第6話 商売人ならコラボ配信?! なのです、ニャア配信

「コラボ配信……?」


 猫の商人スコティッシュさんからの提案に思わず聞き返してしまう私に、スコティッシュさんは「知らないようですので、一から説明しますです、ニャア」と答える。


「我がドラスト商会は、シュンカトウ共和国の中で唯一ドラゴンを使っての商売が認められている豪商であり、盟主様たちの御用商人でもありますの、ニャア。

 我が商会はドラゴン飼育許可書と御用商人の立場を得るのと同時に、『盟主様が頼まれたモノがある場合、何を置いてもそれを仕入れる』という事を条件に商売を行っているの、ニャア。そして、今回は先にあげた六品を、盟主様がご注文されたという訳です、ニャア」


 そこまで聞いて、私は状況を理解した。


 ドラゴンは、空を自由自在に飛ぶ空の王とも呼ばれるような魔物であると同時に、正しく管理すれば人間にすら懐いて言う事を聞いてくれる賢い魔物であると聞いたことがある。

 そんなドラゴンを、商売の国であるシュンカトウ共和国で唯一商売に用いることが出来るとなれば、かなりの利点アドバンテージであることは確かだろう。

 さらに、盟主の御用商人ともなれば、共和国でもかなり上の立場である事は間違いない。


 そんな彼らを支えているのが、盟主という存在。

 盟主に許されているからこそ、これだけの特権が使えるのである。


「で、私の商品を盟主様がご指名、って事?」

「ここににゃあがいるのが、その証拠だ、ニャア」


 嘘、だろ……。

 本当に、まさかとは思うけど、シュンカトウ共和国の盟主様トップが、私の作った魔導コンロと、魔石をご所望しているって、こと……?


「いやいや、そんなはずないよね! ねっ、ベータちゃん?」

「ご主人の作る物は世界一。ですので、これは必然です」


 ドヤァと、さも当然のことのように肯定するベータちゃん。


「ダメだこの娘。親バカならぬ、マスターバカになってる」


 ただの田舎でのんびりしつつ、錬金術を趣味でやっているような人間に、仕事を依頼する?

 ……これ、どこのカメラで配信してるの?

 田舎に住む錬金術師を揶揄からかうタイプのドッキリでしょ、絶対に。


「私は、田舎に住む、ただの錬金術師ですよ。そんな大層な人間ではありませんって」

「謙遜のし過ぎは、良くない、ニャア。そんな事だと、お客様に舐められます、ニャアよ?」


 そんな事を言われても、こればっかりは転生しても治らないというか、なんというか。



「----まぁ、良いニャア。ともかく、コラボ配信の話ですニャア。

 配信は、我がシュンカトウ共和国のみならず、世界中にリアルタイムで映像を共有できる超古代技術オーバーテクノロジー。故に、一度配信に流してしまえば加工や編集なども出来ない、いわば最強の商売お助けアイテムなのニャア」


 スコティッシュさんが言うには、シュンカトウ共和国の商人たちは、大きな商談が決まる時、必ずと言って良いほどコラボ配信という形で、契約を行うようにしているらしい。

 配信の中で『誰と誰がどのような条件で契約したのか』を明確に示すことで、他の商人たちが『自分が先に契約した』という嘘を見破るようにするのが目的らしい。


 ……まぁ、そんな形でコラボ配信を利用するだなんて、前世じゃあ絶対に考えられなかったけどね。

 配信内で、契約内容の確認とか、絶対にあり得なかったんだけど、これも世界の違い、という事かな?


「今回は、我がドラスト商会が配信者『あるけみぃ』さんの商品を、初回に限り全品3割増しで買い取る。その代わりに、今後1年間の他の商会との専属契約、並びに単独契約を禁止する事を、配信内で語るという流れにする予定です……ニャア」

「単独契約というのは、具体的にどういう……」

「まぁ、簡単に言うと、我がドラスト商会抜きでの交渉の禁止、という意味か、ニャア? どうしても交流したい場合は、我がドラスト商会と再びコラボ配信内にて語り合うつもりですので……ニャア」


 なるほど、しっかりと考えられてるんだなぁ……ただのコラボ配信なのに。

 なんでコラボ配信で、ビジネスの話全開になるのかは、分からないけど。


「----あっ、それともう1つ、こちらから条件があるニャア」

「まだ、あるの?」


 えっ、あまりに多すぎて、企画概要を忘れそうになっちゃうんだけど。


「魔石については、作成の段階も録画させて欲しいのニャア。勿論、これはメンバー限定配信、シュンカトウ共和国の人間しか見られないようにするから、外部への流出は考えてない配信だから、気楽にやって欲しいニャア」

「まぁ、作るのを撮るだけなら、別に……」


 あんなの、種と仕掛けさえ分かってしまえば、誰でも出来るヤツだよ?

 私は前世での経験とかを利用したけど、もしかすると録画に取った映像を見て、私と同じことが出来るようになったりとかは普通にあり得ると思ってるし。


「ではでは、早速! コラボ配信の前に、メンバー限定配信----魔石の作成の方から撮らせてもらいたいですニャア」

「えっと、それは全然かまわないんだけど……」


 うん、作るの自体は簡単だし、大丈夫なんだけどさ。


「……その、"ニャア"っていうキャラづくり、なんなの?」


 さっきから、忘れかけたのを思い出すように、まるで取って付けたかのようにされると、流石に気になるというか……。




「あぁ、"ニャア"の事ですか? これはこの方が受けが良いという理由でやっていますので、気になるなら、止めておきましょうか?」

「すげぇ、すんなりした口調?!」


 えっ、あんたそんなにハキハキと喋れるの?!

 さっきまでの、語尾による猫推しキャラは、いったい何だったの……。


「とりあえず、配信は語尾ありで良いので、配信外は普通に喋る形でお願いします」

「了解いたしました。では、早速配信を始めましょう」


 私は、ニャアがなくなったことでハキハキとクールに話し始める彼女に困惑しつつ、メンバー限定配信とコラボ配信を撮り終わる私なのであった。

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