第35話 タメリックに会いに行くことになったよ配信

 ススリアが、村の酒場の2階に住み着いた聖職者タメリックに会いに行ったのは、彼女の来訪を知った3日後の事である。


 デルタちゃんから聞いた時は、まさか教会の人間がここまで来るだなんて思ってもみなかったから、驚いたよ。

 この村には教会がないから来ないものかと思っていたのに、まさか巡礼という形でこちらに来るとは思ってもみなかったよ。


 今の所、聖職者タメリックは村で唯一の酒場の2階にて、簡易的な救護所のようなことをしている。

 村人がなにか怪我をしたら、少額の金銭と引き換えに、神聖術で怪我の治療をするみたいなモノだ。

 このイスウッドには薬師の家が一軒しかなく、「ちょっと怪我をしたけど、薬をもらうほどでもないかな」くらいの怪我に、彼女の治療は大変役立っているんだそうだ。

 

 そして、大変役立っている彼女の目的が、私に会う事なので、彼女の治療に感謝した村人が数名、私に「彼女に会ってあげてください」という嘆願をしてきたので、向かっているのである。

 あと、「出来たら村に残る方向で話を進めて欲しい」と言っていたが、私としては早く帰って欲しいの一択なので。




「お待ちしておりました、錬金術師のススリアさん」


 2階に入るなり、シスターさんが頭を下げていた。

 白一色のシスター服に身を包んだ、ナイスバディのシスターさんが、満面の笑みを浮かべてこちらを見ている。


 ……うん、相手が女である私でなければ、恋に落ちちゃいそうなくらい、魅力的な女性である。


「(こんな魅力的な女性が、「ススリアさんに会いたいんです」とか言ってたら、そりゃあ呼びに来るわ。納得だわ)」


 そういえば、嘆願しに来た村人は男性ばかりだったと思いながら、私も同じように頭を下げる。


「初めまして、聖職者のタメリックさん。私に会いたいという噂を聞きつけ、こちらに参りました」

「それはそれは! 会いたいという噂のみで、やって来てくださり光栄の至り。やはり、我らが神アカデミア様のお導きは偉大です」


 今のは、『いや、別に私自身は会いに来て欲しいと直接は言ってないのに、来てくれたんですか! それってアカデミア神のお力が偉大だからです! 是非、そんな偉大な神を称える我らが教会に入りましょう!』という、勧誘文句である。

 あんた自身は直接は言ってないけど、あんたの治療を受けた村人に言いまくっていたら、そりゃあ私の耳にも入るわ。


「……私に会いたいと聞いておりますが、具体的にはどのような用件で?」

「えぇ、実はあなたが悪魔を捕えたというのを聞きつけまして」


 あー、シグレウマルの件ね。

 その捕らえた悪魔は、うちのベータちゃんが使う泡立て器の動力となっていますので、問題はございません。


「悪魔はいつ逃げるか分かりません、もし仮に逃げ出したりしたらあなたを殺しにかかる可能性が高いです。よろしければ、その悪魔、私の神聖術で滅したいと考えております」


 なるほど、悪魔シグレウマルの討伐に、彼女はやって来たという事か。

 配信で盛大に捕まえた事を報告したし、教会の耳に入っても不思議じゃない、か。


「いえ、その心配には及びません。悪魔シグレウマルは、こちらで対処済みなモノで」


 悪魔の討伐にやって来たのなら、その必要はないので帰って欲しい。

 あの悪魔なら、あの泡立て器に封じてあるし、泡立て器が壊れると中の神聖術の付与を暴走させて悪魔を滅する措置がしてあるから、まったく持って問題ありませんので。


「それだけが問題なのでしたら、帰っても良いでしょうか?」

「……まだ、あります」


 彼女はそう言って、鞄から1枚の書類を取り出した。

 そこには私の名前と、私が生まれた村の名前が、はっきりと書かれていた。


「あなたが生まれた村は、ここではないようですが、どうしてこのイスウッドに引っ越したのかをお聞きしても?」

「イスウッドという村の環境が好きだから、ではダメでしょうか?」

「それにしては、村ではなく、村外れに住んでいるようなのは何故でしょう?」


 くっ、どうでも良い事を……。

 まぁ、確かに「村の環境が好き」と言っているのに、村外れに住んでいるのは可笑しいか。


「教会としては、悪魔を捕えて"あわだてき"なる怪しげな魔道具に利用している事までは、調べがついています。それに加えて、教会がないこの辺境の地にわざわざ越してくるだなんて……」


 ビシッと、まるで探偵が犯人を指差す時のように、タメリックは私を指差す。



「この地で、教会に知られてはならない研究をしている!

 私達はその疑いで、あなたを調べたいと考えております!」



 ……なるほど、それが教会の狙いか。


 悪魔を利用した魔道具の作成、そして教会がない田舎への引っ越し。

 この2つを強引に結び付ければ、私が教会に内緒で何か良からぬことをしていると考えても、不思議じゃない。


「お気持ちは分かりました。しかし、それは違います」


 だけれども、その推理は根本的に間違っている。

 私はそれを正すために、強く、彼女に言い聞かせるようにして言い返す。


「私が悪魔を利用しようと思ったのは、シュンカトウ共和国のお姫様の無理やりの誘いがあったからです。その際に悪魔討伐がありましたので、折角だから悪魔を利用した魔道具開発をしようと思っただけです」


 「ですが----」と言い返そうとするタメリックに、私はそれ以上の声を持って答える。


「そして、教会がないこのイスウッドへの引っ越しに関しましては、悪魔も、魔王ユギーも、全く関係ありません」

「では、どうしてこの地を選んだと? はっきり答えてください」


 はっきり答えて?

 良いでしょう、お望みならば答えるとしましょうか。



「----私は、教会が嫌いだからですよ。研鑽の神アカデミアを祀るあなた方が、心底ね」

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