第71話 これぞ、ジュールのラーメン伝説配信
「----ラーメン! それは『麺』、『スープ』、そして『具』の3つの要素が劇的にマッチした事によって生まれる混成芸術アル!」
シガラキ代表の前に、ラーメンを置いた新型ゴーレムのジュール。
4本足でしっかりと立ちながら、ジュールは「ふふんっ!」とドヤ顔を披露していた。
「ラーメンはとにかく、速さが命! 麺が伸びるから、ともかく素早く作り上げる事こそが大切アル!」
ふふんっと言いながら、ジュールは【アイテムボックス】から鉢巻を取り出して、クルクルッと自分の頭に巻き付けていた。
鉢巻を頭に巻き付けて、気合を入れたジュールは、ラーメンを熱く語り始める。
「1つ目は"麺"! コシがないふにゃふにゃとした『バリやわ』から、小麦の風味を強く感じるほぼ生麵の『湯気通し』! 皆さんの好みに合わせた8種類の硬さを、瞬時に合わせるアル!
2つ目は"スープ"! あっさりとした『しょうゆ』、コクがあり濃厚な『味噌』、濃い味と強いコクの『豚骨』、そして見た目と味が上品な『塩』! 今はこの4つだけだが、順次、美味しいスープを作るでヨロシ!
最後に、"具"! 『チャーシュー』や『もやし』、『煮卵』、『ねぎ』など様々な種類の具にて、皆さんの好みを反映して----」
熱く、熱く語るジュール。
そう語るジュールに、ポンッと肩を叩く私。
「おい、ジュール」
「なんですか、ススリア代表? この私のラーメン愛はまだ語り終わってないのでアルが----」
まだ語り足りないとばかりに、ジュールに対して、
「シガラキ代表、ラーメンのおかわりを申し込んでいるようですが?」
「はいっ?!」
「もう1杯! 今度は別の味で頼めるかな?」
シガラキ代表の言葉に、ジュールは「はい、喜んで!」と喜び勇んで厨房で料理を作りに行くのであった。
ジュールが部屋を出ていくのを確認すると共に、シガラキ代表はガシッと私の手を掴んでいた。
「実に良い! 実に良いじゃないか、あのゴーレムは! この
麺とスープ、それに具さえ変えれば、様々な好みに対応できる! 文字通り、『千差万別』----様々な味が披露できる! 是非、前向きに考えさせていただきたく思います!」
こうして、私はシガラキ代表の依頼を完了させ、新型シェフゴーレムのジュールを納品させたのであった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
----それから、しばらくして。
ドラスト商会の食堂では、大勢の
「へいっ! 『カタ麺しょうゆ』、『豚骨』、そして『バリやわ塩』! 3つ、お待ちっ!」
----バンっ!
ラーメン3杯をカウンターを置くと、待ち望んでいた商人達が取って行く。
そして、ジュールはそれを満足そうに見送ると、すぐさま次のラーメンの提供を始める。
ジュールのラーメン作りは、至極
麺の硬さは茹で時間などによって調整し、スープの方は
ジュール自身は"たれ"とお湯、そして麺を入れ、最後に具で飾り立てて完成。
ラーメン1杯を作るのに僅か2分、3分ほどという超高速で完成させていた。
美味しいということもあったが、その短時間で出せるという料理に、時間を気にする商人達の心にヒット。
さらには食欲を誘う美味しそうな匂いによって、人々は食堂の、ジュールのラーメン目当てに集い始め、当初の予定であった5割どころか、なんと8割もの商人がここのラーメンを食べに来るのであった。
「----はいっ! 新作の『魚介』、お待ち!」
【アルファ・ゴーレムサポートシステム】によるゴーレムの情報収集能力により、色々な味のラーメンも開発。
これもまたヒットの要因となり、最近では取引先、果てはライバル商会からも足しげく通う者もいるのだそうだ。
「大盛況のようだな、ジュール君」
「おや、シガラキ代表!」
シガラキ代表の姿を見つけ、4本足で器用に厨房から出ようとするジュール。
それに対し、「いや、大丈夫だ」とシガラキ代表に言われ、ジュールは厨房へと戻った。
「はいっ! 利益の件も、順調に伸ばしておりますアル!」
「あぁ、それは私も知っている。文字通り、『うなぎのぼり』の成長だね」
元々、ススリアが「安くて、速くて、美味しいラーメン作りをするゴーレム」として開発されたジュール。
1杯1杯の値段は安く、原価率は30%と低い数値ではあるが、そもそも社食用で、最初は儲けるなんて考えてないからこれで大丈夫。
しかし、取引先やライバルをも虜にするラーメン人気を見ると、シガラキ代表に欲が生まれる。
「(ふむ、原価率をもう少し上げるラーメン、つまりは高級志向のラーメンを作るようにも検討するか。今度、ススリア君とも話し合おうじゃないか)」
稼げるラーメン店の未来に瞳を輝かせていたシガラキ代表に、疑問符を浮かべながら、ジュールは注文はないかと尋ねた。
「そうだな……では、『チャーハンセットのしお』を貰おうか」
----ざわっ!!
ジュールの言葉に、並んでいたお客がざわつき始める。
何故なら彼らの頭の中には、「ここはラーメンしかない」と聞かされていたからだ。
「はい! 少々、お待ちを!」
ジュールはそう言うと、しおラーメンをササっと作り上げ、その横に【アイテムボックス】の中から取り出したチャーハンを置く。
「はいっ! 期待の新作、チャーハンとしおラーメンのセット、お待ち!」
「あぁ、ありがとう」
皆の視線が注がれるのを感じつつ、なにも気付かない振りしながらシガラキ代表は受け取ると、席へと移動する。
そして、パラパラの熱々チャーハンを口にして----
「あぁ! これは、ラーメンに合う! 絶対に合う!」
----シガラキ代表は、美味しく食べ始める。
代表権限で早速仕入れておいた、"今日から発売するがメニューには書かない"チャーハンという、ラーメンに合うサイドメニューを。
----ゴクリっ。
誰が喉を鳴らしたかは、分からなかった。
しかし、次の瞬間には、ジュールの前には、多くのお客が我先にと集っていた!
「俺も! チャーハンセット! しょうゆで!」「ずるいぞ、俺が先だ! 俺はチャーハンとしおだ!」「ふっ、ここは豚骨が一番に決まっておる」「お前、肉は無理って言ってただろう?! いまさら、肉大丈夫とか、粋がるな!」「ジュールママは、種族的に食べられないと思っていた食材を食べさせてくれたんだ!」「おい、こいつママとか言い出してんぞ?!」「ふざけんな、私のママだ!」
醜く言い争うお客たちを見ながら、これぞ代表としての特権とばかりに、優越感に浸るシガラキ代表なのであった。
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