第17話 精霊門



 精霊門の中は美しい大自然であり、現実味がない。

 しかし、僕にとってはもの凄く惹かれる環境であり、青空を見上げて深呼吸をする。



「ここ、僕の帰る場所だ」



「ッ……ヒバリさん、ユヅが誘惑されてるんだけど!」



「ユル様、誘惑されてはいけません!」



 ユハ兄さんとノヴァが慌てているが、僕は誘惑されているつもりはなく、父様にスリスリをして尾羽を揺らした。



「父様、ここって神獣に優しい場所?」



「そうだろうな。人間側には知られていないが、神獣は精霊の頂点である精霊王が育て、外界に送ってやるのが普通らしい。しかし、ユルは私が育てからな……精霊も私には何もしてこないだろうと、魔王がわざわざ教えに来た」



 どうして魔王がそこまで……ハッ、まさか魔王は僕じゃなくて父様が狙いなんじゃない?



「ルーフェン殿は魔王にアプローチでもされてるのかい?」



「そんなわけがないだろう」



「それにしては、ユル様以外を気にかけすぎだな。それが魔王の愛し方だと言うのなら、ユル様の夢にも出てきたらいいんじゃないか?」



 ヒバリくん、少し怒ってる?珍しい気がする。

 ヒバリくんは魔王が好きじゃないのかな。

 そもそも、好き嫌いの概念があるのかな。

 ヒバリくんって、僕以外には本当に中立……というか、興味がなさそうなんだよね。



「確かに、ユヅに会えないような男が、ユヅをツガイにできるとは思えないね」



「まさかとは思いますが、魔王はユル様と同じなのでは?」



 魔王を悪く思っていない様子のノヴァは、父様と同じような態度で、ユハ兄さんはヒバリくんと同じく魔王を良く思っていない様子だ。

 というより、好きなら僕を迎えに来いと言わんばかりであり、ヒバリくんからは焦りのようなものも感じる。



「みんな、まずはここを出ようよ。なんか様子がおかしいよ。特に、ヒバリくんが一番変な気がするんだ」



「ッ……そういう事か。やってくれたな。精霊達は案内役である俺を、主に誘惑してる。おそらく、ここに来る前から、少しずつ俺の気持ちを剥き出しにされていたな」



 ヒバリくんはイラついた様子で、パンパンと手を叩く。

 すると、飛んでいた精霊達が地面に落ち、動けなくなってしまった。



「謝っても無駄だ。まさか、エルフまで俺をユル様のツガイにさせようとして、ユル様の気持ちも無視しようとしていたとはな」



 ヒバリくんとツガイ……待って!僕はツガイを勝手に決められそうになってたの!?



「ヒバリくんの気持ちも考えないと駄目だ!僕は確かにヒバリくんが大好きだけど、ヒバリくんにだって選ぶ権利がある」



「ユル、今はそういう話では――」



「ヒバリさん?ユヅ以外に選択肢なんてないよね。まさか、あれだけユヅにアプローチしてたくせに、遊びだったなんて言わないよね?」



「遊びなわけがない。俺は、俺のやり方でユル様に振り向いてほしかった。それと同時に、神に仕える者として、神の愛し子を望んでもいいものかと、決めかねていた……が、あの神さんはどうやら、俺をユル様のツガイにして自分の監視下に置きたいらしい」



 父様の言葉を遮ったユハ兄さんと、神が僕を監視したいという、不吉な情報を提供してくれたヒバリくん。

 どうやらこの二人の中では、僕がパートナーをつくる事は決定事項らしい。

 そして、そんな二人が前を歩くなか、僕は父様に抱えられながら、現実逃避の為にノヴァの顔を見つめた。



 ノヴァはやっぱり落ち着く。

 この世界で初めての推しだったからかな。

 それとも、ノヴァは僕を恋愛対象として見てないって、ハッキリしてるからかな。

 もしかしたら、僕は恋愛に向いてないのかもしれない。



「ユル様、大丈夫ですか?ここで現実逃避をするのは良くないですよ」



「うっ……仕方ないんだ。僕の身体は正直だから。それに、僕にはツガイが必要とは思えない」



「ツガイと言っても、それはユル様から見ればの話です。エルフも人間も、ツガイというよりは夫婦になるので、ツガイでなくても大丈夫ですよ」



 それは分かってるけど、僕からしたらツガイだし、離婚とか重婚なんて考えられないんだ。

 たった一人を、生きている限り愛し続ける。

 そんなツガイを見つけられたら幸せなんだろうけど、人間もエルフも僕からしてみたら対象外。

 僕と同じ、ツガイとしての概念を持ってる魔物か魔族が僕には合うと思う。

 


「ユルとしてはツガイの方がいいだろうな。そうなれば、やはり相手は魔族か魔物になる」



「魔物はどうなんでしょうか……ユル様がいいのであれば、魔物でもいいとは思いますが、ユル様をツガイとして守れる者がいますか?伝説級の魔物であっても、魔王には勝てませんよ」



「魔王か……問題だったユルと会えなくなる件は、私が中立となれば問題はないな。ユルは魔王に会いたいか?」



 え……僕はどっちでもいい。

 それよりも、ノヴァが言ってたマオ様に会ってみたい!



「マオ様には会える?魔王じゃなくてマオ様の方が、僕は気になる」



 そう言うと、父様は苦笑いをしてノヴァに目を向け、ノヴァはワルワルのニコニコで何も言わなかった。





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