第36話 錬金術師ススリアは教会が嫌いなのだよ配信

「教会が嫌いだなんて……おかしなことを、仰いますね」


 クスクスと、まるで冗談を聞くかのようなリアクションを取るタメリック。

 それに対して私は、そういうリアクションを取るだろうというのを予測していたため、なにも文句はなかった。


 ----あぁ、やっぱりそういう認識なんだな。


 と、そう思ったくらいである。


「ススリアさん、あなたは錬金術師なんですよね? でしたら、我が研鑽の神アカデミア様を信奉するのは、なにもおかしくないのではないでしょうか?」

「別に、研鑽の神アカデミア様が嫌いとは言ってないでしょう。あの神は実に良い神様だ」


 研鑽の神アカデミアは、常に研鑽を続ける事が美徳している神様だ。

 研鑽、つまりはより良くなり続けるのであれば、休んでも良いし、失敗しても良い。

 挑戦し続ける事こそが、前を向き続ける事が大事という、そういう神様である。


 その教義の緩さ故に、信奉する者は多い。

 要は、「働く意志さえ見せていればみんな偉いぞ!」という神様だからね。

 私だって、こうして錬金術を配信するという、いわゆる配信行為を働くという見方で見れば、信奉者の1人には違いあるまい。


「私は研鑽の神アカデミア様については、なにも嫌いという訳ではない」

「でしたら、なんで教会が嫌いだなんて冗談を……」


 うわっ、凄いな、この聖職者様。

 未だに、私が教会が嫌いと言った事を、冗談で済ませようとするなんて。


「私は神様については、なにも文句を言っていない。文句を言っているのは、神様ではなく、教会そのものについて」



「----そう、いつまで"存在しない神様"を祀っているのかということを」




 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




「アカデミア神様が……存在、しない?」


 私の言葉にクラっと、倒れそうになるタメリック。

 しかし信仰心が厚そうな彼女の事だから、すぐさま「デタラメを言わないで!」とか言って来るだろう事は予測できたから、私はタメリックに対して質問する。


「そもそもアカデミア神様の教義は、かなり緩すぎると思いませんか?

 ----『研鑽する、前向きな姿勢さえあれば、信者たりえる』だなんて、あまりにも都合が良すぎる」

「それは……それだけ広く、皆に信仰して欲しいからです!」


 まぁ、多くの人に信仰してもらおうというのは、確かに宗教においては重要な事だとは思う。

 誰にも信仰されない宗教だなんて、宗教としての意味がないですし。


 けれども、それにしたって、教会が信仰している研鑽の神アカデミア様の教義は、あまりにも"緩すぎる"。


 前向きな意思を示せば、誰にだってその宗教に参加する権利がある。

 ご立派な考えだとは思うけれども、それはつまり、『一生懸命頑張って高い地位まで登りつめた者』も、『今から頑張ろうといっているだけの者』も、アカデミア神様の教義的には、同じく前向きな意思を持つ者として、一緒ということだ。

 もっと言えば、どれだけ人類史的に価値のある働きをしたとしても、前向きな意思とやらが感じられなかったら、無価値に扱われるという事なのである。


 その個人がどれだけの成果を残しているのかは全く関係なく、あくまでも努力する"姿勢"のみで評価するだなんて、酷いじゃないか。

 『結果が全て』とまでは言わないけれども、今の教会の姿勢は『過程そのものが重要』。

 それじゃあ、正しく努力して、そこまで頑張って来た者の"成果"を無視するのと同義じゃないか。




「私が王都で働いていた頃のお店は、そういった教会の教義の悪しき部分が色濃く出たお店だったよ。

 ----『みんなで一緒に頑張ろう。前向きに、みんなで一丸となって働けば幸せになれる』ってね」

「良いお店じゃないですか! どこが悪いと----」

「----『だからススリアさん、1人だけ早く帰るなんてダメです。手が空いているなら、他の人の作業を手伝ってください』でも?」


 そう、前世で言う所の、"家庭的アットホームなブラック企業"である。


 ----みんなで前向きに頑張れば、みんなで一緒に幸せになれる。


「前向きに頑張るのは良いんだけれども、それで結果を出している社員の頑張りを無視したりするのは違うと思うんですよ。まぁ、私が教会が嫌いというのは、その企業での経験があるから、というのもあるんだけど」

「そっ、その企業が、我が教会と関係してない、とかは……?」

「確か社長が、教会の大司教の甥っ子さんだったような?」


 私がそう言うと、タメリックは黙ってしまった。

 ちなみに企業名を教えると、知っていた企業だったらしく、さらに黙ってしまわれた。


「アカデミア神様の教えでは、『結果』よりも、そこまでに至る『過程』----前向きな姿勢こそが大事にされてるからね」


 だから、私とは合わなかった。

 作業効率を重視して、いかに素早く、かつ効率よく働こうとする私の考え方は、彼らからして見れば異端そのもの。


 よく言われたなぁ……「なんでこの子の仕事が終わってないのに、手伝いもせずに帰るんだ!」って。

 おかげで、自分の仕事は終わっているのに、その子の仕事が終わるまで帰れなかったっけ。

 しかも、どれだけやっても残業代とか一切出ない、まさしくブラック企業だったし、それが王都では普通だもんなぁ……。


 あぁ、思い出すだけでも泣けて来た……。


「私としてはそういうアカデミア神様の考えに、疑問を持った。

 ----色々と調査した結果として、アカデミア神様が教会が作り出した、存在しない神様だということを調べ上げたのだよ」

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