第24話 シグレウマルを倒すのだが配信(1)
フランシアさんには十分に、あの悪魔シグレウマルを倒せるだけの戦力があった。
それは【必中】の魔剣を与えた事、そして神聖術の光を放つ【神聖懐中電灯】を使わせた事もそうなのだが、なにより彼女にはそれだけの力があった。
悪魔退治を押し付けたのだって、彼女の弟子入りを断る目的も若干ながらあったけれども、あの悪魔を倒せるだけの武力があると私がそう感じたからだ。
ゾックスさんとしての彼女の太刀筋は若干の粗さこそあったが、それでも十分な力は感じられた。
彼女が悪魔を倒せなかったのは、単に悪魔に通用する武器がなかったから。
物理攻撃と魔法攻撃が効かないという、対策必須の魔物。それが悪魔。
この魔物の弱点が、【必中】の魔術付与と、神聖術なのだが、これを毎回持って行くのはかなり面倒なのだ。
神聖術は魔術とは違い、教会という組織が教える術であり、利益独占のためか、あるいは神の教えとやらなのかは分からないが、大っぴらに習える施設というモノが存在しない。
教会所属ではない神聖術の使い手が冒険者をやっているなど、教会を追い出されたはみ出し者がほとんどで、悪魔と対抗するだけの神聖術を持っている者など、教会でも数人しか居ない。
【必中】の魔術付与を施した武器も実体のない悪魔などに効果があるだけで、派手で分かりやすい魔術付与ではないし、なにより難易度が高い。
そんな魔術付与をするくらいなら、【身体能力強化】やら【火炎】といった分かりやすく強くする方が便利だし汎用性が高く、難易度が低い。
結果として、悪魔対策だけに特化して高価になってしまった【必中】の魔術付与よりも、安くて分かりやすく強くなれる魔術付与の方が人気が出るのは当然だ。
----だからこそ、今回は勝てると思った。
悪魔対策をきちんと施した武器を持ったら、勝てると思っていた。
悪魔という魔物に対して、倒せるだけの装備を与えれば、彼女は勝利できると確信していた。
だが、
確かに悪魔に対して物凄い有利な状況で戦えたのだが、それでもシグレウマルという悪魔は、悪魔の中でもずば抜けて強かった。
しかしそれでも、シグレウマルは強力な魔物であったため、フランシアは負けた。
まだフランシアが叶う相手ではない、読み間違えてしまった----そういう話なのである。
一騎打ちなどさせず、皆で囲んでフルボッコにすればそれで済んだ話だったのだ。
弟子入りさせたくないという、たったそれだけの理由で、彼女には迷惑をかけてしまった。
「ここは私が、責任を取るしかあるまい」
----私はそう思い、次の戦いを挑む悪魔シグレウマルの前に立った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ほぉ、次はお前が相手をすると。あの女の二の舞になりそうだが?」
「言っとくけど、私も女なんだけど」
まぁ、あの女ってのが誰を示しているのかは、もう分かり切っている事だけど。
「----まぁ、どのみち、私に勝つ目はもうないんだが?!」
シグレウマルは双剣をサッと投げつける。
双剣は私とはあらぬ方向に投げつけられ、何をしたのかと思っていると、そこにはバラバラになってしまった【必中】の魔剣の姿があった。
なるほど、アレがヤバイと思って武器壊しから来ましたか。
「あの光は、一直線にしか飛ばない! よって、ライトの向きさえ気を付けていれば、当たらないのだが?」
シグレウマルは、言い聞かせている。
あの【神聖懐中電灯】という魔道具は脅威ではないと、私に、そして自分自身に言い聞かせている。
----暗示の一種、かな。
『相手の武器は確かに強い』、だけれども『注意していれば脅威ではない』と、自分自身に言い聞かせているようである。
あぁいうのは、結構効く。
人間も、魔物も、最終的には自分の実力をどれだけ信じられるかで、勝利を掴んだり、掴み損ねたりするからね。
「----御託は良いから勝負しましょう」
私が腰につけておいた刀を抜くと共に、シグレウマルの右手がバタンッと、地面に落ちる。
「……は?」
シグレウマルは何も言い返せなかった、何も見えなかった。
気付いた時には自分の右手が落ちて、身体が薄まり、ダメージを受けていたからだ。
【必中】の魔剣の時は、当たった時に"剣が当たった"という感触と共に、ダメージがあった。
しかし今の私の攻撃は違う……気付いたらダメージを受けて、当たっていた、である。
この2つは同じようで、全く違う。
フランシアさんの時は『ダメージを受けたから今度はこう対処しよう』と、対策を思案することが出来る。
しかし私の場合は『ダメージを受けたけどなんでこうなったのか分からない』と、原因を思案する事から始めないといけない。
「気持ちで勝つってのは、どんな生物にも当てはまる重要な事だと思います。
----だから今から私が与えるのは、その気持ちを折って行く事」
自分がどうして、ダメージを受けているのか。
それすら分からないまま、なんの対処も思いつかずに、倒される。
「ある意味、フランシアさんの時にやられておいたら良いなと、そう思わせるくらいの気持ちでやりますか」
私はそう言いつつ、今度はシグレウマルの右足を斬り飛ばした。
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