第70話 新型ゴーレムはコックさん? 配信(2)

 基礎ベースとなる、料理製作担当ゴーレムの姿は出来つつある。

 問題は、このゴーレムに何料理を作らせるか、である。


 ベータちゃんのように様々な料理を作れるようにも出来るが、バリエーションを豊富にし過ぎると、メニューを選ぶ時間も考えるとマイナス。

 さらに複数の料理を用意するとなると、その分、幾つもの料理を作らないといけないので、社食としてはマイナスである。


 ここは前世とかにあった、特定の料理専門のお店というコンセプトの方が良いだろう。

 カレー料理専門とか、キノコ料理専門店とか、そういう感じで。


「まぁ、カレー料理も、キノコ料理も、今回はダメだろうね」

「嫌いな方をリストアップした結果、どちらも6割以上居ました」


 でしょうね~、と私はベータちゃんの分析に、頷き返す。

 カレー料理は子供も大人も美味しく食べられるし、恐らく好き嫌いも少ない。とはいえ、肉だけが食べたい、野菜だけしか食べられないなどといった需要ニーズに素早く対応できるかと言われると別である。

 キノコ料理はもっとダメだろう。肉しか食べられない人には受け入れられないだろうし、野菜だけ食べられる人もキノコ料理だけとなると、流石に週に何回も来るほどの継続率リピートは見込み辛そう。



 大切なのは、安くて、速くて、その上で美味しい。

 その上、多くの好き嫌いにも、素早く対応できる料理。



「(ベータちゃんを通して、アルファに検索をかけて貰っても、無駄だったしなぁ)」


 あまりにも、求める検索がざっくりしすぎだと、流石の集積装置の役割をするアルファでも絞り込めない。


 いったい、どんな料理なら、このドラスト商会に相応しいのだろうか?


「----あぁ、そうだ」


 そんな時だ。

 私の頭の中に、1つの妙案が、とある料理形態を思いついた。いや、思い出した。


「(安くて、速くて、美味しい。その上で好き嫌いがあっても、対応が早く出来る料理)」


 そうだ、あるじゃないか!

 この条件にぴったりの料理が!


 早速、その料理に合うように、料理型ゴーレムをブラッシュアップしていく。


 2本の腕と4本の脚に、火炎や熱などの耐性を強くする素材を使用。

 これからする料理は、長時間、火の前に居る事が多い料理だから、熱耐性はしっかりとしておく。


 その上で、服装なども、作る料理に合わせて決めておく。

 和食を作る料理人がイタリアシェフの恰好をしていたら、違和感を感じるように、人前に出る事は多くないだろうが、そういうのを合わせるのも大事だと思うのだ。

 服装なんて、ゴーレムなんだから最悪裸でも良いのであって、ここら辺は完全に私のこだわり、趣味の領域だ。


 女の子にするのも、もちろん趣味。

 やっぱ男のゴツゴツした身体よりも、女の子の柔らかそうな身体の方が作っていて良いからね。

 まぁ、男には男の良さがあるとは思うけど、私は女の子の方が作っていて楽しいというだけだ。


「さて、あとは【アルファ・ゴーレムサポートシステム】と連結させて、学習ラーニングさせよう」


 配信動画を10000本くらい、データとして集積すれば、すぐさま食堂で働けるレベルにはなるだろう。



「さぁ、いよいよ起動の瞬間だ。

 ----ドラスト商会に卸す、コック型ゴーレム。新型ゴーレム、【ジュール】の誕生です!」




 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




 ----仕事の依頼を受けてから、3日後。

 新型ゴーレム、ジュールの性能発表および納品のため、私はシガラキ代表の部屋を訪れていた。


「おぉっ! それが、完成したゴーレムなのかい?」

「えぇ、新型ゴーレムのジュールちゃんです。ほら、ジュールちゃん、シガラキ代表に挨拶」


 私がそう言うと、ジュールはシガラキ代表の前へと、ゆっくりと進む。



 4本脚になった事により、スムーズに移動できるようになった下半身。

 多くの料理を作るために、折れにくさのために少し太めに作っておいた腕。

 そして、料理に合わせた、詰襟で横に深いスリットが入った、"チャイナドレス"。



「初めましてアル、シガラキ代表。私の名前はジュール、見ての通り料理作るゴーレム、よろし!

 私の料理をまずは食べて、判断して欲しいアル!」



 おさげが似合う可愛い系のゴーレム、ジュールちゃんを見て、シガラキ代表は「足は4本なのか……」と突っ込んでいた。


「足は2本脚にも出来ますが、大勢の料理を作るためにはこの形が相応しいと思って作りました。勿論、依頼人クライアントの要望には、出来る限り応えたいと思いますが」

「いやいや、足はそれほど重要視してないから大丈夫! 文字通り、『豪放磊落ごうほうらいらく』----私は広い心を持ち、細かい事は気にしない性格だからね」


 それは、なによりである。

 出来るとは言ったが、4本脚を2本脚に変えると、重心が変わって、色々と手順の覚え直しをしなきゃいけなくなるから。



「----それよりも、問題は料理の方」



 どんっ、と次の瞬間には、気にしないと語っていた獣人の姿はなく。

 代わりとして居たのは、商会の代表が持つべき、重苦しい雰囲気を出して、威圧感を放つシガラキ代表。


 そう、ここからはビジネスの世界。

 シガラキ代表が求める料理を作れるかという、そういう世界だ。


「そうアルネ! ここからは料理の世界、このジュールの料理を見せつけるヨロシ!」


 ばんっ、と【アイテムボックス】の中から、ジュールは料理を取り出して、シガラキ代表の前のテーブルに置く。



「我が信念がこもった料理! その名も、【ラーメン】を食べるがよろし!」

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