第17話 失敗作の刀の秘密配信
「----という訳で、あの刀を買い取らせて欲しい、ニャア」
「そう来ますかぁ……」
タラタちゃんの配信から、一夜明け。
再びドラゴンに乗ってやって来た共和国の猫商人、スコティッシュさんはそういう風に、私に商売の提案をしてきた。
どうやらあのタラタちゃんの配信で見た、私が作ったあの刀を見て、購入にやって来たのだそうだ。
来てくれたのはありがたいのだが----
「生憎と、あの刀は売り物にするつもりはなくてですね」
----私としては、断る他ないと思っていた。
なにせ、元々あの刀は試作品にして、うちのデルタちゃんの武器にする用の刀。
私の配信では紹介していないし、売り物ではない品なのである。
私がお断りすると、スコティッシュさんは目をギロッと細目にして睨みつける。
怒ってると思うんだけど、猫の細目ってカワイイと思う私としては、ご褒美です。
「……以前、我がドラスト商会の事情はお話したと思いますけど、ニャア」
「はい、十分に聞いています」
彼女が所属するドラスト商会は、共和国で唯一、ドラゴンという超有能な空輸をしても良いと認められた商会。
その代わり、共和国の盟主が『欲しい!』と命じた品は、例え散財してでも、脅迫してでも、買い付けて来なければならないという契約を結んでいる。
「我が盟主様は、ススリアさんが使ったあの刀----ダンジョンを途中の階層から進めることが出来る、あの夢のような刀が欲しいとのご要望です、ニャア。
ちなみにでありますが、我がドラスト商会経由ではございますが、他の商会や国々からも要望が来ています、ニャア。主にオーガを一撃で倒す、その破壊力につきまして、ニャア」
「私としては、失敗作なんですけどね。これは」
そう、素材回収も上手く出来ないし、なにより破壊力の調整も出来ないただの失敗品である。
現状、この刀は私専用にカスタマイズしていると、タラタちゃんの配信と、あとから私の配信でも商売品ではないと説明しているから、そこんところは問題はないんだけれども。
「分かります、ニャア。それを使えば、国さえ落としてしまう可能性があります、ニャア。そんな危険な代物を売買するつもりはないと言えば----」
「あぁ、その心配はしてないんですよ。実際は」
「……はい?」
あぁ、そうか。スコティッシュさんは共和国の人、つまりは他国だからね。
そういう認識も仕方ないか。
「この刀、実は破壊力は然程ないんですよ」
「あの破壊力で、それは偽りだと思いますが、ニャア? オーガを倒すのは、並の冒険者でも一苦労と聞きますが、ニャア?」
確かにそうだ。
オーガが嫌われているのは、なにも素材にも食糧にもならないという、全然役立たないという性質だけではない。
あのオーガは並の冒険者だと歯が立たず、『中堅殺し』の異名を持つ強力な魔物だからだ。
そんなオーガが呆気なく倒されたのである。
確かにパッと見たら、オーガを一撃で倒せる刀であると、そう見えるかもしれない。
が、実際はそうではないのだ。
「スコティッシュさん、驚かないで聞いてください」
「この間の、魔石生成や魔導コンロ、それにあの刀以上に、驚くことがあるとでも、ニャア?」
まぁ、確かに。
それらと比べたら、案外私が思っているよりも驚くべき事でもないのかもしれない。
私はそう思い、ベータちゃんに頼んで、台所からペーパーナイフを持って来てもらう。
ペーパーナイフは錬金術の練習用として作った魔術付与がされていない、ただの先端が尖っただけのプラスチックの棒のようなモノだ。
用途としては手紙とかの開封とかで、ナイフとは名付けられているが、刃先を触っても何の問題もないモノだ。
そしてそのペーパーナイフを、スコティッシュさんに渡させると、スコティッシュさんは「ニャニャ?」と戸惑いつつも、ペーパーナイフを確認してもらう。
「……ペーパーナイフですか、ニャア? これがどうしたのか、ニャア?」
「では、お借りしますね」
まぁ、元々うちのモノだから、お借りしますという言葉が正しいかどうかは別として。
私はペーパーナイフを手に取ると、窓を開け、空に雲だけしかないのを確認して、
「---すーっ」
大きく息を吸い込んで。
----秘剣『風殺し』。
私はペーパーナイフを、振りかぶる。
----どごぉぉぉぉぉんんんっっ!!
「へっ?」
すると、遠くの空----入道雲のように大きく伸びた雲が、真っ二つに分かれた。
そして2つに分かれた雲は、その衝撃を受けて、徐々に霧散していく。
「あの配信で見せた刀、その当人の力量を再現するという魔術付与がされているから、誰でもいきなりオーガ退治できるんじゃないっていうか……あれ? 聞いています?」
そう、あの失敗作の刀にはいくつかの魔術付与をしており、その中の1つとして【再現】という魔術付与がされている。
【再現】----そう、当人の力量をただ再現するだけの魔術付与をしており、疲れていたり怪我をしていても、いつも通りの技が放てるという魔術付与を施しているのだ。
つまり、簡単に言えば、誰でも強くなれる魔道具なんかではなくて----
「ただ単に、ススリアさんが異次元の強さを持ってた、それだけ……?」
「いやぁ、武の道はこれでも治められないんですよね」
この世界に転生した際、錬金術の他に魔術や武術なんかも面白いし、やってみたんだよ。
まぁ、最終的には錬金術が一番楽しいという所に行きついて、武術も"この辺り"で止めたんだけど。
「そうだなぁ。オーガを一撃で倒すのは無理ですが、ダンジョンの指定階層を斬って繋ぐくらいならなんとか……って、聞いてます?」
「……ススリアさん。うちの共和国から、何人か弟子取りません? 武術の?」
「えー、やだよぉ~。タラタちゃんだって嫌々取っただけだし、取りたい気持ちとかないんですよね。私」
その後、スコティッシュさんとの交渉の結果、『オーガを一撃で倒す魔道具』というのはそもそもないという説明、そして『ダンジョンの指定階層を斬って繋ぐ魔道具』の作成をすることを了承し、それを配信にのせて交渉は終えたのであった。
スコティッシュさんは、「あの強さは、王国の中でも一、二を争う剣術の腕です! 是非とも、我が共和国の武人に手ほどきを!」とか何度か詰め寄られたけど、無視しといたし、大丈夫でしょ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「----済まない。我が名は【ゾックス】という、旅する女騎士だ。ここにススリアという、凄腕の剣士が居ると聞きつけたのだが、一手ご指導願えないだろうか?」
まさか、それから1週間もしないうちに、なんとも訳ありな女騎士がうちまでやって来るだなんて、思いもしなかった。
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