第4話 理想の男性
父様は、ノヴァを側近に選んだ時もそうだったが、僕を糸目男性に預けたくはないらしい。
というのも、僕が選ぶ者達は全員、どこか異常なのだ。
更に、僕は一般的に容姿が良いとされる者を選ばないことで、その者達が僕に執着し、僕に執着する者達に恋する者達が、僕を勝手に敵視するのだ。
「父様、この肖像画の人達は僕の敵だ」
「いや、敵ではない。むしろ、敵になりうるのは、エルヴィーだろう」
父様は分かってないなあ。
ノヴァもそうだけど、糸目イケメンは素敵なんだよ。
魅力が盛り沢山だ。
まず、凄く男らしい!なにもかもが格好いい。
僕が目指すのは、こんな男の人。
僕は可愛い……というより、今世は美人寄りだけど、それは男として馬鹿にされるんだ。
だから、僕は凶悪な男を目指す!それでいてギャップのある人が好き。
僕は、自分がどんな風に見られているかを自覚している。
だからこそ、僕の理想の男らしさを目指していた。
だがある日、糸目男性に出会ってしまったのだ。
それも、ただの糸目男性ではない。
怪しさのある糸目男性は顔が整っており、色眼鏡がよく似合い、いつも笑っているが、開眼の瞬間がたまらなく格好いいのだ。
それに惹かれてしまえば、僕にはもう推す以外の選択肢はなかった。
「父様、ワルワルは最高なんだよ。僕の憧れの姿なんだ。あぁ……ワルワルの糸目イケメンで、八重歯があれば完璧なのに。悪の象徴でもいいんだ。ちゃんと、大切なものを守れる強さがある、格好いい人なら僕は推す。その点で言うと、この討伐部隊の人はあんまり推せない。ただの戦闘狂なら僕は推さない」
「……ノヴァにしておくか?」
「何が?確かにノヴァは僕の推しだけど、残念ながら八重歯がないんだ。牙があったら、ノヴァをお婿さんにもらいたかった」
この世界は女性がいないから、結婚するなら男の人……それなら、理想の人と結婚したいけど、緊張のしすぎで無理かもしれない。
推しは推しで分けたいけど、好きな人と結ばれたいとは思うから、そうなるとやっぱり推しとの結婚……でも、ノヴァと結婚は想像がつかないや。
「ユル様の理想でしたら、まお――」
「ノヴァ!それ以上は言うな。いいな?」
ノヴァが何かを言いかけた途端、父様は慌てた様子で遮った。
しかし、僕の理想が『マオ様』である事が分かった僕は、父様の膝から降りてノヴァに詰め寄る。
「ノヴァ、マオ様ってどんな人?僕の理想なの?」
「私は側近として、ユル様のそばにいたいと思っています。なので、これ以上は言えません。側近から外されたくはないので」
ノヴァはあくまで側近であり、本人も僕の側近として人生を歩みたいと望むほど、僕の側近に拘っているため、ノヴァが僕を恋愛対象として好きになる事はない。
それもあって、僕はノヴァを側近に選び、父様もノヴァの側近を許してくれたのだ。
だが、僕の側近であっても、ノヴァも暗部隊である。
そのため、僕よりも父様の命令に従わざるをえないのだ。
「マオ様に会いたい。どんな人なんだろう。ノヴァが言うなら、きっと僕の理想の推しなんだろうなあ」
僕はノヴァの前に立ったまま、会った事のない『マオ様』に思いを馳せる。
そんな僕を連れ戻すように、父様は僕を抱えて羽づくろいを再開したため、僕は妄想をしながら架空の推しを着実に作り上げていた。
それから数日後、僕は父様に連れられ、学園の見学にやって来た。
成人を迎えた者達が通う学園は、専門ごとに分かれており、魔術科、剣術科、武術科、弓術科がある。
これで分かる通り、成人を迎えた者達は更に武力を鍛え、この国特有の自由を得る為に戦力を上げるのだと言う。
フール国にとって、自由は他国や魔族に縛られず、中立的立場であれるようにする事であり、その為の強さを持つ事を望んでいる。
国民にとっても、それがどのような強さだろうと、何か一つでも自分の強みがあれば、それを武器にして磨き、自分にとっての自由を得ようとしている。
だが、その自由が無秩序ではいけないため、国としては中立的立場の神殿のエルフを招き入れ、神々の目がある国として、王族も含めた全てに、ある程度の制限はかけているのだ。
フール国は良い国だと思うけど、やっぱり屋敷の外……特に街の中は緊張する。
翼も尾羽も、隠しておかないといけないと思うと、いつも以上に緊張してきた。
現在、僕は父様に抱えられている。
予期せぬ事が起こった場合、僕が慌てて翼を広げないようにするためだ。
訓練はしていても、本能からか……もしくは現実逃避をしてしまうのか、翼を広げて咄嗟に逃げようとしてしまうのだ。
僕がどんなに頑張ろうとも、僕の身体は前世の頃から変わらず正直なようだ。
それにしても、父様に抱えられてしまう僕って、子どもみたいに思える。
もしくはマスコット?小さいのも考えものだな。
「ルーフェン様、どうやらエルフがついて来ているようです」
「ああ、そのようだな。暗部隊も出しているが……簡単に侵入できるほど、学園が安全でないとなると、ユルを通わせるのは不安しかないな」
いや、みんなが優秀なだけだと思うよ。
それに、僕はまだ通うなんて言ってないし、優秀な暗部隊とエルフがいるなら、逆に安全だと思うのは僕だけかな。
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