第18話 求愛
僕がマオ様のことを出せば、父様もノヴァも黙ってしまったため、いまだに僕のことで言い合っているユハ兄さんとヒバリくんの声が響く。
そして地面には、ヒバリくんが落としているであろう精霊達が弱い光を放っており、僕達の後ろには道ができていた。
「ヒバリくん、精霊は大丈夫なの?」
「大丈夫だ。俺が与えていた魔力を断ち切っているだけだからな」
ヒバリくんは、ユハ兄さんと言い合いながらも、僕の言葉は聞いているらしい。
それはユハ兄さんも同じようで、マオ様についてツガイにしたいのか訊かれたため、会ってみたいだけだと答えておいた。
「ヒバリくんって、常に精霊に魔力を与えてるの?対価じゃなくて?」
「俺は特別。魔力さえどうにかしてしまえば、精霊は誘惑すらできない。これをしなかったのは、精霊門を通る為の対価として払っていたからだ。それでも、俺は魔力を余分に与えているし、精霊にとってもエルフにとっても、俺は特別だからな」
特別って何?なんかもの凄い強調してくるけど、僕はどうしたらいいの?訊いても絶対に教えてくれないよね。
うん……ニヤニヤしてるから教えてくれないな。
それにしても、ヒバリくんはニヤニヤしてても格好いい。
最高の推しだ!牙があったら良かったのに……ん?待って!もしかして、あれは八重歯じゃないか!?
今までは推しすぎるあまり、じっくりと見れなかったが、ヒバリくんの歯に八重歯らしきものがチラリと見えた。
その瞬間、僕は翼をはばたかせてヒバリくんの元へ行き、ヒバリくんの顔を掴んで間近で口の中を覗く。
「ユル様?どうし――……えあ?」
ヒバリくんが喋ると見えない。
喋らないで、僕に歯を見せて。
ヒバリくんの口に指を突っ込み、生えている途中であろう八重歯を見つけると、僕の正直な身体はヒバリくんに求愛を始めてしまった。
翼を大きく広げ、踊るように光の粉を撒き、尾羽を揺らしながら、ヒバリくんの首にスリスリする。
「ヒバリくん、ヒバリくん、好き」
「ユヅ!待って、可愛すぎる。僕の天使が求愛してると思うと嫉妬するけど、それでも今のユヅは絶対に可愛い!」
「これがユルの求愛か?鳥とあまり変わらないのか」
「ユル様が選んだ相手でしたら、ヒバリ様がツガイでしょうか」
ユハ兄さん、父様、ノヴァがそれぞれ話しているが、ヒバリくんは驚いた様子で何も言わない。
それどころか、少し頬が赤く染まっており、僕を大切そうに抱えると、僕の頭を吸ってくる。
ヒバリくん、何も言ってくれない。
どうしたんだろう。
僕はこんなにドキドキしてるのに、ヒバリくんは僕の求愛を受けたくないのかな。
ツガイなんて重いし、やっぱり嫌なのかな。
僕も、八重歯を見つけただけで求愛するのはおかしいって思うけど、それでも僕の身体は正直だから仕方ないんだ。
好きになったものは仕方ないし、何がきっかけでも好きなものは好き。
ヒバリくんはずっと格好良くて、優しくて、強くて、守ってくれて、ワルワルで、なかなか慣れる事もできなくて……正直、僕好みが過ぎるんだ。
それから少し歩くと、ヒバリくんは僕の頭を撫でながら、漸く僕に話しかけてくれた。
しかし、僕のことを『ユル様』と呼ぶため、敬称はいらないと言った。
「ユル、ツガイの人数に希望はあるかい?」
「え……ツガイなんだから、一人がいいに決まってる」
「なら、ツガイと夫の人数は?」
ツガイも夫も一緒じゃないの?ツガイの他に、更に結婚って意味なら、それは別に求めてないよ。
「僕は一人がいい。それじゃ駄目なの?」
「駄目ではない。ただ、ユルには二人以上いた方が間違いないだろうな」
「どうして?僕のことは僕が決めたら駄目なの?」
当然の疑問である。
しかし、ヒバリくんは僕の顎を掴み、無理やり目を合わせてくるため、僕は黙る事しかできなくなった。
「ユルは魔力が豊富なうえに、普通の魔力とは違う。それに、精霊王に育てられていないユルは、その魔力の使い方が分かっていない。更に、前世の記憶もあって獣人のような神獣だ。気持ちの制御ができるのならまだいい……けど、ユルは難しいだろ?その魔力を暴走させない為には、気持ちの制御を手伝えるツガイが二人以上は必要だ」
気持ちの制御って、僕が八つ当たりする為の人ってこと?それはちょっと嫌だ。
それとも、僕を落ち着かせてくれる人か、僕の推しになる癒しか……だとしても、二人以上なんて必要なのかな。
僕は顔を固定されてしまっているため、目を瞑って唸っていると、ユハ兄さんが目を開けろとでも言うように僕を呼んだ。
そこで、ヒバリくんは僕の顔から手を離してくれたため、僕はすぐにユハ兄さんの方を向く。
すると、なぜか後ろにいる父様とノヴァが僕から目を逸らした。
「ユハ兄さん、どうしたの?」
「ユヅはおそらく、獣寄りだよね。そうなると……ユヅはまだきてないのかもしれないけど、発情期がくるはずだよ」
ハツジョウキ……ハツジョウキってなんだっけ。
一瞬で現実逃避をしてしまった僕は、微笑みながら目を瞑り、信じられないほどあっさりと、ヒバリくんの腕の中で心地良い眠りについた。
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