第28話 教会が危険視してるぞ配信

 娯楽を愛し、人々を堕落させし魔王ユギー。

 そんなユギーを倒すために戦った神、それが"研鑽けんさんの神【アカデミア】"様である。


 自分を律し、他人に奉仕し、自らを高めるために他者に教えを説く。

 どんな時も一歩ずつ前に進む、研鑽する事こそが美徳と考えているのがアカデミア神様であり、我らが教会が崇める神様である。

 それが、アカデミア神様に仕える信徒であり、その教えを広める聖職者である。




 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 王都の、とある教会。

 ステンドグラスにアカデミア神様の美しい姿が描かれたその場所に、1人の老人がいた。

 顔に刻み込まれたしわの数に負けず劣らず、白一色ながら豪華な聖職者の服に身を包んだその老人は、大司教の証たる聖杖を床にタンッと、強く叩きつける。


「----選ばれし聖職者【タメリック】よ。前へ」

「はっ、ここに」


 大司教【シナーモ】の声に呼ばれ、1人のシスターが彼の前に歩いて出て来た。

 露出が少ないシスター服を、生まれ持ったナイスバディで卑猥さを漂わせながら、その少女、タメリックは静かに座り込む。


「タメリックよ。あなたが今日、この場に呼ばれた理由は分かっていますね?」

「いいえ、大司教シナーモ様」


 普通に「はい、分かっております」など、適当に返事を合わせておいた方が良い中で、タメリックは大司教であるシナーモの言葉に否定の声を返す。


「わたくし、未だに自身が悪い事をしただなんて思っておりません。まったく、心当たりがありません事よ」


 ----それはまるで、女王様が使うような言葉であった。


 尊大にして、不遜。

 おおよそ神に仕える聖職者たるシスターに相応しくない、慈愛の欠片も見られないぶっきらぼうな言葉。


 それを聞いて、シナーモは溜め息を吐いた。

 彼女、タメリックは悪い人間ではない。


 教会の教えを守り、神聖術だって同年代と比べると頭1つか2つ分は抜き出る才能の持ち主。

 神聖術が使えるのだから、神の教えに沿うのならば、善良なる魂の持ち主で間違いないはずなのだ。

 ……ただ、変な趣味の人達に大好評というぐらい、ちょっぴり口調が悪いだけで。


「……初めから怒られる前提なのか、タメリックよ」

「えぇ、褒められる事ならば大勢の信徒みんなを呼ぶでしょ? 私とシナーモ様だけという事は、極秘の相談事か、あるいは私が怒られる流れのいずれかよ」


 実に、理に叶っている言葉である。


 今の状況を客観的に見て、どうして自分が呼ばれたのかを分析している。

 その上で、"秘密の相談事"か、もしくは"自分タメリックが怒られる"のどちらかだと判断したみたいである。


「怒らないから、安心して欲しい」

「……という事は、秘密の相談事という事ね」


 そう、タメリックは頭が良い。

 神聖術の覚えが良いというだけではなく、こういった考え方が早いというのも、彼女に頼もうと思ったきっかけである。


「実は魔王ユギー監視委員会の方から、報告がありまして」


 魔王ユギーに関する監視委員会、いわゆる世界に残った娯楽を監視する組織部署である。

 魔王ユギーは娯楽を司る魔王であり、世界に娯楽が溢れれば人々の楽しい声に連鎖して魔王が復活すると教会では考えられている。

 それが故に、教会では魔王ユギーを復活させないため、娯楽が一定以上溢れないかを監視する組織というのが存在する。


 そんな魔王ユギー監視委員会、別名『娯楽取り締まり委員会』の方から、気になる配信があったとの報告が上がっていた。


「その配信者の名前は、『あるけみぃ』という」

「『あるけみぃ』……偽名でしょうか?」

「偽名と言うか、配信者名という感じだろう。配信者として活動する上での、ニックネームのようなモノと考えて欲しい」


 「なるほど。了解しました」と、タメリックは首を振って頷いていた。


「タメリック、君は配信を見たことがないのか?」

「それよりかは、信徒の皆様と遊ぶ方が楽しいので。鞭とか使うと、皆さん愉悦よろこんでくださるんですよ」


 どう遊ぶかは、シナーモは敢えて聞かない事にした。

 

「……ごほん。配信者『あるけみぃ』の話に戻そう。その配信者は"こんろ"や"そーじき"など、人々の生活を楽にするモノを多く作る錬金術師の配信者なのだ」

「生活を楽にする……それが、娯楽に繋がると?」

「長期的に見ればそうだろうが、それはいささか強引な理屈だぞ、タメリック。娯楽を増やし過ぎるのは魔王ユギー復活に繋がるが、日々の生活をほんの少し楽にしてくれるものを規制しすぎるのはいささか傲慢ごうまんであるぞ」


 教会は、研鑽の神アカデミアの教えを守りながら、人々を教え導く組織。

 断じて、検閲しまくって人々を苦しめる組織ではないのだから。


「それで、その配信者『あるけみぃ』さんが、なにかしたんですか?」

「……実は、悪魔を加工するとか言っているらしい」

「悪魔を加工?! それは、本当ですか?!」


 悪魔というのは、神聖術しか倒せない特殊な魔物。

 研鑽の神アカデミア様からいただいた神聖術しか効かない事もあって、魔王ユギーの直属の眷属だと言われている。

 そんな悪魔を、加工する……?


「もしやその配信者は、悪魔を加工し、さらに強い魔物へと進化させる気なのですか?」

「……監視委員会の話によると、配信内にて"あわだてき"にすると決まったらしい」


 "あわだてき"とやらが、なんなのかは、教会も分かっていなかった。

 それどころか、配信者たる『あるけみぃ』がそう言っていただけで、コメントをしていた視聴者も分かっていないくらいである。


 つまり『あるけみぃ』が、何を作るのか誰も分かっていない。

 もしかすると、その『あるけみぃ』が、悪魔以上の何かを作ろうとする可能性がある----それが監視委員会からの報告なのだ。


「聖職者タメリックよ。その怪しい配信者『あるけみぃ』に接触し、探りを入れて欲しいというのが今回の頼み事だ」

「なるほど……。それで危ない事をしていれば、秘密裏に処理せよ、という事で?」


 すっと、首を掻っ切る仕草ジェスチャーを見せるタメリック。

 それに対して、シナーモはコクリと頷く。


 こうして秘密裏に、教会に危険人物認定される『あるけみぃ』こと、ススリアなのであった。

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