糸目推しは転生先でも推し活をしたい
翠雲花
第1話 現実逃避転生
糸目イケメン。
それは、糸目男子にのみ許された、目を開けた時とのギャップから生まれるイケメンであり、笑顔が可愛い者がほとんどだ。
糸目男子は当て馬や悪役など、脇役に使われる事が多い。
だが、そんな糸目男子を愛している一人の青年がいた――
ん?ここ……どこ。
薄暗い豪華な部屋を見渡し、不自由な体を動かすと、視界に入るのは小さな手だ。
確か、大学から帰る途中だったよね?どうしてこんなところにいるんだろう。
僕、
僕は大学への帰り道、推しキャラへ貢ぐ為にグッズショップへ行こうとしていた。
だがその途中、信号待ちの間にグッズの在庫を確認した結果、自分の推しがグッズ化されていない事に気づき、あまりのショックに急激な眠気に襲われるという現実逃避をしたのだ。
急激な眠気に死んだ……なんて事ないよね?でも、手は小さい。
確かに、推しキャラが出る作品のグッズ化というだけで、詳しく調べなかった僕が悪いけど、楽しみはとっておきたいじゃないか。
現場での楽しみがあるんだ。
それなのに、まさか僕の推しがグッズ化されてないなんて……やっぱり、アイドルものの糸目キャラって需要ないのかな。
いつも売れ残ってるもんなあ。
僕は糸目男子を推していた。
推しは必ず糸目であり、開眼の際のギャップに倒れる事もあった。
友人が糸目であれば、まずは性格を知って推しポイントを探す。
僕が推しとするのは、当然だが顔ばかりではない。
だが、推しというだけで、同性を恋愛対象として見ているわけではないため、実際に付き合った事はなく、ただただマスコットのように可愛がられていたような気がしていた。
そんな僕が、今では本当にマスコットとなってしまうほど、小さい姿なのだ。
「あう……あーあー」
なんて可愛い声なんだ!僕は天使か?まさか天使に転生してしまったのか。
死んだ記憶はないけど、僕は確実に可愛い赤ちゃんになってる!
今世では分からないが、僕はそれなりに可愛い顔立ちをしていた自覚はあったため、自分の声が天使であっても不思議には思わなかった。
だが、誰かを呼ぼうと必死に天使の声を出すが、誰も来る気配がなく、それどころか薄暗い部屋には人の気配がない。
しかし、部屋の外には人の気配があり、騒音が近づいてくるのを感じた僕は、現実から目を逸らした。
前世での経験上、僕は身の危険を感じる事ができた。
可愛い顔立ちであり、推し以外には人見知りしなかったため、ストーカーが多かったのだ。
しかし、同性を恋愛対象として見ていなかった僕は、勘違いしていた者達によってストーカー行為をされていた。
僕にとっては友人であったため、どれだけ美形であったり有名人であっても、皆と平等に接してきた。
その結果、ストーカー達が増えていたのだが、僕はそれによって困る事はなく、むしろ不審者被害が多かった僕にとっては助かっていたため、その行為を止める事はなかった。
だが、今はその護衛のようなストーカーがいないのだ。
これは駄目なやつだ。
今は僕のストーカーがいないし、僕は可愛い赤ちゃん――
その時、部屋の扉が開き、何者かが僕に近づいてくる。
そして、僕の視界に侵入者の髪の毛が映ったと思った瞬間、人気のなかった部屋の天井やクローゼットから、複数の黒服を着た者達が現れたのだ。
侵入者に襲いかかるように、僕の周りには黒装束の人達が集まるが、侵入者によって返り討ちにされ、僕は侵入者に抱き上げられる。
「あ……あぅ」
くッ……こんな時なのに、なんて可愛い声なんだ!我ながら情けない。
僕が声を出せば、パッと部屋の明かりがつく。
そこで、転生して初めて見る人物に目を見開いた。
目の前の人物はハンサムな男性であり、赤い瞳と髪はほんの少し恐怖を感じさせながらも、見慣れない色に驚いたのだ。
だが、その男性は僕と目が合うと、無表情を変える事なく僕を愛で始めた。
「ユルは可愛いな。しっかり助けを求めて偉いぞ。さすが私の息子だ。これも、ユルと使用人の特訓だ。いいな、ユル。覚えておくんだぞ」
そう言った男の正体は、後日知る事になる。
男の名はルーフェン・シュッツという。
シュッツ家は代々、表の顔として国を守ってきた、騎士の家系だ。
そして、裏の顔としても国を守るルーフェン率いる暗部隊は、シュッツ家に仕える者達である。
ルーフェン・シュッツとは表と裏の顔を持つが、裏の顔を知っている者は殆どいないため、主に表の顔で国を守ってきた。
だが、そんな男に息子ができたのだ。
それが糸那柚鶴としての前世を持つ僕、今世の名をユル・シュッツという。
父であるルーフェンには、妻も子どももいなかった。
しかしある時、魔物討伐の為に森へ入ると、魔物に襲われる寸前であった、白髪と黒の瞳を持つ赤子を見つけたのだ。
それが今世の僕であるが、僕は周りの騒がしさに泣きもせず、呑気に涎を垂らして気持ち良さそうに眠っていたらしい。
それを見た父は、警戒心のない僕を守ろうと決め、国を一番に考えていた男が息子である僕を、一番に考えるようになったのだ。
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