第23話 外の様子



 失礼な事を考えていた僕を叱るように、ヒバリくんは軽くデコピンをしてきた。

 しかし、痛いと思えるほどの勢いはなく、ヒバリくんは「なんとも言えない予感がした」と言って、僕の額を撫でてくる。



 痛くなかったのに、撫でてくれるの優しい……好き!僕の旦那様は自慢のツガイだ。



 そうして、僕が満足するまでヒバリくんも一緒に部屋にこもり、イチャイチャしながらも二人の時間を過ごした。



 数日後、漸く満足したところで、僕は初めての神殿を目にした。

 神殿と言っても外のことであり、ここの場所全体が神殿なのだとヒバリくんが教えてくれた。

 特別なヒバリくんだけは塔で暮らしており、他のエルフはツリーハウスのような場所に住んでいるようだが、なんとそのツリーハウスに囲まれるように、見慣れたシュッツ家の屋敷が建っていたのだ。



 僕がヒバリくんとツガイになった事で、シュッツ家は中立となる為に、屋敷ごと神殿に移り住み、この数日で神様との契約を結んだらしいのだ。

 そのため、みんなはエルフと同じ和服を着ているが、暗部隊の人達だけは黒一色であり、その暗部隊の殆どはフール国に残したようだ。

 こちらに連れて来た数名はノヴァによって決められ、他の暗部隊の人達はフール国で情報収集をする為に残したのだと言う。

 と言うのも、暗部隊は父様でなければ纏められず、元々は父様が勝手に集めた人達だったようで、王としても残されても扱いに困ってしまうらしい。

 そのため指示は父様が出し、フール国にいながらもフール国の人間ではなく、どちらかと言えば神殿の人間という事になるようだ。

 住む場所は、元々屋敷があった場所に新しく家を建て、僕の森で魔物達とともにこれまで通り暮らすらしい。



「父様、残して来た暗部隊の人達は大丈夫なの?スパイみたいなものでしょ?王様もそれを許したの?」



「暗部隊の方は、神殿から来たエルフと同じだ。何も問題はない。それに、集まってしまった魔物達のこともあるうえに、ユルは魔物達との交流もあるだろう?あの場所を放置しておく事はできないからな。それと、王も問題ない。と言うより、神殿が相手では何も言えないだろうな。ユルのツガイが魔王ではなくエルフだっただけ、まだマシだと思ってるだろう」



 ヒバリくんはエルフじゃないけどね。

 でも、中立なのは間違いないし、特に問題はないのかな。



「父上はユヅのツガイは一人だと思ってるからね。なんなら、ヒバリさんとはツガイ契約をしてないと思ってるんじゃないかな。ほら、エルフは普通ツガイ契約ができないわけだし、ヒバリさんが特別らしい事は分からないわけでしょ」



 ユハ兄さんが父上と言う時は王様のことだが、特に心配している様子はなく、淡々と話しながらも、僕を抱きしめて頭を撫でてくる。



 そう言えば、ユハ兄さんは僕を天使って言うけど、本当の天使はヒバリくんだったんだよね……なんか面白い。

 まあでも、ヒバリくんもたまに僕のことを天使って言うからなあ。



「ユル様、暗部隊が気になるのであれば、私が様子を見てきましょうか?」



「ううん、暗部隊が神殿の人として扱われるなら大丈夫」



 みんなは僕の家族みたいなものだし、心配にはなるけど、実力で言えば僕なんかより強い人達だから、実力主義のフール国なら寧ろ安心だ。

 フール国で自由を得られないほど弱くない。



「ユルが心配なら俺が連れて行ってあげる。行きたい場所があるなら、どこへでも連れて行ってあげよう。とにかく今は、神さんからの頼み事が問題だ」



 ヒバリくんの言う通り、現在神様から頼み事をされていた。

 内容は、魔王が僕の姿を見れなくなった事で、とても不安定な状態となり、魔族達にエルフへの接触方法を探させているという。

 探すだけならまだいいが、酷い状況になった今、神様にまで影響を与えてしまい、魔族側の様子を確認する事ができなくなってしまったらしい。

 神にも匹敵する魔王の力に驚いていると、実はヒバリくんも同レベルだというのだから驚きだ。



「僕が魔王に会いに行けばいいんだよね?」



「いや、それは魔王の様子次第だ。神殿に行くことは分かっていただろ。滞在期間が伸びたくらいで、こんなに影響が出るとは思えない。それに、魔王ならエルフに接触する方法を魔物に訊けば済む話だ」



「じゃあ、本当にエルフ達だけで魔族の国に行くの?ダンジョンだってあるんだよ!?」



「精霊門ですぐに行ける。それに、エルフと魔族の戦力は同じくらいだ。そこに精霊もいれば、何も問題はない。というより、中立側からしてみたら危険はないな」



 そうだとしても……僕が原因なら、僕が行った方がいいんじゃないかな。

 魔王には会った事もないし、話した事もないけど……あれ?僕がそこまでする必要ある?僕は別に世界を救う勇者でもなければ、凄腕冒険者でもない。

 ただの神獣……僕、神獣だった。

 でもまあ、エルフのみんなに危険が及ぶのは嫌だしな。



 僕のクズな部分が顔を出し、葛藤しながらもブツブツとひとりで呟きながら考えていると、僕の自由を奪ったと思ったらしいユハ兄さんが、カッと目を開いて天を見上げた。

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