第69話 新型ゴーレムはコックさん? 配信(1)
ドラスト商会は、シュンカトウ共和国一の大商会。
同時に、様々な他種族を受け入れる雑多な商会。
シガラキ代表のような、獣人族。
タラタちゃんのような、エルフ族。
私のような人間族の他にも、魔族や天使族など、多種多様な人材の宝庫。
----採用条件は、優秀である事。
----どんな人種だろうとも、優秀な商人であればだれでも雇う。
たったそれだけの採用基準により、どんな人種だろうとも受け入れるドラスト商会。
様々な人材が、その能力をフル活用して、『良い物』を仕入れてくるからこそ、ドラスト商会はシュンカトウ共和国一の商会になれたのだ。
「そして、それこそが、我が商会一番の強みであると同時に、弱みでもあるのだ」
「……と言いますと?」
シガラキ代表の話によれば、様々な種族を受け入れた結果、その好みに対応できる食堂が作れなくなった。
草食、肉食。肉が食べられない、野菜が食べられない。
山の幸が好き、海の幸が好き。
宗教的な理由から一部の食事が食べられないなどなど。
ともかく、それぞれの種族にとって『食べられる食事』が少なすぎる、限定的すぎる影響で、食堂ではその全種族に対応した食事を提供できない。
提供できないとなると、提供できる別の商会に移ってしまったり、あるいは外で食べて来て経費がかさむ。
「おかげで、その事が我がドラスト商会で一番の重みになってるのです」
どれか1つの種族をひいきにすれば、『優秀な者ならどんな人種でも構わない』という採用条件に合ってないとして、苦い顔をされてしまう。
かといって、全種族対応するような料理を用意しようとすれば、それこそ大幅なコストがかかる。
「つまり、その料理を作る作業をゴーレムにしてもらおう。そういう事ですか?」
「えぇ! 配信を見させていただきましたが、そちらのベータさんは多くの料理を作れるんでしょう? その料理スペックを、うちでも発揮して欲しいとの事です」
という感じで、私は食堂のコック用のゴーレムを1体、作成する羽目になったのであった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ドラスト商会の食堂で運用する、コック用ゴーレムの依頼。
成果報酬は2000万。これはゴーレム1体、魔道具1個と考えると破格の値段。
さらに、ゴーレムが売り上げた利益のうち1割を毎月報酬として上乗せ、その上でドラスト商会が持つドラゴン生育術を全て教えてくれるんだそう。
つまり、私が一番欲しかったドラゴン生育術を知るには、この依頼をクリアしなければならないんだそう。
無論、今回の依頼を断っても良いが、シガラキ代表の事だ。ドラゴン生育を知りたいと言えば、『共和国の守秘義務もありますので』とかなんとか、吹っ掛けられる可能性が高い。
「(それに、作ったからには日の目も見せてあげたいし)」
私は依頼を受け、ベータちゃんと共に新作のゴーレムの製作に取り掛かった。
「それで、マスター? 私の妹は、どんな感じにする予定ですか?」
「それが、かなり難しいんだよね。これが」
シガラキ代表からは、このドラスト商会に所属する商人のリストを貰っている。
あくまでも名前と顔写真、そして食べられるモノが載っているだけのリストで、これを見て何が食べられるかを考えているが、本当に千差万別、色々とある。
食べられる程度の好き嫌いなら良いのだが、身体が受け付けない食べ物がある者や、信仰している宗教上の問題で食べられない物がある者もいる。
確かにこの要望を全て叶えようと思うと、食費がいくらあっても足りない。
そして、舞台は大衆食堂ではなく、あくまでもドラスト商会の食堂、つまりは社食。
食材については、商会だけあって量は問題ないが、無制限に使える訳ではない。
さらに、商会の社食なので、求められているのは"高級感"でも、"オシャレさ"でもない。
"安くて美味しい"、"それでいて飽きが来ない味"だ。
「シガラキ代表からの目安は、商会を名乗る以上ある程度利益がある事。そして、急な商談前でも対応できるように、速く出せる事。
目的は、この商会の商人の半数が、週に何回も通っても良いと思える料理を作るゴーレムだ」
「……すっごく、難しくありません? それ?」
「だから、今までの
ドラスト商会の商人達は各地を巡り、それこそ千差万別の商品を口にしてきただろう。
そんな彼らが、商会に納品した後、ちょっと食堂で食べて行こうかなと考えるような料理を作るとなると、かなりの難題だろう。
なにせ、目新しさというのは日々の商売で見飽きているだろうし、急に食べたくなるんだから凝った料理は作れない。
目標は、注文を受けてから10分以内に提供と食事が終了するくらい。
「とすれば、ベータちゃんレベルの家事スキルは必要ないな」
「そうですね。あくまでも料理スキルを重点的に置きましょう」
ベータちゃんは料理も出来るが、それはあくまでも炊事洗濯などの家事の一環として。
今回用意するゴーレムには炊事洗濯は必要ないので、その分のスペックを料理スキルに費やす。
ゴーレムと言うのは、スペックを限定する事で、目的を狭める事で多くの効果を発揮する。
だからこそ、私が今まで作ったベータちゃん、ガンマちゃん、そしてデルタちゃんはそれぞれの性能に特化しており、だからこそ快適に過ごせているのだ。
とりあえず、料理に必要な要素を重点的に、私は新作のゴーレムを作って行く。
デルタちゃんのように4本腕にする事も考えたが、今回使うのは普通の人が使う事を想定するとしたら腕は2本で十分だろう。その分、食材を切ったり、重い物を運ぶことの方が多いので、そういうのを軽く持てるように腕を太めに。
脚に関しては、4本脚に。立ってする作業が多いだろうし、2本脚よりもしっかりと安定するだろう。シガラキ代表からは二足歩行という要望もあったが、あくまでも欲しいのは食堂を運営する機能を持つゴーレムだろうし、二足歩行にはそこまで強いこだわりはないだろう。
あと、複数作業を1人でやりくりしようと思うと、保存魔術【アイテムボックス】を使えた方が良い。【アイテムボックス】で作り置きしておいたサイドメニューを、そして空いた時間でしっかりとした料理を作らせよう。
「うん、だいたいの案は出来たな」
【アイテムボックス】に料理を詰め込みまくるというのも1つの手だが、それならわざわざゴーレムを使う必要もないし、食堂に来る必要性もない。
あくまでも、【アイテムボックス】はサブとして、料理を作って提供するゴーレムを目指しているのだから。
「あとはこれを、精査してブラッシュアップ。材料も含めて、3日あれば完成かな?」
人型ゴーレムを作るのは、ベータちゃんを含めて4体目。
既に慣れているし、他国であっても【アルファ・ゴーレムサポートシステム】の配信は届くだろうから、人格についても問題ない。
「あとは、何料理を作るか、ですね! マスター!」
「あぁ、そこが一番難題だけど」
こうして、私のゴーレム作りはなかなか順調な立ち上がりを見せていた。
----肝心の、何料理を作るかが、まだ全く決まってないことを除いては。
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