第26話 依存



 魔物達と戯れながらヒバリくんと話していると、僕達の周りには精霊達が集まってくる。

 精霊は魔物を避けているように思えたが、意外と仲が良いようで、魔物の毛に埋もれている。

 そのため、魔物達が神聖な生物のように思えるほど、キラキラと輝いているのだ。



「ユルがいると精霊が寄ってくるな……精霊門から出すぎじゃないか?」



「そうなの?確かに僕の周りには集まってくるけど、ヒバリくんがいるからだと思ってた」



「普通はこんなに寄ってこないな。それに、精霊は気に入った者の近くにいても、飽きるのが早いんだ」



 飽きるのが早い?そんな事ないよね。

 だって、僕の視界を奪おうとする時もあるんだよ。

 それに、同じ子ばっかりだ。



「僕の周りにいる子はずっと一緒だよ。さすがに、ヒバリくんとイチャイチャしてた時はいなかったけど」



「ユルは神獣なだけあって、精霊を見分ける事ができるんだな。俺は言葉も分かるし、見分けるのも問題はないけど、エルフですらそこまでは無理だ」



 でも、言葉が分かるヒバリくんが一番凄いよね。

 僕の旦那様はやっぱり格好いい!



 ヒバリくんに甘えたくなった僕は、スリスリと首に抱きつき、そんな僕をヒバリくんは抱えると、どこかへ移動する。

 どこに向かっているのかは分からないが、それでも身を任せている僕に、ヒバリくんはクスクスと笑う。

 どうやら、グルグルと家の周りを歩いていただけだったようで、僕のヒバリくんへのベッタリ具合に心配になりながらも、密かに嬉しかったようだ。



 その後、僕達は精霊門へ帰り、父様達を連れて神殿へと戻った。

 それから月日が流れ、みんなが今の生活に慣れていくなか、僕だけはヒバリくんへの依存が酷くなっていった。



「――ヒバリくん、僕の求愛は嫌だ?もっと抱いてほしいのに……全然足りない」



「ユルの体がもたないだろ?一度ユルが許しを乞うまで抱いた時、ユルはひと月も寝たきりだった」



 でも、足りないんだ。

 もっと愛してほしい。

 ヒバリくんとずっと一緒にいたくて、少しだろうと離れたくない。



「僕……おかしくなった?依存しすぎてるのは分かってる。でも、好きなんだ。愛してるのに繋がったままじゃ駄目なの?」



「ッ……可愛い。俺もユルを愛してるし、できる事なら繋がっていたい。けど、ユルの肉体はまだ成長途中なんだ。分かるかい?愛されすぎると、ユルの肉体は限界を迎えて現実逃避をする。ユルの身体は正直なんだろ?耐えられてないんだ」



「僕はこんなにヒバリくんのことが好きなのに。確かにドキドキはするし、交わってる時のヒバリくんは凄く格好良くて、余裕がなくなる時なんて、もう大好き。僕の旦那様は優しいけど、激しくなると容赦なくて、寝ぼけてる時なんて可愛いんだ」



 呼吸が乱れつつ、ヒバリくんを誘うようにスリスリすると、ヒバリくんは口づけだけをして、翼で僕を包んでくれる。

 ヒバリくんの翼は安心するため、この状態で発情する事はないが、なぜか動きたくなくなるのだ。



「ユルのこの状態は、神さんでも分からないらしい。ただ、俺に依存するユルは、ツガイ以上の何かがあるのは確かだ。辛いかい?」



「うん……少しだけ。僕はどうしたいのか分からなくなる。ユハ兄さんの手伝いだってできてないし、父様の役にも立ててない。ノヴァだって、僕の側近としての仕事がなくてガッカリしてるかも」



 僕だって、依存したくてしてるわけじゃない。

 ただ、ヒバリくんがいないと不安だし、ヒバリくんが誰かと話してるのも許せない。

 ヒバリくんをどうにかして動けなくしないといけないのに、僕の方が動けなくなるんだ。

 僕の旦那様は元気すぎる。



「やっぱり、ユルには他にもツガイか旦那が必要か……」



「どうして?ヒバリくんは、まだまだ僕よりも元気だよ。必要ない。ヒバリくんがいてくれたらそれでいい。嫌だ……ヒバリくん、どこかに行く気じゃないよね?僕を捨てたりしないよね?」



「俺は死んでもユルを手放す気はないな。ユルが可愛くて仕方ないんだ。俺に依存するユルは、正直嬉しくてたまらない。依存してるのを良い事に、部屋に監禁して翼を奪ったっていい。けど、ユルは辛いだろ?ユルが辛いのに、俺だけ喜ぶことはできない」



 監禁……僕、そこまでは考えてないよ。

 軟禁くらいなら考えてるけど……僕より酷い人がいた。

 まさか、ヒバリくんがここまで僕に――……ん?そうだ!ヒバリくんにも、僕に依存してもらえばいいんだ。



「ヒバリくん、ヒバリくん、僕に依存してください!ヒバリくんが僕のことしか考えられないくらいになってくれたら、僕は凄く安心します。そうしたら、僕のことしか見ないでくれるでしょ?他のツガイを勧めてきたりもしないよね?」



「それがユルの望み?俺がユルに依存したら、どうなるか分かってる?誰かと話す事も、誰かに触れる事も許さないし、ユルの群れはなくすだろうな。ユルの大切な者もどうでもいい。ユルが目を覚まさなくても、生きてるのならなんだっていい。ユルの翼は切って、足には枷をつけような。手の自由も奪って、ベッドにでも縛りつけておこう。大丈夫、世話は俺が責任を持ってするから。それでもいいなら、ユルの望み通りに――」



「ごめんなさい。僕が悪かったです。僕はヒバリくんには勝てません」



 ヒバリくんの異常さに、さすがの僕も冷静になり、変な事は考えずにヒバリくんに甘えることにした。




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