第27話 縛るもの(sideヒバリ)
俺が密かに考えていた事をユルに伝えれば、ユルは現実逃避をするように甘えてくる。
最近では、甘える際も現実逃避をしているようで、眠らなくても会話がなくなる。
ユルが俺に依存しているのは、おそらく前世が関係している。
ユルにとって俺は、初めての恋人であり旦那でありツガイだ。
そんな俺を、ユルのストーカー達が排除するのではないかと不安なのだろうと、ユハクが言っていた。
ユルの言っている事は、その時によって違うにも関わらず、すぐに察する事ができるユハクは、さすが兄といったところだ。
ユルにとって、ストーカーの存在は見て見ぬふりをしてきた恐怖の対象であり、最初の推しだったらしい。
ユルは、自分の容姿の良さを理解していることから、元々は美形好きであり、当時の推しであっても照れる事なく、社交的な性格だったと言う。
そんなユルが糸目好きになったきっかけは、美形のファンとやらに殺されそうになったところを、助けてもらってからだ。
ユルにとってはヒーローという、勇者のような存在に見えたようで、それから俺のような者を好きになった。
しかし、ユルの変化を喜ばない者はいて、ユルが自分に興味を示さなくなった途端に、ストーカーになる者が増えていったと言うのだから厄介な話だ。
そして何より、ストーカー達は自作自演も得意だったというのだから、兄であるユハクが仕事を休んでまでユルを守るのも仕方ないだろう。
ユル自身は、ストーカー達の自作自演については知らないようだが、危険であるという事は察しているようで、ユルなりに俺を守ろうとしているのではないかと思うと、愛しくてたまらなくなる。
俺を部屋から出さないために、俺を誘う姿も可愛らしく、ツガイをつくる気がないと言ってくれるのも嬉しいのだ。
しかし、現実はそうも言っていられない。
ユルは魔王のことを忘れているようだが、近いうち魔王に会いに行く事になる。
ユルが俺とツガイになったことを知った魔王は、それでもユルとツガイになりたいと言ったため、ユルが断らなければ問題はないと伝えてある。
ユルが魔王を第二のツガイに選んでくれたら、依存先が増えて安心できると思うが……難しいだろうな。
魔王は今のユルの好みではないし、寧ろ嫌がる可能性が高い。
魔王が獣の姿でユルに会うなら別だがな。
「ヒバリくん?なに考えてるの」
「ユルのこと。ユル以外のことを考える必要はないだろ?」
「うっ……ごめんなさい」
「怖くなった?けど、俺はユルを手放す気はないし、ユルが俺から離れるようなら、その前に俺がユルを閉じ込めてあげるから安心しな」
俺を見上げてくるユルは、恐怖で肩を震わせながらも、尾羽は揺らして頬も赤く染めている。
ユルは束縛するより、される方が合っているのだろう。
そうする事でユルが安心できるのなら、俺のドロドロした感情を隠す必要はない。
束縛から逃げるのを楽しんでいるようにすら思えるユルにとって、この感情を隠している俺では刺激が足りないという事だ。
「ヒ、ヒバリくん、そろそろ父様達のところに行かないと。今日は話があるって……」
「少し待ってな。ユルを外に出すなら、確かこの辺に――……あぁ、あったあった」
密かに持っていた足枷を出すと、ユルは飛んで壁に張りつく。
俺が本当に持っているとは思わなかったのだろう。
「ヒバ、ヒバリくん!なんだい、それは!」
俺の口癖が移ってるな。
年寄りみたいだと笑ってたはずだけど……やっぱり俺のツガイは可愛い。
「足枷。ユルが飛んで行かないようにしないとな」
「そ、それは大丈夫!僕はヒバリくんから離れない。だから、それは要らないと思う」
「本当に?これは俺の魔力も入ってるから気に入りそうだけど」
すると、ユルは魔力につられるように俺の元にやって来て、片足を出しきた。
足枷と言っても、鎖もない輪っかにすぎないため、ユルの負担にもならないようにできている。
「どう?足枷があった方が、ユルも安心だろ?」
「う、うん。ヒバリくんのものって感じがする。嬉しい」
それはそうだ。
ユルは俺のツガイだからな。
それにしても、まさか本当に足枷で喜ばれるとは思わなかった。
これは、俺が悪いな。
ツガイを自由にさせすぎて、逆に不安にさせてしまった。
「ヒバリくん、早く父様達の所に行こう!」
ユルは急に元気になると、久しぶりに俺から離れて部屋を出ようとしたため、試しに枷に魔力を流してみれば、不思議そうな顔をする。
首を傾げ、足首に触れた後、何事もなかったように部屋を出ようとしたため、もう一度ユルを引っ張るように魔力を流せば、ユルは俺の元に来て、なぜか恥ずかしそうに「引っ張らないで」と言ってきた。
……恥ずかしがる要素があるか?ユルはたまに分からないな。
「ユルが俺を置いて行こうとしなければ引っ張らない」
「分かった。僕がヒバリくんを引っ張ったらいいんだね」
そう言ったユルは俺の手を引き、まさかの窓から元気良く出てしまったのだ。
それにより、俺の隠していた翼は神殿の者に見られてしまい、ちょうど近くにいたルーフェン達にも見られてしまった。
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