第24話 ストーカー
ユハ兄さんは深く息を吸い、天に向かって叫ぶ。
「おい、ストーカー神!」
急に口が悪くなったユハ兄さんは、とうとう神様をストーカー呼ばわりしてしまい、エルフがざわつく。
しかし、エルフは怒っているわけではなく、寧ろ笑いを堪えていたのだから失礼な話だ。
「ユヅの自由を奪わないでくれないかな。またユヅが引きこもったら、全部神のせいだからね。ただでさえ天使なユヅが、愛し子として神獣になったら、どうなるかくらい予想はついたはずでしょ。そんなユヅが、エルフを気に入ってて、暗部隊もエルフも群れとして判断してる。この状況でユヅが何も思わないはずがない」
凄い!ユハ兄さんはやっぱり僕の唯一の兄だ。
僕の考えなんて、お見通しなんだね。
「ユル、さっきから全部聞こえているぞ。そんな息子が私は心配だ」
「ユル様は、ヒバリ様に口を塞いでもらう事をお勧めします」
「それは口づけをしろという事かい?いいだろう」
怒っているユハ兄さんをそのままに、ヒバリくんは堂々と僕に口づけをしてくる。
だが、啄むような口づけは物足りず、ヒバリくんにしがみつこうとしたその時、ニヤリと笑って離れてしまった。
「これ以上は駄目。可愛いユルを他の奴に見せたくないからな」
「意地悪だ。でも、そんなヒバリくんも格好いい。ワルワル顔最高」
格好いいヒバリくんを見れて満足した僕は、グッと力強く親指を立てた。
すると、ユハ兄さんの方は話がついたのか、エルフ達とともに僕の元へ戻って来る。
「ユヅ、あの神がごめんなさいだって。今回の詫びとして良い情報を貰った」
詫びって……寧ろ僕の方がごめんなさい。
エルフが通訳してくれたのかな?神様、凄い笑われてるけど大丈夫?
「この世界には、僕の他にもユヅ目当てで転生してる奴らがいるらしい。ユヅのストーカー……その中でも特に執着が酷かった数名が、記憶を消しても自力でユヅを思い出したと言っててね」
「ヒッ……こ、こわ」
自力で思い出すって怖すぎるよ。
というか、転生者多すぎじゃない?どうして神様はこの世界に転生させたんだろう。
「怖いよね、大丈夫。ユヅのことは絶対に守るから」
「僕がユハ兄さんを守るんだ。それよりも、僕が死んだらみんなも追いかけてくるのって当たり前なの?それって、ストーカーのストーカーも?」
「ストーカーのストーカーは、さすがに命までは無理だったんじゃないかな?ユヅのストーカーも、追いかけてきたのは数人らしいしね。それに、あのストーカー神がユヅの嫌がる事をするとは思えない。ストーカーのストーカーは絶対に連れてこないよ」
そうなんだ……ストーカーも連れて来てほしくはなかったけど。
でも、今の僕にはヒバリくんっていう素敵な旦那様がいるんだ!ツガイ契約もしてるし、ストーキングされても困るのはそっちだ。
僕とヒバリくんの、幸せなイチャイチャを見てないといけないんだから。
「ヒバリくん、イチャイチャしようね!」
「なに、ユルはそんなに欲求不満なのかい?あれだけ抱いても足りないなんて、これからの成長がますます楽しみだな」
「違う違う!全然足りすぎてるので勘弁してください」
「足りなくなる日がくるから問題ない。もっと甘えておいで」
意地悪をしてくるものの、僕に甘いヒバリくんは僕の頭に口づけをし、いつものユル吸いをしてくる。
そして、そんな僕達を苦笑いで見てくる父様達に紛れて、ユハ兄さんは少し寂しそうな表情をしていた。
「兄離れか……可愛いユヅには、ヒバリさんが必要だろうけど、少し寂しいね」
「それを言うなら私の方だ。ユルが親離れなんて想像がつかない」
「お二人とも、離れるつもりがないのなら良いではないですか。こちらが離れなければ良い話です」
ユハ兄さん、父様、ノヴァが話しているが、勿論僕も離れるつもりはない。
ヒバリくんはツガイだが、そんなヒバリくんを含めて全員が家族だ。
神獣として言うなら僕の群れであり、ツガイを得たからと言って、本来の鶴のように群れから離れるつもりはない。
この世界での群れが、どれだけ重要なのかを理解しているつもりであり、立場的なものにも関係するからこそ離れる事は絶対にあり得ないのだ。
例えば、種族としての群れ、国としての群れ、領地としての群れ、家族としての群れといったものが、前世と同様にあるものの、この世界での群れはどれを取っても命に繋がりやすい。
だからこそ信頼できる群れは大事であり、それぞれが守りたいと思える群れというのは、本当に貴重なのだ。
父様が国よりも僕を選び、ユハ兄さんや暗部隊のみんなも一緒に来てくれたというのは、とても意味がある事であり、それを受け入れてくれたエルフやヒバリくんも大切な群れとなる。
もしも、王様が父様を国に縛りつけようとしていた場合、それは今後裏切る可能性があるという事にも繋がるため、ユハ兄さんの時もそうだったが、フール国の王は決断が早い。
こういった事が理解できるようになったのも、ヒバリくんに出会ってからであり、ヒバリくんは何度も前世での僕との擦り合わせをしながら、神獣としての僕に教えてくれるのだ。
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