第68話 シガラキ代表からの発注配信

「うぅ……知ってはいましたが、当人から聞くと凄みが伝わってきますね……」


 私が過去の話、メガロ錬金工房についての話を語り終えると、話を聞いていたシガラキ代表はウルウルと涙を流し始める。

 文字通りの、涙が流れるのが傍目から見ても分かるくらいの、マジ泣きである。

 それも、下に小さな水たまりが出るくらいの、マジ泣きである。


「泣いてるんですか?」

「えぇ、文字通り『涙を誘う』お話に涙が止まりません……」


 意外だった。

 てっきり、『血も涙もない』ような冷血な人で、私の話も「経営能力がない者が起こした、笑える話ですね」と言われるかと思っていた。

 しかしながら、目の前のシガラキ代表は、自分の事のように涙してくれていた。


 これを嘘や演技と呼べるほど、私の眼は腐ってはいなかった。


「どうして、そんなに泣いてくれるんですか……?」


 しかし、理由は知りたかった。

 私の話に、どうしてそこまで感情移入してくれるのか。その理由は是非とも知りたかった。


「そんなの、当たり前じゃないですか!」


 私の質問に、シガラキ代表は「当然です!」と答えた。



「ちゃんとした成果を出せる企業が、そんな風に滅んでしまうだなんて……! 有用な取引先の廃業話に涙しない者は、この商売の国シュンカトウ共和国には居ませんとも……!」



 ふんっと、鼻息が聞こえてきそうな勢いで断言するシガラキ代表に、「聞かなきゃ良かったかも……」と私はつい、そう思ってしまうのであった。




 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 ともあれ、私達の苦労話を、彼女なりに真剣に聞いてくれたことはありがたい。

 そこは素直に、嬉しいと思っておこう。


「ごほんっ! まぁ、その頃、このドラスト商会と取引があれば、【ジョイントベンチャー】という解決法にて助言できたことを嘆かわしく思いましてね」


 シガラキ代表の提案に、私も「そうですね」と返答する。



 ジョイントベンチャー、またの名を合併企業。

 ジョイントベンチャーとは、自分達の企業と、競合他社の企業とで、同等の金額を出資して、互いの経営的な資源、資産、資金などを共有し合って、お互いの良さを出し合うという企業体制。

 営業の一部を外部委託するパートナーシップと違い、業務提携や資本提携よりも強く関わりを持ち、互いに出資し人材や技術を投資しているため、解消が起こりにくくなり、長期的な運用が見込める。


 私達の例で言えば、30億必要だったこの超大型案件も、このジョイントベンチャーによって別の工房たしゃと15億ずつ出し合えば、十分に可能だったのだ。

 利益こそ折半して減るのは避けられないが、競合している工房たしゃに恩を売る事で、次からも同じような案件もすることが出来る。

 長期的に見れば、恐らくこれこそがあの時の解決方法だったのだろう。


 もっとも、ベンチャー企業として名を馳せ、他の錬金工房の取引を奪いまくっていた、あの頃のメガロ錬金工房に、そんな選択肢が取れるとは思わない。

 さらには、ジョイントベンチャーは長期的なお取引相手を探すから、その選定も難しく、そんな簡単に「はい、明日から一緒に頑張りましょう!」という風に出来ないのだから、無理。


 結局は、私の取った、特許を別の工房に売り払って代わりにやってもらうという事しか出来なかった、のだろうけど。



「それで、わざわざそんな終わってしまった、昔の話を持ちかけた、本当の理由は何ですか?」

「あぁ、そうでした! そうですね! 本題に入らせていただきましょう!」


 「ごほんっ!」と、わざとらしく咳をして。それから涙も拭いて。


「今回、ドラスト商会代表、シガラキから提案して頂きたいのは、かつてメガロ錬金工房で売り出そうとした商品を、うちに納品してくれないかという事です」

「あの工房で売り出そうとした商品……?」

「えぇ、【アルファ・ゴーレムサポートシステム】----つまりは、二足歩行の機能的ゴーレムを作って欲しいんです」


 シガラキ代表が言うのは、ベータちゃんやガンマちゃんのような、ヒト型ゴーレムの作成を私に依頼したいのだそうだ。


 現在、ドラスト商会ではめちゃくちゃ大きな課題を抱えている。

 その解決のために、ベータちゃんのようなゴーレムの開発をお願いしたい、との事。


「この問題を解決しなければ、近い将来、ドラスト商会は潰れてしまう。そう、文字通り、それを解決しないと潰れるほどの『風前の灯火』となるほどの問題なのであります」

「それほどまでに、ヤバい問題が?」


 いや、確かに【アルファ・ゴーレムサポートシステム】は凄いシステムではあるが、万能ではない。

 あくまでも前世で言う所のAI技術、ロボット技術のようなモノなのだから、出来る事も出来ない事もあるのだ。


 そんな商会存続の危機を解決するほど、【アルファ・ゴーレムサポートシステム】は万能ではないんだけれども……。


「ところで、その問題というのは……?」


 私がそう言うと、シガラキ代表はビシッと言い切った。



「----我がドラスト商会の、食堂部分の改善をお願いしたいのです! そう、【アルファ・ゴーレムサポートシステム】を使って、ベータちゃんのような料理が得意なゴーレムをお願いしたいのです!」



 ……食堂部分の改善?

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