第21話 正体



 目が覚めると、僕は下半身に違和感がある事に気づき、少し動こうとした。

 だがその瞬間、ありえないほどの快感に襲われ、「ひゃッ」と変な声が出てしまう。

 そこで漸く今の状況を理解した。

 僕を抱きしめて眠っているであろうヒバリくんの立派なモノが、まだ僕の中にある事に……



「ひばり、くん?」



 うん……返事がない。

 というか、僕の声おかしくない?カッスカスだよ。

 僕の天使の声はどこに行ってしまったんだ。

 ヒバリくんが口移しで水を飲ませてくれてたけど……それでも駄目だったのか。

 声も出なければ体も動かないし……激しかった。

 未経験の僕には刺激が強すぎる。

 僕の旦那様は絶倫かもしれない。

 でも、ワルワルが出てて格好良かったなあ。

 僕が泣いても嬉しそうにしてたし、何回も『愛してる』『可愛い』『ユル、ユル』って……僕の体は悲鳴をあげてたけどね。

 なんとか受けとめられて良かった。



 何もできない僕は、あの時のヒバリくんを振り返っては一人でドキドキしたり、毛布のように覆い被さっているヒバリくんの翼を触ってみたりと、ヒバリくんが起きるまでの間、中に入っているモノは気にせずに過ごした。

 だが、これが失敗だった。

 ヒバリくんは寝起きが良くないのか、寝ぼけては腰を揺らし、僕に快楽を与えては眠るという、ある意味拷問のような事をしてくるのだ。



「んっ……ひばり、くん……起きて」



「ユル……好き」



 可愛い!この旦那様、普段はワルワルなのに、寝ぼけてる時は可愛すぎるよ!なんだろう、ヒバリくん限定で新しい扉が開きそうだ。



 僕は、なんとかヒバリくんの誘惑に耐え、ヒバリくんの目が完全に覚めた頃には、あまりの快楽に意識が朦朧としていた。



「ユル、おはよう。大丈夫かい?」



「ひばりくん……はよ。きょうも……格好いい」



「ユルは相変わらず褒めてくれるな。ありがとう。ツガイになったユルは、ますます可愛いな」



 ヒバリくんも褒めてくれるからお互い様。

 でもね……さすがに元気すぎない?



「ひばりくん……元気ね」



「これくらいで疲れていたら、ユルのツガイ失格だ。今は良くても、ユルが成長……というより、神さんの愛が増えるにつれて、ツガイではいられなくなる」



 それは僕の性欲が強くなるってこと?なんか嫌だな。

 神様、これ以上愛さなくても、もう十分伝わってるから許してほしい。



 ヒバリくんはユル吸いをしながら、僕の顔中に口づけをし、少しずついつものヒバリくんの姿に戻っていく。

 四つもあった翼は何事もなかったように消え、瞳の色も元に戻り、僕の声と体も癒してくれる。

 しかし、伸びた牙はそのままだったため、ヒバリくんが笑う度に胸が高鳴り、癒されても動けずにいる。



「ヒバリくん、あのさ……」



「俺の正体が知りたい?」



「う、うん。翼は天使っぽいけど、目と牙は悪魔っぽくて、どっちも好き」



 顔を覗き込まれるため、僕は目を逸らしながらも、ヒバリくんからは離れずにいた。

 すると、ヒバリくんは愛でるように僕の頭を撫で、「ユルは賢いな」と言って褒めてくれる。



「俺は堕天使だ。とは言え、神さんを裏切ったわけではない。俺は精霊王とエルフがツガイになった際に産まれただけで、天使にも悪魔にもなれる存在。それが堕天使だ」



「ふぇー……僕の知ってる堕天使と違う。でも、立ち位置を変えられるのは僕に似てる」



「歴代の神獣の中でも、異常なほど愛されているユルとは似ても似つかないけどな。ただ、立ち位置を変えられるのは確かだ……というより、立ち位置なんて本来はないんだ」



 立ち位置がない……どういう事だろう。

 魔族と人間が争うのは、命の危険があるからでしょ?お互いに命の危険がなかったら、立ち位置なんて関係ないだろうけど、生きてる以上、何かしらの欲は生まれて、また争いが起きると思う。

 魔族側はわからないけど、少なくとも人間は、人間同士でも争うくらいだからね。



「分からないかい?立ち位置は、自分で決めても周りからはそうは見えてない場合があるんだ。それをユルは知ってるんじゃないか?」



「ッ……そうだね。僕がなんと言っても、僕のストーカーのファン達は僕を恋人だと言ってた。僕を否定するのに、僕の存在は否定してくれない。僕のことを見なくていいのに、なんで彼らは推しよりも僕を見てるのかって……最初は不思議だったんだ。でも、それが続くとだんだん、僕が僕でなくなる気がして……怖くて、引きこもった」



 モテるのも大変なんてものじゃない。

 僕には僕の考えがあって、人を好きになるのも僕の自由だ。

 勿論、ストーカー達だって僕を好きになるのは自由だ。

 でも、ストーカー行為については、最初はやめるよう言ってたけど、それも最後は諦めて、ファン達を追い払ってくれるなら困らないだろうって、自分に言い聞かせてた。

 僕が諦めないで行動を起こしてたら、何か違ってたのかな。



「ユル、ここでは決して変わらないのは、ユルが俺のツガイで、神獣ってことくらいだ。他は変えようがある。例えば、シュッツ家の息子という事も、中立という事もな」



「ッ!父様の息子なのは変わらない!駄目だ、それだけは駄目だ。今の僕がいるのは、父様のおかげなんだ」



「そういう、どうしても手放したくない立場は、ユルが守り続けないといけない。いいかい?俺はユルを手伝う事はできても、最後に証明するのはユルだ。忘れたらいけない」



 最後に証明するのは僕……そうだ。

 僕が諦めたら駄目なんだ。

 自分のことを自分が諦めたら、それは自分を見捨てるのと同じなのかもしれない。

 勿論、他人に迷惑をかけない程度に……それは僕がされてきたから、ちゃんと分かってる。




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