第9話 歪んだ兄弟愛



 精霊達に解放されたユハ兄さんは、すぐさま僕に謝ってくる。

 昔から僕のことになると、どこか怪しい方向へ意識が持っていかれてしまうユハ兄さんは、冷静になってくれたようだ。



「ユヅ、僕がユヅを愛してるのは分かるよね?」



「うん、ユハ兄さんは僕のことが大好きだからね。僕も、ユハ兄さんのことは大好きで、自慢の兄だった。でも、ユハク殿下は違う。僕が、ファンの人達を避けている理由を、ユハ兄さんなら分かっててくれた」



「ユヅ、頼むから殿下はやめてほしい。ユヅにだけは呼ばれたくない。焦りすぎた僕が悪かったよ。今の僕は、ユヅにとって害になる。まるで、ユヅのストーカーだ。彼らと何も変わらない」



 すると、何を思ったのかユハ兄さんは氷の魔術を使い、僕の目の前で両目を傷つけたのだ。

 一瞬の事で何が起こったのか分からず混乱している僕に、ユハ兄さんは血を流しながら手を伸ばしてくる。

 そしてヒバリくんは何もしない。

 ただ見守っているだけだ。



「ユヅ、今世ではユヅが僕の面倒を見て」



「……ユハ兄さん、とうとう頭が……その前に、早く治療しないと。この世界では便利な魔術があるでしょ?」



「それは無駄だよ。僕は呪い系統が得意でね。視力は元に戻らないし、傷も残ったままだ。こんな王子を誰も望まない」



 嘘だ……僕がユハ兄さんを追い詰めたの?ユハ兄さんはそれで幸せなの?僕は……なんでこんなに冷静なんだろう。

 自分が怖い。

 ユハ兄さんが誰からも望まれないなら、次は僕がユハ兄さんを守らないと。

 そうだよね、ユハ兄さん。



 僕はユハ兄さんに手を伸ばす。

 自分が今、どういった表情をしているか知りたくもない。

 だが、ユハ兄さんに触れた瞬間、ユハ兄さんの真っ赤に染まった目が開き、恐怖よりも喜びと安心を感じてしまった。



「ユハ兄さん、僕がユハ兄さんのお世話をするね」



「よろしく、ユヅ。僕はユヅがいてくれるならそれでいい」



 ユハ兄さんの血を綺麗にし、傷を治してあげれば、ヒバリくんはそんな僕達の姿を見て、楽しそうに笑みを浮かべていた。



「なんとも、歪んだ兄弟愛だ。そんなユル様も可愛らしい」



「ひ、ヒバリくん……僕って変?」



「変ではないな。むしろ神獣らしい。神獣は、それぞれの特性に合わせた生き方をする。ユル様であれば鶴……群れで行動し、長寿や幸福を象徴するが、一方で死や不吉の象徴とされている。ユル様が黒にも白にもなり、その時々で人々を惹きつけたり、魔物を引き寄せたりするのは鶴らしくもある」



 それって神様は僕の名前から鶴にしたのかな。

 よく分からないけど鶴は好き。

 千羽鶴を折った時は、何度も命を助けてくれた。

 一人につき一回きりだったけど、それでもお祖父ちゃんとお祖母ちゃんが危篤状態だった時に助けてくれたんだ。



「で、でも待って。僕は群れで行動してない」



「ユル様がそうであっても、暗部隊やエルフがいる。そもそも、ユル様は俺達が見張っていると分かっていて、安心して行動しているように思えるな。違うかい?」



 そう言ってヒバリくんが僕の顔を覗き込んでくるため、僕はユハ兄さんの背に隠れながら、何度か頷く。

 すると、精霊達が僕を揶揄うように集まってくる。



「ユヅをあまりいじめないでほしいな。きっと可愛い反応であろうユヅを見れないのは残念だけど、ユヅの体温が上がったのを感じる。目が見えない分、他の感覚が研ぎ澄まされて、ユヅを近くに感じる事ができるのは、嬉しい収穫かな。それに、ユヅの好みも相変わらずだね」



 僕としては、ユハ兄さんの好みも知りたかったけど、ユハ兄さんは僕のことしか言わないから、本当の好みが分からない。

 弟が好きとか?でも、今世の弟……第三王子はどうなんだろう。



「ユハ兄さんは、第三王子をどう思ってるの?」



「どう……どうとも思わないよ。心配してるの?大丈夫だよ。僕の愛しい弟はユヅだけだからね」



「その心配してないよ。ただ、気になったんだ。ユハ兄さんは弟フェチか何かかと思って」



「僕はユヅフェチかな。可愛いユヅ……こうして触っているだけでユヅを感じられる。目を開けても見えないのに、ユヅの顔が見える」



 それは危ない方にいってる気がするよ。

 でも……ユハ兄さんの開眼が格好いい!目を閉じたユハ兄さんが開眼すると、瞳が白くて僕とは目が合わないけど、傷もワルワル感が出てる。



 ユハ兄さんの目が見えない事を良い事に、ユハ兄さんの開眼を間近で堪能する。

 その後、ユハ兄さんが漸く結界を解くと、ノヴァと父様が部屋に入って来て、ヒバリくんが立会人として説明をしてくれた。

 その際、前世のことまで話してしまったヒバリくんだったが、父様もノヴァもあまり気にしていない様子だ。

 むしろ、僕の翼が少しの間であっても黒くなってしまった事の方が気になるらしい。



「ユル、本当に大丈夫なんだな?どこも変わったところはないな?」



「大丈夫だよ。それよりも、王子様を傷つけた事で、父様に罰が与えられたりはしない?」



「それは大丈夫だろう。立会人がエルフであり、ユハク殿下の言葉があれば問題はない。というより、神獣であるユルがいる限り、何もできないだろうな」



 そういうものなの?なんか、要注意人物にでもなった気分だ。

 





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