第28話 元気なユル
ヒバリくんを連れて元気良く飛び出せば、父様達があんぐりと口を開け、エルフ達は胸に手を当て跪く。
その様子に不思議に思えば、ヒバリくんが軽い事に気づき、翼の存在を思い出した。
「ヒバリくん!翼が!」
「そうだな……消す前にユルが飛び出してしまった」
「ごめんなさい」
「なんで窓から出たのかとか、もう少し落ち着いてほしいとか、思うところはあるけど……ユルが元気ならそれでいい」
ヒバリくんは苦笑いで僕を抱えると、自分の翼を消して落ちていく。
僕の翼ではヒバリくんを支える事はできないが、何事もなかったように着地し、父様の元へ連れて行かれる。
「ユル、元気そうだな」
「父様、ごめんなさい。ユハ兄さんもノヴァも、僕がよく分からなかったばっかりに……でも、もう大丈夫なんだ!見て見て、ヒバリくんから貰ったの」
僕は自慢する為に足枷を見せれば、父様とノヴァは恐ろしい表情でヒバリくんを睨む。
しかし、ユハ兄さんがヒバリくんの魔力がある事を見抜いてくれたおかげで、表情が柔らかくなった。
「やっぱりユヅは、少し不自由なくらいの方が生き生きしてるね」
「違う違う!ユハ兄さん、変な事言わないで。お願いします。ヒバリくんに聞かれたら大変な事に――」
「知ってるから大丈夫だ。これからは、あまり自由にはさせない」
「ヒバリ、くん……父様、ノヴァ、助けて!」
助けてを求めても、父様とノヴァは考える素振りをし、納得した様子で首を横に振られてしまった。
それにより、僕には甘いユハ兄さんに助けを求めるが、ユハ兄さんは笑って僕の頭を撫でるだけで、ヒバリくんに枷の種類や意味まで教え始めてしまった。
ユハ兄さんからしてみれば、自分が勧めた物を僕に身に着けさせる事ができ、更には前世では見る事ができなかった僕の姿を、ツガイを介する事で見る事ができるのだから、ノリノリなのも理解はできる。
理解はできるのだが……
僕の格好いいユハ兄さんが、ますます格好良くなっていくのが辛い!幸せすぎて辛い。
はぁ……ワルワルなユハ兄さんは格好いい。
僕の旦那様と並ぶと、良い感じに――……ハッ、ノヴァにも並んでもらわないと!
ノヴァを引っ張って二人のそばに立ってもらい、僕は父様の隣で三人の様子を眺めながら、呼吸を乱す。
そんな僕に、父様は呆れたような表情をしながらも、僕の頭を撫でている。
そうして暫くの間、推しを眺めて心のシャッターを何度も切っていると、推し達の会話が終わった。
満足した僕を見たヒバリくんは、顔を覗き込んできて「楽しかったかい?」と訊いてくるため、何度も頷いて首に抱きつけば、ユル吸いをしてきた。
どうやら、興奮している僕の匂いは特別良い匂いらしく、自分のツガイだと確認できて落ち着けるらしい。
「さてユル、満足したところで大事な話がある」
うっ……まさか僕、また父様の餌につられたのか。
「魔王が正気に戻ったのは知ってるな?その魔王だが、ユルのツガイになる為に、会いに来てほしいらしい」
「どうして僕が行かないといけないの。僕にはヒバリくんがいるし、ツガイは必要ない」
「魔王はこちらには来れないんだ。魔王が来た場合、人間側は戦争の準備をするだろう。精霊門で連れてくるにも、精霊がユルのツガイにヒバリ殿以外を認める可能性は低いために、精霊門は使えない。となると、魔王がこちらに来るにはダンジョンを通るしかなくなる訳だ」
じゃあ、僕のことは諦めてよ。
どうしてそこまで僕に執着するんだ。
魔王が一方的に僕を知ってるだけで、話したことなんてないのに。
「ユル、俺以外のツガイをつくるのが、そんなに嫌なら会ってみるだけでいい。魔王も、ユルの意思を無視するような事はしないと約束したうえで、会いたいと言ってる。もし、ユルの嫌がることをした場合、俺がツガイとしてユルとユルの群れを守る」
「……分かった。会うだけでもしないと、また魔王が荒れるんだね」
「そういうこと。俺もついて行くから安心しな。それに、ユルがずっと気になってるマオとやらにも会えるはずだ」
「ッ!行く!マオ様、僕の推しかもしれない人だもんね。もう、僕には理想の旦那様がいるから、会う必要はないけど……でも、推しだから。うん、推し。ヒバリくん、安心して!僕のツガイはヒバリくんだけだから」
マオ様という理想の推しかもしれない人物に興奮してしまった事で、さすがの僕も罪悪感があり、咄嗟にツガイはヒバリくんだけだと伝えた。
それはもう必死に伝えたが、ヒバリくんは何を考えているのか分からず、ワルワルの笑顔を僕に向けてくる。
そうして数日後に、僕はヒバリくんとともに魔族の国に向かった。
精霊達は僕を行かせたくなかったようだが、ヒバリくんもいるという事で、精霊門だけは用意してくれ、誘惑もする事なく見送ってくれる。
魔族の国には、僕とヒバリくんだけで行く事になったのだが、おそらくエルフ数名とノヴァが来るだろうと、ヒバリくんは言っていた。
しかし、魔族の国に着いた今でも、ついて来ている気配が僕には感じられなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます