第7話 懐かしい人



 とにかく、今世では人気者には関わりたくなかったため、父様に必死に訴えた。

 すると、父様は恋に狂った人間を見た事がないのか、命まで狙われるのかと半信半疑で僕を見つめる。



「そうか……ユルの命を狙うことすらできないまま、その者達が処分されてもか?」



「うん、僕は怯えて暮らしたくはない。怯えて暮らすくらいなら、魔王に嫁いだっていい」



「それはやめてほしいな。ノヴァ、計画変更だ。ユルを学園には入れない。その代わり、これから騎士団の方へ行こう。それならば問題はないはずだ」



 騎士団!それって、推しになりそうにない糸目イケメンがいる場所に行くってことだよね!



「父様!早く行きましょう!」



「……頼むから敬語はやめてほしいな。心臓に悪い」



「ルーフェン様、それは言っても無駄ですよ。それに、ユル様に変化が起こる前に、その強い意思が分かりやすくなるだけマシです」



 そんな文句が聞こえる中、僕は念のためフードを被った。

 自分の顔の良さは分かっているため、ここを去るまでの間、面倒事に巻き込まれないよう僕の存在を隠す為だ。

 それを不思議に思ったのか、ノヴァは僕のフードを取って、髪を整えてくれる。



「ノヴァ、ありがとう。でも、ここを出るまで僕の顔は隠したい」



「可愛らしく美しいユル様の顔を隠せと?ありえません」



「ありがとう。僕もそう思う。でも、今だけは嫌だ。面倒は避けたい」



「自分の容姿を否定しないユルもユルだが、ノヴァもユルの気持ちを理解してあげた方がいい。本当に嫌なんだろう」



 そう言って、父様は僕にフードを被せてくれ、急いだ様子でその場を離れてくれた。

 僕の翼が黒くならないよう、急いでいるのだろう。

 しかし、そんな父様の名を呼ぶ者がいた。



「ルーフェン、久しいね」



「……ユハク殿下、お久しぶりです。申し訳ございませんが、今は急いでいますので、これで失礼します」



 どうやら、声をかけてきたのは王子様らしい。

 しかし、父様は王子様相手であっても僕を優先してくれる。



「ルーフェン、少し待ってほしいな。その子……息子だよね?紹介してくれる?」



「それはできません。この子の体調が優れないので、急いでいたのです」



「そう?なら、尚更紹介してほしいな。僕なら、その子を助けてあげられる」



 ……この王子様は何を言ってるんだろう。

 でも、懐かしい声なんだよね。

 名前も同じだし、喋り方も優しくて似てる。



「この場所が駄目なら、シュッツ家へ行こう。僕はその子の為に生きているからね。僕の可愛い天使、僕はずっとそばにいる……約束したよね、ユヅ」



「ッ……父様、騎士団には行かない。あの人も一緒に帰る」



「はぁ……分かった。しかし、説明は必要ない。私はユルを本当の息子のように思っているからな。私の前にいるユルは、私が赤子から育てた可愛い息子だ」



 僕が何者であっても、父様には関係ないのだろう。

 神獣であると分かっても、父様は僕をひとりの息子として見てくれているのがその証拠だ。

 そのため、僕も頷いて父様に感謝を伝え、屋敷に着くまでの間、ずっと父様の首に抱きついて甘えていた。



 それから屋敷に戻ると、僕の部屋に王子様を連れて行き、誰も入る事がないようノヴァに見張ってもらった。

 そうして二人きりになった瞬間、僕は王子様に抱きしめられ、王子様は涙を流しながら僕を『ユヅ』と呼ぶ。



「ユヅ……会いたかった。あの日から、ユヅのことを考えない日はない」



 僕をそう呼ぶのは一人だけだ。

 僕の肉親で、僕を第一に考えてくれた人。

 僕の大好きな……



「……兄さん。ユハ兄さん……僕も会いたかった」



「ユヅ……本当に良かった。見つけられて良かった」



 ユハ兄さんは、どうやら僕を追って転生し、第二王子として生を受けたようだ。

 金髪碧眼のユハク・フール、これが今世のユハ兄さんであるが、そもそもどうやって僕が転生している事を知ったのかと訊くと、神が言っていたのだと言う。

 死後、神が僕をこの世界に連れて来た事を知り、神は僕に『ユル』という名を与えたと言う。

 神は僕の予想通り、僕のストーカー……というより、僕を見守ってくれていたようだ。

 その際に、僕のことを『ユル』と呼んでいたため、僕の今世の名前が『ユル』になったらしい。

 そしてユハ兄さんは、父である王がエルフ達に話していた内容を聞いてしまったらしく、それによって僕がシュッツ家にいる事を知ったようだ。



「ユヅはやっぱり、容姿があまり変わらないんだね」



「やっぱりってどういう事?」



「ユヅは神獣でしょ?神が愛し子として連れてくるほどユヅを愛しているなら、ユヅの容姿を変える事はないと思ったんだよ。それに、神獣であるユヅには親がいないだろうからね」



 神様って、やっぱり僕のストーカー?神様がストーカーって嫌だな。

 何をしても見られてるって事でしょ?まあでも、僕を見てるのは神様だけじゃないけどね。



「ユハ兄さんは更にイケメンになって、身分も遠い存在になったね。僕には父様がいるし、ノヴァや暗部隊のみんなもいるから大丈夫だけど、ユハ兄さんは大丈夫?ファンに囲まれてた」



「ユヅがいてくれるなら大丈夫だよ。ユヅは僕の命だからね。ユヅがいいなら、婚約者になってもらいたいと思うくらいに、僕はユヅを愛しているよ」



 ユハ兄さんは相変わらずだ。

 僕のこと大好きすぎるお兄ちゃん。

 でも、僕はユハ兄さんの婚約者には絶対にならないよ。




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