第36話 計画と信者



 暗部隊を通して、王様の都合がいい日を決め、僕は初めてフール国の王様に会うこととなった。

 王の部屋にある、隠し部屋で会う事になったため、部屋ではまさかの王妃様に見張っていてもらい、隠し部屋に精霊門を繋いでもらった。

 ユハ兄さんは母親に挨拶だけ済ませるが、僕の存在がバレないよう、念の為お互いに声は出さずにいた。



 初めての王様……ユハ兄さんのお父さんなんだよね?僕はユハ兄さんと家族だけど、もう血の繋がりはない。

 こうして現実をつきつけられると……なんだか不思議な感じだ。

 そしてやっぱりイケメン。



「神獣様、ツガイ様、お待ちしておりました。私はフール国の王、ハリス・フールです」



「僕はユルで、この人が僕のツガイのヒバリくん。王様、僕のせいで迷惑かけた。ごめんなさい」



 ん?神獣になってから、ついつい出てしまう敬語以外で、敬語を使う気にはなれなかったけど……王様相手にまずかったんじゃない?言い直した方がいいかな。

 ユハ兄さんのお父さんとは言え、僕がいた国の王様だし。



「よし、もう一回!王様、ご迷惑をおかけして申し訳――」



「ユル、それは心臓に悪いからやめなさい。それに、ユルは誰よりも身分が上だ。何も問題はない」



 父様は、僕の翼に異常がないか確認をし、僕と目線を合わせて頭を撫でてくる。

 父様はいつまで経っても僕を子どものように扱ってくるが、父様に子ども扱いをされる事は嫌ではなく、寧ろ僕が父様の子どもであるのだと、安心できる。



「父様、好き」



「突然の告白だな。私も可愛い息子を愛してる」



 ふふん!やっぱり父様は可愛い僕を愛してる!相変わらずだけど、僕がどうなっても、父様は僕の父様だ。



「ユルも相変わらずルーフェンのことが好きだな。そういや――……いや、ここではやめよう。ユル、ここに何をしに来たか覚えているかい?」



 ヒバリくんは、ユハ兄さんと僕を見比べ、何かを言いかけていたものの、僕を抱き寄せて本来の目的に戻そうとした。



「僕は王様に会いに来た。僕のストーカー達に、神殿を頼っても無駄だって事を知らせる為に来たんだ」



「そう、計画を早めるんだ。ユルには俺がいる。それに、マオも連れて来たっていいんだ。同じ名前の奴が、ユルのそばにいるのは奴にとって辛いだろうからな」



 待って、それ僕は初めて聞いたんだけど……まさか、真緒くんって人がいるの?あの人……一番僕に執着してた人だ。

 人気モデルだったし、確かに人間離れした格好いい雰囲気だった。

 でも、あの人だけは本当に駄目だったんだ。

 どうしてだか忘れたけど、僕はあの人のことが怖かった。



「ヒバリさん、ユヅが怖がってる。それを言うのは良くないと分かってて言ったよね?ユヅは本当に駄目なんだよ。あいつだけは……許せない」



 ユハ兄さんは僕の記憶にない事を知っているようだが、その事を知りたくない僕は、それ以上話さないでほしいとお願いした。

 しかし、ヒバリくんは王様がいるにも関わらず、翼を出して僕を包んでくれる。

 それは話す事を辞めない、という合図でもあった。



「ユルには必要な情報だと思う。そいつは今、ユル好みの容姿だ。今度こそ、ユルを手に入れようとしている。だからだろうな……力を示し、この世界で自分に逆らう者が出ないようにする為、魔王を討伐しようとしている。もう誰だか分かったんじゃないかい?」



「……エルヴィー、僕の推しにならない人」



 通りで嫌な予感がしたわけだ。

 エルヴィーのことは気になってたし、正直いつかは会ってみたいと思ってた。

 でも、会わなくて良かった。

 あの人の転生先なら、僕はエルヴィーに会いたくない。

 それに、父様も嫌がってた。



「ユヅ、エルヴィーが前世の記憶を取り戻したのは、ダンジョンでの事がきっかけなんだよ。もしくは、本来のエルヴィーはあの時に死んでしまって、前世の真緒が出てきた可能性もある。それくらい、彼の性格が変わったんだよ」



「……マオくんとエルヴィーを会わせたら、どうなるの?」



「マオはあれでも魔王だ。神さんに影響を与えるほどの力もある。ユルにとっては、可愛いワンコなんだろうけど、マオが本気を出せば、人間なんてあっという間に滅ぶだろうな」



 ヒバリくんに怯え、僕に触れられないマオくんを思い出すと、そんな力を持っているとは思えないが、ヒバリくんがマオくんを僕の旦那にしようとするくらいには、マオくんはこの世界で重要な存在なのだろう。

 


「けど、マオはユルが望む事でしか動かない。おそらく、マオにとってユルは神のような存在だ。愛が限界を超えて、神のように崇めてるんだろう。だから、ユルに近づけないんじゃないか?」



 ん?まさか推しの話をしてる?確かに、推しは神だ。

 存在してくれてるだけで、救われる事もある。

 少なくとも、僕の推しは僕の命の源だ!推しにドキドキ死されても本望。

 そう考えれば、ユル推しのマオくんが僕を崇めても仕方ない。

 だとしたら――……



「マオくんが、僕の信者一号?」



「……そ、それはどうだろうな。ユルの信者に番号は良くない――……」



「ユヅ?それはファンクラブの番号かな?だとしたら、僕はゼロ番でいいよね?魔王が一番なら、僕はそれより先だと言える」



「それなら、私はユルの父親だ。ユルの信者を管理する必要がある。そうだな……神官長ならどうだろうか」



 ユハ兄さん、父様、この二人の異様な圧に何も言えず、僕はヒバリくんに助けを求めたが、ヒバリくんはこうなる事が分かっていたのか、目を逸らしながら綺麗な微笑みで「信者が増えたな」と言った。




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