第4話 錬金エルフ驚愕の魔導コンロ製作配信

『----という訳で、今回は近所の酒場の店長さんからのご依頼で、魔導コンロを作っていきたいと思いまーす』


 タラタが配信を視聴し始めると、やたらハイテンションな女性が今回の企画内容を発表していた。

 どうやら既に配信は始まっているようであるが、そもそも睡眠導入のために見始めたので、このままで良いかと思って、タラタは配信をそのまま見続けることにした。


「(横にいる女の子は……えっ?! まさか、ゴーレムでありますか?)」


 思わず眠気が覚めてしまったのは、それだけ横にいる女の子----いや、ゴーレムの完成度が高かったから。

 本物の人間と、勘違いしそうになるくらいに、そのゴーレムの完成度は非常に高かった。

 


 ゴーレムとは、錬金術師が生み出す人造人形のこと。

 人形と言ってもその大きさは様々で、文字通り人形サイズの代物もあれば、建物を越えるほどの大きさの物まで様々だ。


 主な利用目的としては、簡易的な作業の手伝いであり、1つの作業をする事に特化させるのがほとんどだ。

 複雑な命令式を書き込めば書き込むほど、処理に時間がかかり、役に立たないから、大抵はそう言う風に利用されている。


 だがしかし、その配信に映るゴーレムは、まるで人間のように、作ってくれた錬金術師マスターを見ながら微笑んでいた。

 『微笑む』、ただそれだけに見える行為も、錬金術師からしたら驚愕ものだ。

 なにせ目や口の形や位置----それだけでも笑顔にするためには途方もない命令式を書き込まなければならず、その上で自然とそう思わせるベストな速度で瞬時に作り出すなど、神業と言っても良いくらいなのだから。


「ゴーレムの造形、さらには『微笑む』を実行させるほどの高度な命令式の作成……何者でありますか、この錬金術師は?」


 いつの間にか、睡眠という本来の目的も忘れ、タラタはその配信をじっくり見入ってしまっていた。



『----はい、以上の工程にて下準備が完了しました!』

「しまった?!」


 ゴーレムに夢中になるあまり、隣で作業をしていた『あるけみぃ』なる錬金術師の行動を見忘れていたタラタ。

 慌てて視線を移すと、そこには1枚の薄い鉄板を持つ配信者の姿があった。


「あれが、魔導コンロ……?」


 薄い鉄板と、タラタの知る魔導コンロが、全く結びつかない。

 タラタが知る魔導コンロは、火属性の魔石から生み出した炎を、風属性の魔道具によって風を送り込む調理器具であり、あのような薄っぺらい鉄板ではないはずなのだ。


「あれが魔導コンロであるはずが、ないのに……」


 頭では魔導コンロでないと分かっているのに、何故だか目が離せない……。

 そうこうしているうちに、『あるけみぃ』は薄い板に、慣れた手つきで手早く作業を進めていく。


 薄っぺらい鉄板に、大きな円を2つ描くと、その円の中に小さな円を描く。

 あっという間に、三重の円が2つ出来上がるその様を、食い入るようにタラタは見つめていた。



『では、これからは魔術紋様を刻み込む時間になりますね』


「魔術紋様……!!」


 ゴクリっと、思わずタラタは唾を飲み込んでいた。


 ----魔術付与。

 それはタラタが恋い焦がれ、15歳にしてエルフの森を飛び出すきっかけとなった錬金術であって。


(※)『そんな事より、おっぱい! おっぱい!』

『あー、やっぱしおっぱいみんな好きですね~。よーし、ベータちゃん! 魔術付与中はおっぱいを画面いっぱいに見せつけるサービスシーンだよ!』


「てめっ、ふざけんなであります!!」


 一番見たかった魔術付与は、どこぞのおっぱい好きリスナーのせいで、見れなかったのだった。



 その後、10分ほどして魔術付与が施された魔導コンロが、画面に現れる。


「見たかったであります……」


 慌てて『魔術付与見せて!』とコメントを送るも、時すでに遅し。

 タラタのコメントは、おっぱいしか興味がない大勢のリスナーのせいで、残念ながら見えなかった。


「しかし、完成品も流石でありますな」


 魔術付与は、決まった魔術的紋様、つまりは魔方陣を刻み込む作業。

 線が歪んだり、溝が同じ深さで掘られていないと、効果が半減するどころか、作動しなくなったりする重要な作業である。

 そして、『あるけみぃ』の魔術付与は、いままでタラタが見ていた中でもとびっきり綺麗な魔方陣が刻み込まれていた。


『最後に、雷属性の魔石を置いて完成となります!』

「雷属性の魔石? そんなレアな魔石が?」


 魔石とは魔物の身体の中にあったり、特定の山で発掘できたりする、錬金術師にとっての必需品の1つである。

 魔石にはいくつか属性があるのだが、魔法の基本属性である『火』『水』『風』『光』『闇』の5つの属性を宿した魔石は割かし見つかりやすいと言われている。

 だがしかし、この5つ以外の魔石はかなり入手が難しく、雷属性を宿した魔石はかなりレアだ。


「私も見たことがないし、これは楽しみであります」


 もうそろそろ寝ないと、明日の仕事に支障が出る。

 最後に雷属性の魔石を見て、今日は寝ようと思って----


『ベータちゃん、【サンダーボール】発射準備』

『了解しました、マスター』


「えっ?」


『【サンダーボール】射出』

『よっ、と! おぉ、ありがとう、でこれを魔石化して----』


「いま、ゴーレムが魔法を放っ----えっ? 魔石を、いま作り出している……?」


 ゴーレムが魔法を放つ事も、その魔法をキャッチして魔石に変えるという行為も、タラタの常識から考えたらあり得ない事の連続であった。

 『あるけみぃ』は魔石を作り出すという偉業を為しながら、それをさも当然のことのように対処して、作り出した雷属性の魔石をはめ込み、魔導コンロの完成を告げる。

 動作テストとばかりにコンロを操作すると、



『----ぼぉっ!!』

『おぉ、ちゃんと火が付きましたね! という訳で、今日の配信はこれに----ひゃっ?! いきなり抱き着いてこないでベータちゃ』


 最後、ゴーレムが『あるけみぃ』を押し倒したように見えたところで、配信は終了となった。



「えっ?! これで終わりでありますか?! どうやって魔石にしたのであります?! 魔導コンロっていってたでありますが、どうしてあの薄い板で火がつくのであります?! どういう理屈でありますか、これ!?

 もっと教えてくださいであります、『あるけみぃ』! 『あるけみぃ』ってば!!」


 もうタラタに、仕事のために早く寝ようという想いはもうなかった。

 彼女は少しでも情報を得ようと、『あるけみぃ』の保存記録アーカイブを見続け----



 ----次の日、職場に大遅刻してしまうのであった。

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