第3話 錬金エルフは眠りたい配信
----王都セントール。
王国随一の都市であるそこには、各部門の一流企業、学校などが並んでおり、多くの者達が時に学び、時に遊び、時に仕事をしたりと、生活を営んでいた。
エルフである彼女、【タラタ】もまた、そんな王都に住まう民の1人である。
エルフとは、森に住まう長命種の一族で、若い姿のまま800歳以上は軽く生きると言われている。
長老に至っては未だに20代半ばという姿にも関わらず、1200年以上前の古文書に普通に出てきたりと、どれだけ長く生きるか分からない、それくらい長生きな種族だ。
エルフであるタラタもまた、そんな事を知られているからこそ、職場では「どうせ200歳とか軽く超えているんだろうな」と噂されていた。
今日も今日とて、そんな噂を軽く受け流しつつ、借家へ入るタラタ。
そして、
「200歳越えって……私、実際は、まだ15歳なんでありますがね」
そう、タラタはまだ15歳。
人間でもまだ子供と呼んでいい、そんな年齢のエルフなのである。
200歳を越えて、ようやく若者というとんでもスパンで生きているエルフにとって、15歳で王都でバリバリ働くタラタは異常者として認知されていた。
そんな風に思われてもなお、彼女には働く理由がある。
「あぁ、今日の魔術付与も綺麗だったでありますなぁ……」
うっとりするタラタが思い浮かべるは、職場で見た武具であった。
タラタが働く場所は、アトリエ……錬金術師たちの職場であり、そこでは多くの錬金術師たちが持ち込まれた仕事に対処している。
そんな中でもタラタは、魔術付与と呼ばれる錬金術が好きだった。
ただの武器に、魔石を使って、新たな魔術の力を与える。
そんな魔術付与に魅了され、彼女は王都で錬金術師への道を歩み始めた。
歩み始めた……そう、そこまでは良かったのだが。
「はぁ……まだ仕事を任せてもらえないのであります……」
ガックシと俯く彼女には、今日も魔術付与が、それどころか錬金術師としての仕事が1個も来なかったという事実が、辛くのしかかっていた。
彼女が働くアトリエでは、お客様が担当する錬金術師を選び、そこで初めて『自分の仕事』と言える。
そして彼女が働くアトリエは、王都でも指折りの一流アトリエであり、彼女よりも遥かにレベルが高い錬金術師が数多く在籍している。
そんな中で、独学で錬金術を学んで錬金術師となった彼女は、はっきり言って信用がない。
信用がないからこそ、自分という錬金術師を選んでもらえない。
自分の仕事がまだない彼女は、毎日毎日、他の先輩方のお手伝いと称して、おこぼれで仕事をさせてもらっているだけだ。
仕事は確かにしているのだが、自分の仕事ではないため、仕事を任されていないのと一緒なのである。
「(こんな日々が、あと何年……いや、何十年続くのでありますか……)」
エルフの、それも15歳であるタラタには、他の者よりも多くの
恐らくだが、年月を重ねれば、いずれ自分があのアトリエの一番の古株にして、一流の錬金術師になることは確定しているようなモノである。
だがしかし、多くの寿命が、時間があるからといって、自分の仕事がない現実は変わらない。
「こういう時は、配信でも見て気を休めるであります」
嘆いても、仕方ない。
明日になったら、自分を選んでくれるお客様が来るかもしれない。
そのためにも、しっかり睡眠を取ろうという気持ちで、彼女は配信を見るために、魔道具を手にした。
----配信。
それはエルフの里に居た頃から見ていた、彼女お気に入りの文化の1つ。
手に収まるくらいの、このちっぽけな魔道具の画面に、世界中のあちこちから撮られた動画が配信されて送られてくる。
世界中のあちこちの人達と、簡単に繋がることが出来るこの配信という文化を、他のエルフ達と同じように、タラタも愛していた。
いまタラタが見たいのは、『睡眠導入』の動画である。
焚き火をただずっと眺めている動画や、波の音を聞き続ける動画など、心地よい睡眠へと誘ってくれる動画で、明日のための良い睡眠を得ようとしていた。
「ん……? 製作配信?」
そんな中、タラタが見つけたのは、とある製作配信であった。
配信者名は、錬金術師系配信者『あるけみぃ』という人物であり、いつもは睡眠導入動画ばかりの彼女は見たことがない配信者であった。
「制作配信でありますか……しかも、錬金術で魔導コンロが完成するまで、と」
製作配信は、その名の通り、1つのアイテムの製作の過程だけを載せる配信である。
そして、製作配信は、彼女にとって良い睡眠導入動画の1つでもあった。
なにせ、製作配信は----物凄い時間がかかるから。
錬金術とは、色々と混ざった材料から必要な素材だけを取り除く『抽出』、2つ以上の素材を組み合わせる『合成』、そして合成した物体を商品の形に整える『形成』----この3つを繰り返すようなモノ。
そんな様子を見せられ続けるので、単調な動画になる事が多く、睡眠導入としては悪くないと、タラタはそう判断した。
「他の錬金術師さんの実力も知りたいでありますし、今日はこの配信で睡眠に入ろうと思うのであります」
彼女はそう言いつつ、ポチッと、その『あるけみぃ』の製作配信の視聴を始めたのであった。
まさか、この配信が、彼女の運命を大きく変える事になるとは。
まさか、夢にも思わずに。
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