第37話 ユルの現実



 目を逸らし、僕が何を間違ったのか知っているであろうヒバリくんが、あまりにも綺麗な微笑みを見せるため、王様がヒバリくんに釘付けになっている。

 そこで嫌な予感がした僕は、ヒバリくんの首に抱きついてスリスリする。

 自分の匂いを纏わせなければ、綺麗なヒバリくんはすぐに奪われてしまう可能性があるのだ。

 特に、今は王様がいる。

 権力者の前では、なにが起こるか分からない。



「ヒバリくんは僕のツガイだ。駄目。王様、ヒバリくんを見たら駄目」



「ん?お、おう……」



 なんで戸惑うの?まさか、僕のツガイだと言ってもヒバリくんを縛れない?僕が力を見せてないから?それなら、何か証明できるものを――



「信じてくれないなら、僕の翼が黒くなって抜け落ちる。そしたら、この国は滅ぶよ。それでもいい?」



「ん!?ま、待ってください。なぜそのような――」



 王様が近づいてこようとした瞬間、父様が王様の目を手で覆い、ユハ兄さんは王様が動けないよう呪いをかけた。



「ユル、大丈夫だ。ハリスはヒバリ殿に好意はなく、寧ろ警戒していただけだ。決して二人の間を引き裂こうとは考えていない」



「そんなに不安なら、ユヅもヒバリさんを縛ったらどうかな?鳥籠の鍵は中にいるユヅが持つんだ。互いに縛り合えば、何も怖くないはずだよ。大丈夫、ユヅはもう……何も失わない」



 何も失わない?……ユハ兄さんは、本当に何を知ってるの?どうして最近は、そんなに僕のことを手放そうとするの?ユハ兄さんは、これからもずっと僕の兄さんだよね?



「ユル、不安になる必要はない。俺はユルから離れない。ユハクも、ルーフェンも、いつまで経ってもユルの群れで、ユルの家族だ」



「……うん、ヒバリくんが言うなら、ずっとそうだ。僕は何も失わない。大丈夫。よく分からないけど、僕から離れるなんて事はないから、僕の前からいなくならないで」



 僕の恩返しは全然なんだ。

 僕への恩が残ってるのに、勝手にいなくなったら駄目だよ――……



 その瞬間、いつものように現実逃避の眠気に襲われ、起きた時にはなぜか王様がユハ兄さんに呪われていた。



「ユハ兄さん、どうして王様が呪われてるの?駄目だよ、僕達は王様に迷惑をかけない為に来たのに」



「……そうだね。でも、僕達の計画を知られるのは困るでしょ。どうするの?ユヅの身が危険だと思われて、計画を止められたら」



 確かにそれは困る。

 でも、計画の内容を僕は知らされてないよ。

 ストーカーが誰で、何人いるのかも分からない。



「ヒバリくん、まだ教えてくれないの?ストーカーの中に誰がいて、何人いるのか……教えてくれるって言ったでしょ?」



 僕がそう言うと、なぜか王様の驚くような声が聞こえたが、父様が王様相手に頭を叩いたのだ。

 本当に二人は親しい友人なのだろう。

 王様も苦笑いで父様に謝罪をし、僕に向かって微笑んでくる。



 うっ、なんでこの王様、僕に微笑んでくるんだ?ヒバリくんは……うん、ヒバリくんはいつものワルワル顔だ。

 相変わらず、僕の旦那様は格好いい。



「ハァハァ、格好いいヒバリくん。僕の旦那様、大好き」



「ユルは可愛くていい匂いだな。興奮してるところ悪いけど、ハリスにはユルが現実逃避をしてる間に説明をしたから、あとは奴らを誘き寄せるだけだ」



「分かった。どこに誘き寄せるのか分からないし、結局計画を知らされてないけど、ヒバリくんが言うなら分かったよ」



「忘れてしまったのかい?フール国の森にある、仮の神殿に彼らを誘き寄せ、そこに閉じ込める。そして彼らに姿を見られないよう、外からユルが話すんだ」



 ん?それで決まったんだっけ?その計画なら覚えてる。

 僕が勘違いしてただけか。



「それなら覚えてる。ただ、閉じ込めた人達がどんな行動に出るか分からないって……話したよね?」



「それは僕の呪いでどうにかできるよ。それに今回、僕は柚白ユハクとして彼らに会うつもりだからね」



 うぇ!?そんなの聞いてないよ!大丈夫かな。

 ユハ兄さん、今は魔力視ができても目が見えないのに。

 ここは、ユハ兄さんの世話係……から外されかけてる僕がついて行かないと!



「ユハ兄さん!僕も一緒に――」



「ユルは俺から離れるのか?」



「ヒッ、ヒバリくん……離れないよ。離れるわけがないじゃにゃいか」



「そうかい?てっきり、俺から離れて危険な場所へ行くつもりかと思ったにゃ」



 うん、ヒバリくんの猫語も可愛いね……分かってる。

 僕が噛んだのを真似しただけだってこと。

 本当に意地悪だ。

 でも大好き、ワルワルのヒバリくん。



 そうして、僕が現実逃避をしている間に王様との話は終わってしまい、僕は挨拶をしただけとなってしまった。

 王様の呪いは無事に解除されたが、父様とユハ兄さんはもう少し王様と話があるという事で、僕はヒバリくんとともに先に神殿へと戻ってきた。




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