第38話 弟子を使ってストレス発散しちゃう配信

「では、師匠! 胸をお借りします!」

「あー、文字通りどこからでもかかって来たら?」


 タメリックという聖職者と会って帰って来てから、五日後。

 私は、フランシアさんと模擬戦を行っていた。


 ----いや、はっきり言いましょう。

 ----これは、単なる鬱憤うっぷん晴らしの、八つ当たりです。


 あの日以降、勝手にうちに居座るタメリック。

 ベータちゃんとかには色々と都合が良い事を言って、うちに居座っているので、本当に迷惑である。

 

「(柄にもなく、いっぱい言い過ぎた相手が家に居るから、なんか落ち着かないというか)」


 もう会わないと思ったからこそ、あそこまでいっぱい言えたのに。

 まさかその相手が、うちに居座るだなんて……なんか、凄い気まずい。


 ----あそこまで凹ます気は、なかったんですよねぇ。

 ----ただ言いたい事を言いまくって、もう関わりたくないアピールをしたかっただけで。


 教会は嫌いだけれども、それ以外は別に嫌いでもなんでもない。

 神様も居ると思っているから今もなお神聖術が使えるし、教会に勤める人を嫌っている訳ではない。


 ほんと、なにをしたいんだか、はっきりして欲しいモノだよ。


 さて、彼女の事は一旦忘れようではないか。

 こういう時は、身体を動かして発散するのが一番である。


 なので、身体を動かしてストレスを発散しようという訳で、私は今、フランシアさんの稽古に付き合っているという訳である。




「それで、体中剣については、ある程度マスターしたと、デルタちゃんには聞いているけど本当?」

「はいっ! デルタちゃんさんからは、基本が出来ていると言われました!」

「デルタちゃんだけで、良いよ」


 『デルタちゃんさん』ってのは、なんか聞いてて変に聞こえるから止めてくれ。


 体中剣とは、『護りの剣』の極意のようなモノ。

 相手の攻撃を受けきり、動きを読んで対処する。

 これさえある程度出来るのであれば、負けない、相手が勝つまでの時間を稼げて生存率が上がるための剣。


 正直、訓練自体は"相手の動きを読んで対処する"という、成長が分かり辛い訓練だと思うのに、良くやり遂げたと褒めたいくらいだよ。

 うちのデルタちゃんが基本が出来ていると言うのだから、しっかり出来ているのだろう。


 デルタちゃんは、受信している配信などから、基準としている値に達しているかを判断しているから、いっさいの主観がない客観的な値として信頼できるんだよね。

 デルタちゃんが達していると言っているなら、本当に達していると見て間違いないだろう。


「(それならばその体中剣で守らせて、私がフルボッコするサンドバックになって貰おう)」


 今の私が欲しいのは、剣を振るうあの快感。

 彼女は自身を守る体中剣が出来ているのだから、それの確認と称して剣で斬りつけまくれば良い。

 防がれれば出来ていると褒められるし、防ぐことが出来なかったらもっと精進してくれと諭せるし、一石二鳥である。


「では、フランシアさん。今日の稽古レッスンは、その体中剣----『護りの剣』が、きちんと身についているかの確認だ」

「はいっ! 師匠の眼から見て、きちんと判断をお願いします!」


 すっと、剣を自分の前に構えて、私の攻撃を待つフランシアさん。

 ストレスを発散すべく彼女に打ち込もうと私は、彼女に向かって思いっきり剣を縦に振るう。


「---!!」


 大きく力を込めて放たれた私の剣を、彼女は剣を使って横へと逸らす。


「なるほど、しっかり出来てるようで……ん?」


 そこで私は、彼女の身体から、微弱な魔力が漏れ出ているのを感知した。


「(魔力……もしかして、感知に使ってる?)」


 試しにとばかりに、今度は剣を斜めに振るいながら、魔術を使って反対方向から石弾を放つ。

 フランシアさんはまずは私の剣を弾き、そのまま回転斬りによって石弾を弾いていた。


 その際も、私は彼女の身体から、魔力が漏れ出ているのを感知する。


「(なるほど、こりゃあ確定ですなぁ)」


 フランシアさん自身は無自覚だろうけれども、彼女は体中剣に魔力による感知方法を用いているようだ。

 無自覚に魔力を垂れ流し、その垂れ流した魔力に何かが当たったかを検知するという術式を、フランシアさんは知らず知らずのうちにやっている。


「(----天才だね)」


 努力して、考えた結果身につくのではなく、彼女の本能と呼ぶべきものが既に最適解を叩きだしている。

 これを天才と呼ばずして、なんというのだろうか。


「----ほんと、凄いね。フランシアさんは」

「師匠に褒めていただき、光栄です!」


 いやはや実際、本当に凄いと思っているよ。


 私が教えたのは、体中剣という防御の構えであって、実際にこうすれば身に着くというちゃんとした指導をした訳ではない。

 それに対して彼女の身体は、魔力を身体から出して相手の動向を感知するという方法を見出し、使っている当人すら知らないまま対応して見せた。


 シュンカトウ共和国の盟主の血筋と言うか、やはりお貴族様の血って偉大だなと、生まれが良いと才能も良いのだなと、感心するばかりである。


「----では、そんな姫様あなたに、師匠である私からその先をお見せしよう」

「その先、ですか?」


 そう、その先----である。

 『護りの剣』である体中剣を極めればどうなるかと、そういう姿を見せてやろうではないか。


 しばらくはこの先見せるヤツを再現せよ、というのにも使えるし。


「それでは、行きますか」

「胸をお借りします!」


 すーっと、私は息を吸い込んで、そのまま剣を構える。

 フランシアさんにトコトコと歩いて近付いて行き、


「ていっ」


 と、彼女の身体を剣で吹き飛ばしていた。




「----?! 体中剣が、弾かれましたっ?!」

「それじゃあ、続けていきますねー」


 と、私は彼女の剣を弾いて、剣を相手の身体へと叩きつけたのでした。

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