第25話 シグレウマルを倒すのだが配信(2)

 ----斬り飛ばす。


 私が刀を振るうと共に、シグレウマルの左足が吹っ飛ぶ。


 真っ二つになった身体を元に戻す際に、身体が薄くして対処した時とは違い。

 右足の怪我を再生する前に、左足を吹っ飛ばしたため、シグレウマルはその場で前向きに倒れてしまう。

 前向きに倒れたシグレウマルは、私からして見れば隙だらけである。


「首、落としますよ?」

「----っ!!」


 私が斬首の宣言をすると、ビクッと、シグレウマルの身体が震えていた。

 「そーれっ!」とあからさまにわざとらしく言いながら刀を振るうと、自身の身体を煙状態にして物凄い勢いで逃げていた。


 なるほど、身体を煙のように変化させて逃げる、いわゆる逃走形態という感じかな。

 うーわっ、ダンジョンの天井すれっすれまで逃げて、だっさ……。


「なっ、なんなんだ! お前?!」

「ただの錬金術師。さっきの【必中】効果と同じく、これも魔術付与の効果だよ、っと!」


 私が刀を振るうと、シグレウマルは先程と同じように、自らを煙状態にして避けていた。


 うん、良い判断だ。

 今のは刀を振って斬撃波を放っていたので、あのまま居たら真っ二つだったんだけど。


「そのまま煙になって、逃げれば良いじゃん。弱虫のあんたとは、また戦いに来るからさ」


 ----【挑発】である。

 煽り耐性ゼロなモノが多いこの世界において、これが一番効くのだ。


 このまま逃げられると面倒だし、こう言っておけば名持ちの悪魔ならプライドを傷つけられたと思って、攻撃を仕掛けてくるからね。

 強い魔物というのは、総じてプライドが高いし、それを刺激すればまず間違いなく乗って来る。


「----って、おやぁ?」


 そう思っていたのだが、思いのほか、攻撃をして来ない。

 煙状態で逃げた後に身体を人間態に戻して攻撃してくるのかと思いきや、シグレウマルはそのままクルクルとダンジョン内----このバトルフィールドを駆け回る。


 ……うーん、当てが外れたなぁ。


 このまま攻撃してきたのを、返り討ちにして終わりを狙っていたのだが。

 まぁ、逃げない所を見ると、【挑発】という煽りは効いていると見える。


 煽られたから叩きのめそうとはしているが、それ以上に怖くて逃げたくて仕方ない、みたいな?


 まぁ、何でも良いけどね。

 どうせ、シグレウマルはここで・・・やられる・・・・のだから。


「----さて、それじゃあそろそろ止めと行こうかね」


 私はそう言って、刀を真正面に構え、煙と刀を視界に捉える。

 とは言っても、煙はめちゃくちゃ動き回っているから、いちいち狙いをつけなくても、勝手に視界の中に入って来る。


 あとは、タイミングの問題。

 視界に、刀と煙(つまりはシグレウマルの身体)がどちらも入るタイミングを見極めて----


「----一気に、振り抜くっ!」


 目指すは、剣術のお手本になるような、綺麗なモノ。

 綺麗な技というのは総じて、無駄に力が入っておらず、なにより理にかなっているからこそ綺麗なのだ。


 ----ザンッ!!


 私が放った斬撃は、シグレウマルにぶつかる。

 そして、シグレウマルの煙の身体は、そのまま霧散して消えていく。


「……あり得ない……のだが……」


 薄かった悪魔の身体はそのままダンジョンの空気と共に見えなくなっていき、そしてそのまま塵となって消えてしまった。

 悪魔シグレウマルにきちんと効果を発揮しているのを見つつ、私は刀の威力を改めて評価した。




 この刀もまた、悪魔対策で用意しておいた魔剣……いや、妖刀である。

 この妖刀には【必中】ではなく、【霧散】という魔術付与を施してある。


 【霧散】……つまりは、霧のようになれ~、というそういう魔術効果が発揮できるように付与してある。


 霊体……つまり、悪魔シグレウマルのような実態を持たない相手に対して、当てればその身体が固まらなくなる、つまり実体を保てなくなるというモノだ。

 シグレウマルに私が与えた斬撃は、ダメージを与えれば与えるほど、身体を元に戻せなくなる。


 悪魔に物理攻撃や魔法攻撃が効かないのは、当たったと同時に、悪魔の身体の一部が飛んで行き、その悪魔の一部が身体に戻るからノーダメージなのだよ。

 悪魔の身体は霊体や煙のようなモノで、煙を斬ったところで、一瞬は霧散するけどすぐさま元の形に戻るのと一緒のことだ。

 私はそれを、意図的に戻らないようにしただけ。


「(まぁ、その影響で斬撃を放つと、途中で霧散してしまうんだけどね)」


 最初に右手を斬り落としたのは、単に見えないくらい霧散してしまった私の斬撃が、右手に当たっただけで、別に右手を狙った訳ではない。

 そして当たった右手は魔術付与の効果によって、霧となって霧散した状態となり、シグレウマルの身体という形に戻らなかったという訳だ。

 あとはそれをダメージだと感じたシグレウマルが、再生に自らの体力を使って、自滅した、みたいな感じである。


「まぁ、倒せてないけどね」


 ただ単に、シグレウマルの身体は目に見えないくらい、うっすい霧状になってしまっている。

 時間が経てば、魔術付与の効果が切れて、元に戻っちゃうだろう。


「その前に、っと! タラタちゃん、やっちゃって!」

「了解なのであります! ポチッとな!」


 ----ぶいーんっ!!


 タラタちゃんがボタンを押すと共に、彼女が持っていた筒状の魔道具が音を立てて、周囲の空気を、いや見えない霧状となったシグレウマルを吸収していく。

 これぞ、霧状となったシグレウマル回収装置!!


 別名、"掃除機"である。


 掃除機のゴミ袋の中には、聖水がたっぷり入っており、霧状となったシグレウマルを吸い込んで、そのまま聖水の中に入れちゃおうという作戦である。



 ……うん、だから言ったでしょ?

 こんな雑な感じでやられたくなかったら、フランシアさんの時にやられておけって。

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