第67話 私が工房で働いていた頃の配信(2)
私がアルファを辺境イスウッドに設置している中、メガロ錬金工房では超大型案件を受けていた。
その超大型案件が、メガロ錬金工房の崩壊の始まりであった。
私は、メガロ錬金工房名義で開発した魔道具の1つに、
これは風の魔術付与を用いて、雪が積もるほどの極寒温度から、水が一瞬で渇く程の灼熱温度まで、自由自在に温度調整が出来る素晴らしい魔道具。
そして、私が不在の間に、錬金術師の1人が、そのエアコンを使って住宅業界の最大手に売り込みに行ったのだ。
そして獲得してきた案件が----エアコンを各部屋に配置した、多種族対応型の大型マンション。
他種族の中には暑い気候や寒い気候が良いという方もおり、服装などで調整も可能なのだが、自分の住まいくらいは服なんて気にせずにのびのびと暮らしたい。
そういう人達向けの、『どんな季節が好きなヒトでも住むことが出来る夢のマンション』というコンセプトで作る、メガロ錬金工房始まって以来の大型案件だったのだ。
成果報酬は、なんとびっくり、60億。
そして前金として、6億もの金額を事前に頂く程のビックプロジェクト。
----そう、大型案件すぎた。
----新興企業である、ベンチャー企業である自分達には不相応な。
私がアルファの設置という名の有休消化した頃には、工房は傾きかけていた。
成果報酬は、60億と確かに高い。
しかしそれだけのビックプロジェクトだから、当然、製作費用や人件費用など、大幅にコストがかかる。
----"30億"。
そのビックプロジェクト、エアコンを備えた大型マンションの建築に必要なコストである。
もちろん、これはあくまでも最低金額、色々と出費を抑えた上での限界。
一方で、私達メガロ錬金工房が使える予算は、"20億"。
これは前金として頂いた6億を足したとしても、そのくらいしか出せないのだ。
余った10億、出せない10億、出来ない理由としては膨大すぎる金額であった。
既に前金を頂いている以上やらないという選択肢はなく、私達は20億で出来る限りマンションの建築を行いつつ、残りの10億をどうにかしなければならないという事態に陥っていた。
借金をすることも案の1つとしては上がっていたが、ベンチャー企業という新参者であるこの工房を目障りに思っていた古参の工房などからの圧力もあって、借りられなかった。
契約を取って来た錬金術師はどうにかしようと、身の丈に合わない高額の魔物を倒しに向かい、命を落とした。
他の錬金術師達も、どうにかしようと出来る限り頑張っていたが、「こんなベンチャー企業で潰れてたまるか」と、1人、また1人と去って行った。
当然だ。元々、名をあげたい、そういう出世欲の塊のような錬金術師が大半だったから、企業と一緒に共に、最後まで頑張ろうという気概がある者は居なかった。
こうして最後まで残ったのは、エアコンを作った私、そして工房長であるラグドゥネームの、たった2人だけ。
『君も他の錬金術師のように、逃げてくれても構わないんだよ? あとは私がなんとかするからさ』
ラグドゥネーム工房長はそう言ってくれたが、エアコンを作ったのはこの私だ。
となれば、エアコンがなければそもそもこんな超大型案件は発生しなかった訳で、少なからず責任を感じていたのだ。
『大丈夫ですよ。エアコンの改良を進めて、元値よりもだいぶ安く仕上げる方法を見つけましたし。ほら、この部品のコストが異様に高かっただけで、それを改善すれば、いまよりも安く作れますので』
『でもそれだと、温度調節機能が下がるんだろう?』
『うぐっ……! たっ、確かに……』
私の当時の実力では、それが限界だった。
エアコンに必要なパーツの中には、めちゃくちゃ強い魔物が群れとなっているエリアで見つかる金属が必要で、それがないと要求されたスペックは出せなかった。
ともあれ、私がエアコンをいくら安くしたところで、20億には抑えられなかったんだけど。
『こうなったら私、自分で取ってきます!』
『えぇ?! そんな事が出来るのかい、ススリア君?!』
『魔物を倒す事は出来ても、魔物を倒しながら採取する事が出来ないだけなんで。ちょうど、ゴーレムの機能を向上させる装置を作ったので、採取と運搬をそれに任せれば行けるかと!』
私がそう言うと、ラグドゥネーム工房長は優しい顔でこう言った。
『……そうかい、その覚悟はありがたい。でも気を付けてくれよ』
工房長の許可を得た私は、早速、作業に取り掛かる。
まず採取運搬用のトラック型のゴーレムを作り上げ、アルファと連結させる。
これにより、採取と運搬をゴーレムに任せて、私は思う存分、魔物との対決に集中することが出来た。
魔物との対決はいつ命を落とすか分からないほど激しいモノではあったが、私は無事、目的の量の金属を採って、帰って来た。
----ラグドゥネーム工房長は、工房の真ん中で首を吊って死んでいた。
自殺である。
私が戻ってこない可能性も考え、工房長は自らにかけられた保険金を得るために、無謀な自殺を試みたのであった。
『おいおい、馬鹿な人すぎるでしょう……』
そして、私は、工房長の保険金を受け取った。
そのお金は、たった数千万ぽっちで。
そのお金は、歴史に名を残せるほどの才能を持つ工房長には釣り合わないお金であった。
私は別の工房に、エアコンの特許権を売り払い、その工房に全ての売り上げを譲るという形で、大型マンションの建築に成功した。
売り上げは全て、その別の工房に持っていかれ、さらにはエアコンという便利な魔道具の特許権まであげてしまったが、そもそも自分達のような弱小工房が受けるには、デカすぎた。
たった1人、私だけが残ったメガロ錬金工房を続けていくだけの、器用さは私にはなく。
それどころか、私が作った魔道具のせいで、この工房は潰れたのも一緒だ。
そうして私は、辺境イスウッドに移り住み。
家事担当のベータちゃん以外にも、配信編集担当のガンマちゃんと採取討伐担当のデルタちゃんを作成。
配信者として、細々と暮らしていく生活を送ることになったのである。
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