安定剤となってくれてるヒバリくんは、僕を抱きしめて頭を撫でてくれる。

 その温もりが心地良く、甘えたくなってしまうのだから、ツガイという存在は凄い。

 だが、ヒバリくんにとってはどうなのだろうと思い、ヒバリくんにツガイについて訊いてみた。



「ヒバリくん、僕ってヒバリくんにとって何?」



 ……ん?待って、これじゃメンヘラ彼女みたいになってる!



「ち、違う!やっぱり無し!違くて、僕はヒバリくんがツガイになって、甘えたくなるし落ち着くの。それってヒバリくんもそうなのかなって思っただけで……変に思わないで」



 両手で自分の顔を覆うと、ヒバリくんはその手を掴み、赤くなっているであろう僕の頬に口づけをする。



「可愛いな。ユルは俺にとって、全てを預けられる存在で、俺の命だ。ユルが悲しめば俺も悲しい。ユルが苦しければ俺も苦しい。ユルが嬉しければ俺も嬉しくなる」



 うぅ……なんか恥ずかしい。

 というか、ヒバリくんって結構重い方なのかな?それもまた良い……というより、愛されてるのが分かるのは、素直に嬉しい。



「何より、ユルを愛しいと思う。愛してる以上の言葉を探すのは難しいな。これほど、愛してるという言葉がしっくりくる日がくるとは思わなかった。俺が愛を与える……というより、愛を捧げる日がくるとは思っていなかったからな。ユルが不安になるなら、他の言葉も探して――」



「もう大丈夫です!ヒバリくん、それ以上は照れてしまう!ドキドキ突破をする日がくるとは思わなかったよ。僕は死んでしまうかも……ありがとうございます。幸せです」



「敬語を使うユルも可愛いな。しかも、黒い翼ではなく、光が舞って……求愛してるのかい?」



「きゅッ……求愛は、僕の身体が正直なだけ。仕方ないんだ。許して」



 嬉しさのあまり、ヒバリくんの首にスリスリをして求愛してしまうが、発情しているわけでもなかったため、ヒバリくんはただただ僕を愛でてくれる。

 それから暫くヒバリくんに甘え、ヒバリくんの部屋から出る気になれなかった僕は、ヒバリくんが僕を連れて外に行こうとしたため、泣きながら外に出たくないと訴えた。

 


「ユル、ルーフェンのこと気にならない?」



「うっ……でも、ここから出たくない」



「……巣から離れたくないとかか?いや、ユルはまだ巣作りをしてない。ここはユルの巣ではないはずだ」



 僕はただ出たくないだけなんだ。

 魔物とか関係なく外に出たかった時と同じで、ただここにいたいだけ。

 ここは落ち着くし、僕のお気に入りの場所。

 初めてのお気に入りの場所。

 屋敷の部屋とは違うし、家とは違くて、今はここにいたいんだ。



「僕のお気に入りだから、今はここ」



「なるほど、巣の候補って事か。分かった。好きなだけここにいるといい」



 巣の候補と言われると落ち着かなくなるが、それでもここから出る気にはならなかったため、僕はベッドに潜り込み、ヒバリくんが父様達に状況説明をしに行ったのを見送った。

 そして、ヒバリくんがいないのをいい事に、僕はヒバリくんが捨てた羽根を回収し、ベッドの上に広げていく。



 ヒバリくんの羽根!僕と違って大きいし、触り心地も最高だ!なにより、推し……いや、旦那様の一部だった物を集められる事が嬉しくてたまらない!あぁ、最高だ。

 これだけでもツガイになって良かったと――



「ユル?なに可愛い事をしてるんだい?」



「ヒッ……ヒバリくん、これは……えっと……」



「そんな可愛い事を、俺がいない所でしないでほしいな。見せて、ユル」



 僕がヒバリくんの羽根を集めて、スリスリしているところを見られてしまい、顔が熱くなるのが分かる。

 しかし、しゃがんで頬杖をつきながら嬉しそうに笑うヒバリくんに固まってしまい、そんな僕の頬をヒバリくんが突く。



 僕の旦那様は、こんなにいろんな表情ができたんだね。

 いつものニヤニヤじゃない……なんか、凄く好きな笑顔。



「ユル?大丈夫かい?」



「ヒバリくん……好き」



「知ってる。俺もユルを愛してる。俺の羽根が好きなら、それで何か作ってあげようか?」



 そう言ったヒバリくんは、羽根をいくつか取り、僕の髪飾りを作って、それをつけてくれる。



「うん、可愛いな。ユルの耳は、そのうち翼のようになる。まだ背の翼が育ちきってないから、今は背中に魔力を集中させているようだけど、次は耳が翼になるはずだ」



「……ん?僕、ここからまだ変わるの?不老になったんだよね」



「不老は、一定まで成長してからだ。鳥獣人のような姿になるなら、耳も翼のようになるな。とは言え、本当に翼になるのとは違って、耳にも羽が生えてくるだけだ。鳥獣人とユルの体の構造に違いがあるとすれば、ユルは足が人間のもだって事かな」



「そうなんだ。足はもうこのままだよね?」



「ここまで育っても足が人間のままなら、ここから鳥の足にするのは痛いだろ。あの神さんが、ユルに痛い事をするとは思えない」



 ふぅ、それなら良かった。

 ここから鳥の足になったら、さすがに怖い。

 羽くらいなら、毛が生えるのと変わらないし怖くはないけど、ムズムズするのは嫌だなあ。



「そう言えば、ヒバリくんの翼ってどうなってるの?出たり消えたりするのに、痛かったりしない?」



「痛くはないな。俺の翼は魔力そのものとも言えるから、魔力をどれだけ解放するかによって、出るか出ないかが決まる」



 魔力の解放……なんか、厨二病みたい。

 僕の旦那様は厨二病を患っていたのか。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る