第3話 種族
屋敷に連れ戻された僕は、机に並べられた複数の肖像画を前に、奪い取った肖像画だけを見つめる。
「父様、この方はどなたですか?格好いい……ノヴァとはまた違った格好良さがある」
「これは騎士団と学園の者達だ。ユルにはシュッツ家を継いでもらう為に、学園か騎士団に入ってもらいたい。この肖像画は、その為の餌だ」
騎士団と学園……ついに言われてしまった。
僕は早々に現実逃避をするように、急激な眠気に襲われる。
父様に頼まれれば、僕も断るつもりはなかった。
しかし、断らなくとも嫌なものは嫌なのだ。
「ユル、起きなさい」
そう言いながら、父様は自分の膝をポンポンと叩き、いつものように僕を呼ぶ。
子どもの頃からの癖で、大人になった今でも父様の膝の上に座り、父様に翼の手入れをしてもらうのだ。
「……父様は、本当に僕をシュッツ家の当主にするの?得体の知れない僕が?」
「ユルは得体が知れないわけではない。シュッツ家を継ぐのは、正直どちらでもいいんだ。ただ、それとは別に騎士団や学園を勧めたい理由はある。既に、陛下にはユルのことを報告済みだ」
父様は僕のことを心配し、自分が信用できる友である国王に、僕の秘密について相談したようだ。
すると、僕は初めての人型神獣ではないかという結果に辿り着いたらしい。
神殿の協力もあり、神獣の特徴である白黒の色や、魔力の性質を調べれば、神獣である可能性が極めて高く、僕の冒険者としての活動を利用し、こっそりと調べていたと言う。
そっか……僕には監視の目があるから、調べるのは簡単だったんだろうな。
「黙っていてすまない」
「父様は悪くないよ。僕を育ててくれて感謝してるんだ。でも、どうして騎士団か学園に行く必要があるの?僕が本当に神獣なら、尚更行かない方がいいんじゃないの?」
僕がそう言えば、父様は「行くべきだ」と断言するため、不思議に思って首を傾げる。
だが、父様は僕から目を逸らし、抜けた白い羽根を撫でた。
父様……もしかして、ずっと僕といたいから学園に行かせて、僕がシュッツ家から出て行かないようにしてる?父様は僕のことが好きすぎるからなあ。
「ユルには自由でいてほしいと思う反面、魔族側に行かれては、簡単には会えなくなる」
父様は渋々魔族について話をしてくれた。
なんと僕は、現魔王に求婚されているらしいのだ。
僕が人型の神獣であるという事は、分かっているようだが、神獣である事が求婚理由ではないらしい。
「僕、魔王と会ったことなんてないけど……僕のことを知ってるの?」
「魔王は魔物の目を通して、様々な事を把握できると言われているからな。魔王には神獣とは言われなかったが、ユルのことを陛下に相談し、調べるには十分な理由だろう?」
どうやら、僕をツガイにしたいのだと、魔族側に宣言してしまったらしい魔王は、わざわざ父様の夢を通して、僕をツガイに迎えたいと、ご丁寧に挨拶をしてきたのだと言う。
それによって、父様は人間側のことも僕に知ってほしいと思い、騎士団や学園に行かせようと思ったようだ。
「どこに行くかはユルの自由だが、知らない世界を見るのも良いとは思わないか?勿論、神殿側と暗部隊は、ユルがどんな選択をしても守る。学園でもだ」
神殿?確かこの世界の神殿って、ある程度の協力はしても誰かを守ったりはしないよね?どこに行っても中立だし、神様一筋だし……というか、種族も人間じゃなくてエルフだった気がする。
この世界においての神殿は、人間や魔族に関係なく、神に仕える者として、神が望む事以外では動く事はない。
エルフという種族は、神殿という神域からあまり出る事はなく、精霊とともに暮らす存在であり、気まぐれに人間や魔族の願いを叶える中立的立場だった。
そんなエルフが僕の存在を調べ、僕を守っていると言うのだから、僕が不思議に思うのも仕方ないだろう。
「エルフは気まぐれだし、僕をわざわざ気にかけるものなの?」
「ユルが神獣であれば、彼らはユルを主とするはずだ。神獣は神の愛し子だからな」
……それは聞きたくなかった。
まさか、神様って僕のストーカーのひとりだったりしないよね。
僕の名前が前世に似てるのって、それが理由とか……いや、考えるのはやめよう。
現実になりそうで怖い。
それに、今世の僕は可愛いより綺麗めだし、神様が僕のストーカーなんて、さすがに自意識過剰だ。
絶対に違うと信じてる。
僕は父様から目を逸らし、机に並べられた肖像画を見る。
改めて見てみれば全員が美形であり、前世を思い返せば、美形とストーカーが繋がってしまう。
ストーカーが増える事に抵抗はなかったが、今世では護衛が多いため、ストーキングする方が大変だろうと呑気に考えていると、奪い取っていた糸目男性の肖像画が目に入る。
それにしても……なんて格好いいんだ!この人がいるなら、行ってみてもいいかもしれない。
「やはり、ユルはその者が気になるか。討伐部隊隊長、エルヴィー・チャリオット。このフール国出身ではないが、この若さで戦闘狂の魔物討伐部隊の隊長まで上り詰めた実力を持つ」
二十七歳と書かれた紙には、エルヴィーについて書かれてある。
チャリオット国、第三王子。
自国に討伐部隊がないという理由だけで、友好国であるフール国に来た。
エルヴィーは例外として、忠誠心は問わない。
頭のネジが何本か外れてしまって見つからない。
敵に回すのはお勧めしない。
何を考えているか分からない。
性格の悪さから魔族だという噂あり。
個人的にはあまり近寄らせたくはないが、気に入ってしまうかもな。
といった、父様の感想と悪意のある言い回しで、エルヴィーについて纏めてあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます