第5話 推しとの出会い



 ノヴァと父様の心配をよそに、学園の雰囲気に慣れてきた僕は推し探しを始めた。

 父様に抱えられているため、やる事がないのだから仕方ないだろう。

 暇な僕は人間観察をする。

 しかし、やたらと視界に入ってくる光の玉、もとい精霊が邪魔をしてくるため、人間観察すら難しい状況だ。



 くそぅ……眩しすぎる。

 若者達の集まりが眩しいのか、僕の視界に入ろうとする精霊が眩しいのか……うん、これは絶対に後者だ。



「ユル、大丈夫か?」



 僕が目を擦っていると、父様が心配そうに僕の顔を覗き込んでくる。

 それにつられるように、ノヴァも心配そうな表情で開眼してくれた。



「ノヴァが開眼してくれたから大丈夫」



「大丈夫ではないな。どうしたんだ?また精霊が悪さをしているのか?」



「悪さではないんだと思うけど、僕の人間観察に精霊観察を捩じ込んでくるんだ。凄いよね。主張が激しすぎて、僕の目は潰れてしまいそうだ」



 残念ながら人間には精霊が見えないようで、この場では僕とエルフにしか見えていない。



「それはまた……ユルは好かれているからな。仕方ないんだろうが、エルフが近くにいると特に酷いようだな」



 そう言った父様は、エルフがどこにいるのか分かっているらしく、後方に視線をやる。

 それにつられるように、僕もそちらを見てみると、ヒョコリと顔を出す美しいエルフが、僕に向かって小さく手を振ってきたのだ。

 なんともお茶目である。

 だが、そんな時でも僕は見逃さなかった。

 遠くからではあるが、確実に僕の推しセンサーが反応したのだ。



「父様!僕、あの人の所に行きたい!あのエルフさんの名前を知りたい!」



「まさか……ここから見えたのか?」



「当然です!早く行きましょう!そして僕の代わりに、父様が名前を聞き出してください。お願いします」



 父様の腕の中で暴れ、翼を動かしてしまうと、父様はなんとか僕を落ち着かせようとする。

 しかし、敬語を使ってまでお願いする僕に慣れている父様は、こうなれば僕がどうなってしまうのかを知っていた。

 僕としては落ち着いているつもりだが、やはり僕の身体はどこまでも正直であり、翼と尾羽が白から黒に変化していく。

 それは、自分の願いが叶わないことで起こる事が多く、悲しみに沈めば羽根が抜け落ち、黒い羽根は魔物を呼び寄せてしまうのだ。

 逆に幸せの絶頂を迎えれば白に戻り、精霊のように光の粉を振りまいてしまう。



「ユルの敬語は嫌な予感がする。どちらを選んでも駄目だろう」



「ここではどちらの選択も良いとは言えませんね。ですが、黒より白の方が隠せます。どこかに隠れたらいいのですから」



「これは……学園に来た意味があったのか?」



「ありませんね。ただユル様を連れ出しただけになっています」



 なんか、ごめんなさい。

 でも、これは制御ができないんだ。

 なんでか知らないけど、僕の身体は前世の時から正直すぎるからね!



 それから、僕は父様に連れられて先ほどのエルフの元へ行き、僕は父様の背後に隠れながら翼と尾羽を揺らした。

 糸目男性の彼は、美しさも備えており、ブロンドの長髪は三つ編みで纏められている。

 そして何より、開眼の瞬間に見えた碧眼に、一瞬気を失いそうになってしまったのだ。

 そんな僕を、後ろから支えてくれるノヴァもまた格好良く、幸せのあまり光を振り撒く。



 あぁ……僕、これで悔いはないかもしれない。

 最高だよ。

 神様ありがとう。

 僕は幸せです。

 こうしてずっと眺めていたい。

 できれば僕を認識しないでほしい。

 僕はこっそり拝んでおくから、どうか開眼の瞬間も、ワルワルな瞬間も、喜んでいる瞬間も、苦しんでいる瞬間も、泣いている瞬間も、全てを余す事なく僕に見せてください。



「ユル様、しっかりしてください。全て声に出てますよ」



「ノヴァ、僕はもう死ぬのかもしれない」



「それはいけません。私もご一緒しますので、準備をしなくては」



 ノヴァの冗談はいつも面白いね。

 冗談に聞こえないところと、妙に背筋が凍るのはなんでだろうか。

 ほんの少しだけど怖いよ、ノヴァ。



「ルーフェン殿、ユル様はいつも通りかい?」



「ああ、いつも通りだな。ユルは名を知りたいらしい。本人の口から直接教えてやってくれないか?」



「なるほど……ユル様、お初にお目にかかります」



 そう言って僕の目線に合わせてくるエルフに、僕はどうしていいのか分からず、慌てて父様の羽織りに顔を突っ込んだ。

 すると、クスクスと笑う声が聞こえてくるが、どこか楽しげな様子に、僕は服の隙間から片目だけを出してみた。

 碧眼がチラリと見え、良いオモチャを見つけたと言わんばかりに、エルフは美しい顔を見せつけてくる。



「と、とと、父様!僕、ドキドキ死する!」



「大丈夫だ。そんな死因は聞いた事がないからな」



 父様はいつも通り落ち着いており、僕にツッコミを入れてくる。



「ユル様、俺はヒバリという。ヒーくんでも、リーくんでも、ヒバリくんでも、好きに呼んでほしいな」

 


 くん……たぶん、くん付けしてほしいんだな。

 分かった、それならヒバリくんだ。

 エルフは服装が和風だなあ、とは思ったけど、名前も和風だとは思わなかったよ。





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糸目推しは転生先でも推し活をしたい 翠雲花 @_NACHI_

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