第37話 アカデミア神様について聞いてみたいと思います配信

「でっ、ですが現に―――っ!!

 現に、教会では研鑽の神アカデミア様を祀ってまして!」


 語気を強めるタメリックに対して、私は極めて冷静に応える。


「では、簡単な質問をさせていただきますね。もし仮に、質問に答えてくれれば、私もこれ以上は追及しません」

「え、えぇ。勿論! アカデミア神様に関する事なら、このタメリック! 聖職者として何でも答えられます!」


 大した自信だこと。

 まぁ、巡礼しているような聖職者なら、当然か。


「アカデミア神様を広めた開祖様のお名前ですか? 勿論、知っております、大司教【スパイシィ】様がこのアカデミア神様を広めたと伝わっております!

 それとも、アカデミア神様が行った偉業でしょうか? それは魔王ユギー討伐の際に、かの神様が皆の祈りを1つに集め、魔王ユギーを地の底に葬り去ったのです!

 もしくは、教会の総本山の場所でしょうか? 本来ならば聖職者である私の地位以上の者しか教えられませんが、その場所は----」


 なんかヒートアップしているけど、そんなのどうでも良いんだよな。

 私が聞きたいのはもっと簡単で、そして誰もが知ってないといけない事だ。




「アカデミア神様って、どんな姿をしているんですか?」




「……はい?」

「だから、姿ですよ。何か特徴とか伝わってないんですか?」


 手足は何本あるのか、それともないのか?

 肌の色や、目の色などは?

 ヒトの姿をしているのか、それとも獣の姿をしているのか?


 一部にしか教えられていない総本山の場所なんかよりも、そっちの方が分かりやすいでしょ。


「なにか1つでも特徴を挙げてください。それが合っているか、あとで配信で質問しますので」


 まぁ、私が質問したところで答えてくれる人は、数少ないだろう。

 しかし、うちには私が作った、愛らしいベータちゃんがいる!

 彼女が聞けば、視聴者リスナーが調べて、送ってくれるだろう。


 ----そもそも、教会で、アカデミア神様の姿を見たことなんてない、と。


「うっ……!!」


 答えられるはずないよな、だってどこにもないんだもの。


 教会の教えでは、『研鑽の神アカデミア様とやらは常に遥か上空で、その研鑽がんばりを見ておられるから頑張りなさい』というだけで。

 教会にも仏像のように神様の姿を表現したモノはなく、逆に『アカデミア神様は常に私達を見守られているのだから教会にその御姿を作って祈るよりも、常に遥か彼方から我々を見守られている神様の事を思って祈りなさい』だし。

 あと、王都の歴史書や宗教書を散々調べても、どこにもアカデミア神様の名前は滅茶苦茶書かれていても、姿が分かるように描かれているモノはなかったしね。


「アカデミア神様の名は知っているのに、姿は知られていない。そして、"誰も・・その事に・・・・疑問を・・・持たない・・・・"なんて」


 これは前世の知識を持つ持たないではなく、単に自身で考える力がないという事だろう。

 調べれば、私のような立場でもすぐさま分かるのに。


「まぁ、アカデミア神様の"正体しんじつ"を考えれば、どういう事かも自ずと分かりますがね」

「----?! あっ、あなたにはどういう事なのかが----」

「分かるとは言いませんよ。想像する事だけ」


 そう、どうして名前だけしかないアカデミア神様という神様が、教会で信仰の対象となったのか。

 それを裏付ける証拠はない、ただしそれでも想像は出来る。


 王国の歴史、教会に関する書籍、その他エトセトラ。


 色々と考えて行けば、自ずと答えは見つけ出せる。


「私は教えませんよ、絶対に」


 そう、どうして教えなければならない。

 なんか「教えてください」という感じで、うるうる涙目のタメリックを、私は無視する。


 そうやって、自分で考えないから、今の状況が生まれたというのに。

 どうして、考えないのか、私には分からないんですよ。まったく……。


「悪魔に関しての報告は以上でしょ? そもそも私に会いに来たのはそれだけが理由なんでしょうに。

 それに、教会がないこの地域イスウッドに引っ越した理由も話した。これ以上、私とあなたが話す事は何もない」

「信仰する神が、無神論者に侮辱されたとしても……?」


 あぁ、はいはい。

 今度は私が「神を信じてない」アピールですね。


 私の主張を「絶対に神が居ない! だからここが変!」と、重箱の隅を突く人だ、と。

 神が居ないと思っているからこそ、教会に立てつく者だと思われてしまったようである。


「やれやれ……私は教会嫌いなだけだってのに……」

「黙りなさい! 神様を侮辱し、悪魔を研究する錬金術師は異端であると----」




「……これでも?」




 ----ピカーンッッ!!


 神聖術の初歩、『御光』。

 ただ眩い光で夜道を照らすだけの代物だが、神聖術を習ってないと出ない代物だ。


 そう、本当に彼女が言うように、"神様を信じてない者には決して出せない光"だ。


「----っ!!」

「では、誤解も解けた事なんで、私は失礼します。そうそう、私が言ったのではありませんが、出来れば救護所を続けて欲しいと、村人達は懇願してましたよーっと」


 まぁ、無理かもしれないけどね。


 なにせ、彼女は疑問に思ってしまった。

 アカデミア神様が居ないのかもしれない、と。


 神様の存在を疑問視してしまえば、神様への信仰で使えるようになる神聖術は使えなくなる。

 神聖術を使うには神様を信仰しなければならない、それなのに今の彼女にはその信仰する神を疑ってしまっているのだから、使えないのは当然と言えよう。


 


 しばらくして、タメリックが帰って救護所は閉鎖されたと、村人から私への文句を言われたが、私は知らないと答えたよ。

 いきなり現れたんだから、いきなり帰る事だってあるじゃないか、と。

 

 それもそうか、と村人達は納得してくれて助かった。

 まぁ、ちょっと便利な施設が期間限定であった、くらいの感覚なのだろうね、きっと。


「だから、そろそろ帰ってよ----聖職者タメリックさん」


 と、数日前から私の家に居座り続けるタメリックに、私はそう投げかけるのであった。

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